表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/208

視界の月夜六話2

 「はっ!」

 ルルは急に我に返り、手を離した。


 「……ルル?どうした?」

 「わ、私、今何をしていたの?」

 「……?覚えていないのか?」

 ルルの言動に逢夜は眉をひそめた。

 

 「お前はさっき、俺の着物の袖を引っ張っていたぞ。」

 「え?……なんでそんなことを……。」

 「無意識か?」

 ルルの戸惑いに逢夜は首を傾げた。


 「なんでそれをやったのかよくわからない……。あ、あと……それからこの辺……私、見たことがあるような気がするの。」

 ルルは不思議そうに言葉を発すると駕籠についている窓から外を眺めた。

 窓の外は逢夜がセツ姫と共にいた辺りの山麓に近かった。


 「……お前……まさか……本当に……セツと関係が……。」

 逢夜はルルの反応を見てなんだか胸が高鳴っていた。もうずっと前に解決したはずの気持ちが溢れてくる。


 「逢夜……。」

 ルルは逢夜の表情で悟った。


 ……そっか……逢夜は私じゃなくてセツ姫さんが好きなんだ……。今も……好きなんだ……。私じゃなくて……セツ姫さんが。なんだろ……こんな気持ちになっちゃいけないのに……切なくて見捨てられたみたいで……苦しくて……セツ姫さんが憎い……。


 ……だめだよ……憎んじゃいけない……私が憎むなんておかしいよ……。

 ……そもそも……私が勝手に逢夜を好きになったんだから……。


 「うう……。ダメなんだよ……こんなの……。」


 ルルははち切れそうな心を必死で押さえつけ、下を向いた。しかし、涙を抑える事ができず、湧き上がってくる気持ちも抑えきれなかった。


 「ルル……。すまねぇ……。少し前にお前の瞳にセツが映ってから俺はお前とセツを重ねてしまっているようだ。だが、ルルはルルだ。ルルはセツじゃねぇ。」

 逢夜がルルに優しく言った。だがルルは感情が抑えられなかった。

挿絵(By みてみん)

 「もう優しくしないでよ!どうせ私なんて……もうこの世界にいらない存在!逢夜だって私を最終的には殺すつもりなんでしょ!私は誰にも愛してもらえない!ずっと一人で頑張ってきたのに!」

 ルルは泣きながら叫んだ。


 ……私は何を言っているの?こんな子供みたいに……ただ、セツ姫さんに嫉妬しているだけじゃない……。逢夜が振り向いてくれないのを逢夜にあたってどうするの?

 ……こんなんじゃ……好きになってくれる前に嫌われちゃうよ。


 「ルル……俺達、まだ会って間もないじゃねぇか。俺の気持ち、お前は完全にわかってない。俺はセツが映る前からお前を助けようと全力で動いていた。絶対に見捨てない……そう心に誓って動いた。少なくとも俺はお前がこの世界に必要のない神だとは思っていない。お前が一人で頑張ってきたことはお前の一人暮らしを見ていればわかる。」


 逢夜はまたルルをそっと引き寄せた。


 ルルは逢夜に逆らえなかった。ルルは本当に逢夜に恋をしていた。


 ……逢夜に嫌われたくない……。


 「……ごめんなさい……。私……場違いな事言った……。ただセツ姫さんがうらやましかっただけなの……。お願いです。嫌いにならないで……私を一人にしないで……。お願い……お願いします。」

 ルルは先程言ってしまった言葉に謝罪し、懇願した。


 逢夜はルルを抱きながらルルの耳元でささやいた。


 「わかっているよ。……お前は俺が来る前も一人で頑張っていた。積極的に人々の厄を受けて処理していたんだろ?お前の内部解析をした時にわかった。


 大丈夫だ。ひとりにはしねぇよ。嫌いになんてならない。むしろ、さっきも言ったが俺はお前が好きだ。ただ、セツとの関連を切る事ができなくてな……。こんな気持ちでお前に答えたら失礼になると思ったんだ。


 そんで、俺はわかった。俺は優しい女が好きなんだなってな。その……お前みたいな……。……いや、今のは忘れてくれ。何言ってんだ。俺。」


 逢夜は頬を赤く染めながら頭を振った。


 「……逢夜……ありがとう。ごめんね。私もどうかしてたよ。ほんと……どうかしている。ここまで逢夜に助けてもらっておいて自分勝手な事言ったよ。もし、私がこの世界にまたいられるようになったら……ちゃんとお礼するね。」


 「そんなのいい……と言いたいところだがルルのお礼、ちょっと気になるな。だからありがたく受け取っておくぜ。」

 「うん。」

 逢夜の言葉にルルはそっとほほ笑んだ。


 「お話の所、申し訳ないよい!山麓の中に不思議な石碑が置いてあるよい?関係あるかわからないが行ってみるかよい?」


 会話がひと段落した所で鶴が声をかけてきた。今の会話が全部筒抜けだったと知ったルルは顔を真っ赤にして手で顔を覆った。


 「鶴、ベストなタイミングだな。不思議な石碑か。ちょっと降りてみるか。……ルル、どうする?」

 逢夜はそっとルルを離すと優しくほほ笑みながら声をかけてきた。


 ルルは赤い顔をさらに赤くすると小さく頷いた。


 「行こう。ちょっと外の空気も吸いたいし……。」

 「ああ、じゃあ行こうか。」

 逢夜は鶴に降りるように言った。鶴は「よよい!」と返事をするとゆっくり下降していった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ