視界の月夜六話1
静かに駕籠は鶴により飛んでいく。逢夜が話し終わった時にはもう長野に入っていた。
逢夜の話を一通り聞いたルルはなぜか目から涙が零れた。
……あれ?私……なんで泣いているの?この感情は何?すごく切なくて胸を締め付けられる。セツ姫さんって人の事、全く知らないのにすべてを知っているような気がするの……。
逢夜は話し終わってからルルが泣いている事に気が付いた。
「ルル……こんな辛い話しして悪かったな。俺がセツにした事はどの女も嫌悪すると思う。ショックを受けちまったか?」
逢夜が心配そうにルルの肩を抱いた。ルルはゆっくりと首を横に振った。
「……わからない。すごく切なくて胸が締め付けられるの。苦しいの……。」
ルルはわけのわからない体の震えに戸惑いながら逢夜を見上げた。
「……俺が嫌いになっちまったか?」
「違う!私は逢夜の事好きだよ!……あ……。」
ルルは咄嗟に出てしまった言葉に顔を赤く染めた。
「俺が好き?そうか。なら良かったぜ。俺はてっきり嫌われたかと思った。」
逢夜はほっとした顔をしていた。それを見てルルは必死にそっちの意味ではない事を言おうとしていた。
「ち、ちがう……。単純な好き……じゃなくて……異性として男の人として見てるって事……だよ。」
ルルは顔を真っ赤にしながら逢夜の胸に顔をうずめた。こんな切ない話を聞かされた後に自分が逢夜に告白するとは思っていなかった。恥ずかしくて逢夜の顔を見る事ができない。
……きっと場違いな女って思われてる……。
ルルは言ってから後悔した。
「そうか。気持ちは嬉しいが俺じゃなくて別の男を選んだ方がいいと思うぜ。俺もお前は好きだがな。……俺は本来、現世にはいない。今はKの力でこちらに来ているんだ。だからな……俺を好いても俺はお前と一緒にいられない。」
そう切なげに言うと逢夜はルルの頭をそっと撫で、グッと引き寄せた。ルルは力強い腕に引き寄せられて小さく呻いた。
「あっ……。逢夜も……私の事好きって思っているの?」
「ああ、好きだがそっちの好きかはわからねぇ。だがお前にはなぜか引き込まれる。まだ会ってからそんなに時間が経ってねぇのに……お前から離れられない。お前に飲まれそうで俺は少し怖えんだよ。だからな……異性とは見れない。みちゃいけねぇと思っている。だから……もう少し待ってくれ。今はまだ返事はできねぇがそのうち、絶対言う。」
「あ……べ、別にいいの……。私はちゃんと言っておこうかなって思っただけで……ごめんね。迷惑な事言って……。」
ルルは慌てて逢夜から離れた。逢夜がオブラートに包んで断ったのだと思った。
「迷惑じゃねぇよ。俺はお前に想ってもらって嬉しいぜ。こんな事をしている場合じゃないがルルの顔を見ていたらなんだかよくわからない気持ちになってきた。」
逢夜が軽くほほ笑んだ時、ルルが上目遣いで逢夜の着物の袖を引っ張っていた。
「!」
逢夜は目を見開いた。この行動はセツ姫がおねだりをする時によくやっていた行為だ。
……セツ……?おかしいぜ……なんで俺はさっきからルルを見てセツを思い出してんだよ。
……この子はルルだ。セツじゃない。ルルとセツを重ねているなんてルルに失礼だろ……。こんな中途半端な気持ちでルルの好意に答えちゃいけねぇ。
逢夜は黙ってルルを見ていた。




