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視界の月夜四話4

 しばらくしてルルが落ち着いてきた。逢夜はそっとルルを離すと親指の腹で涙を拭ってやった。


 「落ち着いたか?まずは落ち着く事だ。そして自分の状況をよく見る。状況を分析できたら対策を考える。Kは寛容だ。原因は見つけさせるがそこから先は指示してこない。つまり俺達はどう動いてもいいって事だ。」


 「……そっか。じゃあ、私……どうしたらいいの?どうすれば……ううん、自分で考えなくちゃダメだよね……。」

 ルルは残りの朝食を平らげると食器をシンクに入れ、顔をはたいた。


 「……大丈夫だ。心を強く持てよ。ひとつ……俺に考えがあるんだ。」

 「考え?」

 ルルは再び椅子に座ると逢夜を仰いだ。


 「お前のシステム改変を視界内で行う事だ。ルルが眠って視界内にあるルル自身の世界へエネルギー体(魂)が行ったら俺が視界でルルの世界へと入り込む。わかっていると思うが俺は元々、霊体なのでどの世界にも入り込めるぜ。そんで、そこで俺達と同じKの使いである人形共にルルのシステム改変をさせる……。」


 逢夜はルルの向かいの椅子に座り、腕を組んだ。


 「よ、よくわからないけど……もうすがるものがないから私、頑張る!」

 「だが……これは失敗する確率が高い。はじめから言っておく。失敗の確率が高いんだ。」

 ルルの意気込みに逢夜は真剣なまなざしでルルに言った。


 「失敗って……?」


 「記憶を失くす確率も高いがルル自身が消えてしまう確率がかなり高い。……そして俺達とは仕組みが違う『Kの使い』の人形共が従うかはわからない。」


 「記憶を失くす……自分自身が消える……どちらにしても失敗したら別の存在になるか存在自体がなくなるか……なんだね?」

 逢夜の言葉でルルは下を向いた。


 「ああ、そうだ。他のやり方も……模索してみるからこのやり方は保留にしておくか?」

 逢夜はルルの体が震えているのに気が付き、提案を取り消そうとした。


 「……保留にできないよ……。だって私、このままだと人間にも迷惑かけているし、この世界をとても汚している……。私は神なんだよ……ちゃんと役割ができないと生きている意味も何もない……なくなっちゃうの。」


 ルルは唇を噛みしめる。逢夜はそんなルルをせつなげに見つめた。


 「……神さんってのはかなり重てぇもんを背負ってんだな。……ルルみたいな神は人間が作りだした神話とか本当に生きていた人間が悲劇的に死んだりして言い伝えになったりとか……そういう話があって生まれたはずだ。ルルはなぜ神としてこの世界に出現したのかわかるか?」


 逢夜に問われ、ルルは首を傾げた。


 「……たぶん、そういうのあったと思うけど覚えてないの。私の気質もこの性格もきっとどっかの物語かそれともお話になった人間かの性格なんだろうと思うんだけど……思い出せない。」


 「そうか。じゃあ、まずそれを調べに行くとしよう。」

 逢夜の言葉にルルはハッと顔を上げた。


 「どうしてそれが必要なの?」


 「……ルルの気質がわかれば他の打開策も見つかるかもしれない。もし、システム改変する事になるとしてもきっと役に立つと思う。ルルが本来処理するべき厄の種類もわかるだろ。」


 「知らないより知った方がいいかな。……ありがとう……逢夜。」

 ルルは逢夜に切なげに笑った。


 「……っ!セツっ……?」

 逢夜は突然、目を見開き誰かの名前を呼んだ。


 「……セツ?」

 ルルは逢夜に小さく尋ねた。


 逢夜はハッと我に返ると目をこすった。逢夜には一瞬だけルルがセツという少女に見えた。ルルの表情の奥にセツが映った。


 ……なんで一瞬ルルがセツに見えたんだ?今の顔……セツにそっくりだった……。セツはもうとっくに死んだ。俺が生きていた段階の話だぞ……。まさか……ルルは……いや、偶然に思い出しただけだ。だが……なぜ今頃……。


 「あの?逢夜、大丈夫?セツって誰?」

 ルルに問われ逢夜は動揺した頭を元に戻し口を開いた。


 「あ、ああ、昔の事を思い出しただけだ。ルルの一瞬の表情が昔、関わった女の顔に見えた……。わりぃな。いきなり変な事叫んじまって。」


 「え?……いいよ。……ねえ、逢夜が私の表情でその……セツって人の事を思い出したって事は私とセツって人は何か関係があるかもしれないね。」


 「たまたま思い出しただけかもしれねぇぞ。……だが……調べてもいいかもしれない。昔話になっている可能性もある……かもしれないな。」

 逢夜は今もルルをよく見ていた。しかし、もうセツという少女の顔は映らなかった。


 ……死んで視界に行ってから俺はセツに会ってねぇ……。どこにいるのかもわからない。彼女のエネルギー体(魂)が他のエネルギーに分解されてもう消滅したかもしれないな。


 逢夜は一つため息をつくと立ち上がった。


 「あ、ねえ、そのセツって女の人をどうやって調べるの?」

 「死んだ地へ行けば何か残っているかもしれねぇな……。それは俺が知っている……だいぶ遠いぞ……。」

 逢夜はまだ戸惑っていた。ルルは逢夜を見ていたらなんだか少し余裕が持てた気がした。


 「……じゃあ、その場所に向っている間に逢夜と何があったか教えてよ。」


 「……ああ。もう古い記憶だから引きずってねぇしいいぜ。だが……少し気分の悪い話になるかもしれねぇ……。とりあえず……ほら、いくぞ。」

 「……うん。」

 逢夜は顔を両手でパンと叩くとルルの手をそっと取った。


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