視界の月夜二話3
しばらくして頭の中に逢夜の声が響いた。
「……ん?」
ルルはゆっくりと目を開けた。なぜかやたらと視界が低い。
先程から誰かの手がルルの頭をそっと撫でている。
「ん!?」
ルルはぼうっとしていた頭から一転、状況を理解し、勢いよく顔を上げた。
「お、やっと起きたか。そろそろ着くぜ。」
顔を上げた先に逢夜がいた。
「私、寝ちゃったの?」
「ああ、ぐっすり眠ってたぜ。体勢が辛そうだったんで俺の太ももに頭乗せて横にしたんだ。」
逢夜の言葉にルルの頬が赤く染まっていく。状況を思い浮かべ、あまりの恥ずかしさに飛び起きた。
「ひ……膝枕的な……。」
「そうだな、特別サービスの膝枕だぜ。それからルルがなんだか子供っぽい笑みを浮かべて寝てたからよ、知らぬ間に頭撫でちまってたぜ……。」
逢夜は楽しそうに笑っていたがルルは体中が火照ってくるのを感じていた。
「あ、う、うん。で、もう着いたの?」
ルルは無理やり話題を変えた。
「ああ、もうちょっとだと思うぜ。」
「よよい!着いたよい!」
逢夜の声と重なるように鶴の声が聞こえた。
駕籠は知らぬ間に地面についていた。駕籠についている小窓から外を見るときれいな海が広がっていた。
さざ波とカモメか何かの鳥の鳴き声が外で聞こえる。
時刻はわからないが夕日が海を橙色に染めていた。
「よし、じゃあ出んぞ!」
「う、うん。あれ……?地下だったのにいつ外に出たんだろう?」
「そりゃあ、俺もわからねぇ。」
とりあえず逢夜とルルは駕籠から外へゆっくりと出た。
砂浜に足をつけると潮風のいい香りがした。
「よよい!では。」
「え?あ……。」
鶴はルル達がお礼を言う前にさっさと海の彼方へと飛び去って行った。
「行っちゃった……。」
「鶴も忙しいんだな……。」
ルルと逢夜は戸惑いつつ、近くにある運命神の神社へと足を進めた。砂浜を抜けて一般道を挟んですぐに長い階段が山の奥へと続いていた。山の上の方に鳥居が見える。
「……あれかな?」
「……だな。だがその前に……。」
逢夜が階段を降りてきた男に目を向けた。男は橙の長い髪に鬼のお面のようなものを被っており青い着物に袴を身に着けていた。
「あっ!みー君だ!」
ルルは逢夜が見ている方向を見、叫んだ。
「あれが天御柱神か。やっぱり、なんだか禍々しいぜ。」
逢夜がため息交じりにつぶやいた時、天御柱神、みー君がこちらに気が付いた。
みー君は足を速めて階段を降り、立ち止まるとルルと逢夜を交互に見つめて首を傾げた。
「俺になんか用か?」
「ああ、あんたが天御柱神か?」
逢夜の問いかけにみー君は「そうだが。」と淡々と答えた。
「この世界に厄がありえねーくらいに湧き出てんのを知ってるか?」
「ああ、俺もそれを調べている。片方はルル、で、お前は誰だ?」
みー君は逢夜を訝しげに見た。
「俺はTOKIの世界のシステムに関与しているKの使いだぜ。」
逢夜の返答にみー君は驚いていた。
「Kの使いだと?……なるほど……なんだかわからないが、これは現世の神が何とかできる問題ではないと。お前らが関わってくるとなるとお前らに任せた方が良いって事だな。」
みー君の言葉に逢夜は軽くほほ笑んだ。
「まあ、俺もまったくまだ掴めていないぜ。……それと、あんたは俺達の事、どれだけ知っている?」
逢夜の問いかけにみー君は首を横に振った。
「Kの使いについてはほとんど俺は知らない。Kについても俺は全くと言っていいほど知らない。できたら教えてほしいもんだ。」
「それはできねぇな。俺自体もよく知らねぇんだよ。Kには会った事もねぇ。この現世に来たのだって他のKの使いから厄について調べてこいって言われただけだしな。」
逢夜の言葉にみー君は何か考えるそぶりをしていたが、やがて口を開いた。
「……じゃあ、Kの使いもKに会った事がないってのか……。そうか。ふーん。ま、その話は今はいい。Kの使いだって言うお前にこの厄の件について俺が調べた事を教えてやろう。残念ながらあの厄の正体についてはよくわからんが……。」
みー君は腕を組みながら続けた。
「ここの神社で昨夜、神々の麻雀大会が行われていたんだ。それに出ていたある神が面白い事を言っていた。……厄除けの神がいる歯科医院の近くで最近、頻繁に弐(夢幻、霊魂の世界)、視界が開くんだと。」
みー君の言葉を聞いた逢夜は目を見開いた。
「ああ?あの歯科医の厄除けの神の男んとこかよ……。くそっ!あいつ、やっぱなんか知ってやがったな。っち、最初に戻りやがった……。」
逢夜は目を細め、鋭く言い放った。




