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視界の月夜五話2

 それからすぐに逢夜とセツ姫は結ばれた。

 四女なので戦略結婚には使われず家臣と結婚させて結束と信頼を増やす方に使われたようだ。


 セツ姫はいつも切なげに笑う少女だった。歳は十四歳だ。特別可愛い感じも美しい感じもない平均よりも少し下かもしれないぐらいの女だった。つまり容姿はあまり良くない。


 「逢夜様、お元気ですか?」

 セツ姫は紅潮した頬で嬉しそうに逢夜に声をかけてきた。セツ姫は逢夜の事を好いているようだった。


 「……?ああ、特に変わりはない。」

 セツ姫はときたまよくわからない事を質問してくる女だった。とりあえず逢夜は笑顔で答える。


 逢夜とセツ姫は近くの空き家をもらい、今はそこで生活していた。


 「逢夜様……。」

 セツ姫はやたらと逢夜に甘えてくる女だった。

 逢夜の着物の袖を軽く引き、頬を紅潮させて上目でこちらを見てくる。


 「仕方ないな……。」

 逢夜はセツ姫に流されたふりをし、いつも優しくセツ姫を抱いてやる。

 セツ姫の腰に手を回しながら逢夜は常に全く違う事を考えていた。


 ……そろそろ偽の情報を城に流し、この城と望月を争わせる……。この城の兵力じゃあすぐに壊滅、望月も俺がいるから大きな損傷を負うだろう。そんでこの女を殺して今度は他の郡に潜入し攪乱させる。

 ……ここの殿は今、俺に依存している……今がいい時なんだ。


 逢夜は形式的にセツ姫を愛撫する。


 「やはり逢夜様……お上手……ですね……あ……あんっ……。」

 セツ姫はいつも甘い声を出す。


 ……当然だろ。俺は忍だ。女をイカせて機密事項をしゃべらせるなんて事を普通にやっているんだぜ。こいつの性感帯がどこにあるのかなんてすぐにわかる。


 逢夜はセツ姫も手足のように扱っていく事にした。


 ……こいつを俺なしだと生きられないようにして噂はセツ姫から流してもらう……。


 逢夜は愛しいものでも見るかのような演技をし、セツ姫に覆いかぶさった。


**** 


 しばらくして逢夜の策略によりお互いが争いをはじめ、セツ姫の父親は討たれた。望月氏の方も痛手を負い、あちらこちらの国で小競り合いが始まった。


 燃え盛る炎の中でセツ姫は怯えた表情で逢夜を見ていた。

 セツ姫が十六になった年の事だった。雪がちらつくくらいの季節で夜中だった。


 「さて、お前も用なしだ。俺はこれから隣国に仕官する。お前にはここで死んでもらう。」

 「逢夜様……私はあなたに騙されたのですね……。」

 セツ姫は悲しい顔をしていた。


 「ま、これも仕事だ。俺は近隣の忍でもあり、甲斐に雇われた忍でもある。そして……ここに仕官していた武士でもある……。」


 「他の郡にも情報を流していたという事ですか……?」

 「ああ、その通りだ。じゃ、死んでくれ。」

 逢夜は冷酷な瞳でセツ姫を見ると腰に差していた刀を抜いた。


 セツ姫は切なげに涙で濡れた瞳を逢夜に向けていた。


 「……優しかったのも演技……お父様と仲良くなさっていたのも演技……。」

 つぶやくセツ姫に逢夜は刀を振りかぶった。


 その時、一瞬だけ妹の憐夜の顔が浮かんだ。憐夜もあの時、絶望的な顔をしていた。


 逢夜の妹憐夜は忍が嫌になり里を抜け出した。父を主とする凍夜とうや望月家は誰かが罪を犯すと連帯責任となる。逢夜は姉の千夜、弟の更夜に拷問じみた仕置きが来ないように逃げた憐夜を小刀で刺し、殺した。


 この異端である凍夜望月家にとって里を抜け出す事、つまり抜け忍になる事は大罪だった。


 逢夜は憐夜の顔を思い出した刹那、体が震えだし、気持ちが悪くなり吐いた。


 「ぐう……はあ……はあ……。」

 逢夜は苦しそうに呻き、その場に膝をついた。セツ姫は震えながら逢夜の様子を窺っていた。


 ……ダメだ……殺せない……畜生……どうなってやがんだ!


 憎しみに満ちた憐夜の顔、冷たくなっていく憐夜の体……逢夜にとって妹を殺した事はひどいトラウマだった。


 ……まずい……ここでこの女を殺さないとっ……。早く殺さないと……。


 「逢夜様……、私を殺せないのですか?やはりお優しいのですね。」

 「……そんなわけねぇだろ。来い!」

 逢夜は低く底冷えするような声を出すとセツ姫を連れ燃え盛る城から離れた。


 ……なぜ俺はこの女をここまで連れてきた?さっきの城ん中に捨ててくれば勝手に死んだじゃねぇか……。何やってんだよ。俺は!


 山の中へと入っていき、セツ姫を抱えて雪が積もる地面から木の枝へ飛び移った。

 そのまま走って行く。逢夜は動揺していた。


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