視界の月夜二話2
ルルと逢夜は表参道駅に行くために新百合ヶ丘駅から小田急線に乗っていた。逢夜は視界(夢幻、霊魂の世界)から来た幽霊なため人間の目には映らないので切符も買わずに改札を抜けた。
逢夜は電車に感動し「これが電車か。」と外の景色を楽しんでいた。ルルは人間の目に見える神なのでとりあえず、静かにしていた。
小田急線を降りて乗り換え、地下鉄東京メトロ千代田線の表参道の駅で降りた。
地下鉄特有の風が通り抜けていき、千代田線は次の駅へと向かって行った。
ルルは去っていく電車を見つめながら息を吐いた。
「ふう……ついた。そういえば……逢夜はどうして天御柱神に会いたいの?」
「おい……。今更その質問かよ……。まあ、いい。昨夜のあの黒い塵は厄だと説明したよな?……厄なら厄神の元締めに問いただした方が手っ取り早いだろ?簡単な理由だ。後はもしかしたらその神が不当に厄をばらまいているのかもしれねぇしな。」
逢夜の言葉にルルがすぐさま声を上げた。
「みー君がそんな事するわけないよ。」
「……みー君?」
ルルの発言に逢夜は首を傾げた。
「あ、えーと……彼は天御柱神だから皆みー君って呼んでいるんだよ。みー君は絶対に厄をばらまいたりはしないよ。そもそも、それは本当に厄なの?なんで目に見えるの?」
ルルは逢夜を訝しげに見た。
「あれが厄なのは間違いねぇ。昨日も言ったがあの塵は人間の目には映ってねぇんだ。俺達と神だけに見える。そんな厄もかなり特殊だが厄なもんは厄だ。俺も実際よくわからねぇ。だからそのみー君とやらに聞き出すんだ。疑っているのは万が一だぜ。」
「そ、そっか……。じゃあやっぱり早く天御柱神、みー君に会わないとね。」
ルルは大きく頷いたが神々が利用するという電車がどこにあるのか知らない事に気が付いた。
「あ……こっからどうすればいいの?」
「とりあえず、階段を上って霊的空間を探そうぜ。あの本に人間が使っている線路じゃないって書いてあったからな。」
逢夜は戸惑っているルルを連れて階段を上り始めた。
その階段の途中、外の光が見えてきた辺りで不自然な空間があった。
壁にぽっかりと穴が空いているような感じだ。
「逢夜……ここ……。」
「ああ、おそらくこの奥だな。」
霊的空間は人間には見えない。不自然な穴が空いているのに人々は何事もなかったかのように通り過ぎていく。
逢夜とルルはとりあえず辺りを見回してから中へと入った。
中は駅のホームのようになっていたが線路がなかった。
そのホームには様々な神々がいた。
「ほお……。本当に神専用の電車があるとはな。」
逢夜が感心していると電車とは似ても似つかないものが飛んできた。
「ん?」
逢夜とルルは目を見張った。ホームに現れたのは電車ではなく、小さな窓付きの駕籠を引いている複数羽の鶴だった。一羽に一つの駕籠を引いている。
「鶴だ……。」
しばらく茫然と見つめていると待機していた神々が次々と鶴が引いている駕籠に入って行った。そしてそのまま、鶴は低空飛行し、駕籠を引っ張り高速で進んでいった。
駕籠は電車のように動き出し、あっという間にルル達の前から消えた。
「鶴っていうと……神々の使い……だったよな?」
逢夜が頭を抱えつつ、ルルに目を向ける。
「う、うん。鶴は普通に呼べばどこだって来るけど……移動したいなら駕籠付きの鶴を呼べばいいだけで……。どこでも呼べるよ?ここに来なくても……。」
「ふーん……。ああ、そうか……わかったぜ。ここは目的地にお忍びで行きてぇ時に使う場所だ。外で鶴を呼んだら普通に他の神々にバレるからな。」
逢夜が納得した顔で頷いた。
「ま、まあ、そうなのかな……。一応、ここまで来ちゃったし、乗る?」
「そうするか。」
逢夜とルルはとりあえずホームで鶴を待ってみる事にした。
すると、しばらくして一羽の鶴が駕籠を引きながら飛んできた。
「お、来たぜ。」
「よよい!行き先を提示してくださいよい!」
ルル達の前に止まった鶴が変な抑揚をつけながら話しかけてきた。
「え、えーと……天御柱神がいるっていう運命神の神社まで。」
ルルが行き先を思い出しながら言う。
「よよい。運命神ってーと……天導神の神社ッつー事でいいんかい?」
鶴は羽をパタパタとさせながら駕籠の中へ入るよう促した。
「う、うん。それで。」
ルルと逢夜は鶴に促され駕籠の中へと入った。駕籠の中は意外に広く、電車のボックス席の一角のような感じだった。
「あんた達も雀荘かい?運命神に色々握られて冷や冷やするんがハマるんかいね?」
席に座ったルル達に鶴は楽観的に話しかけてきた。
「え?雀荘?違うよ。そんなギャンブルしに行かないよ!え?じゃあ、何?みー君は麻雀やりに運命神の神社に行ってたわけ?」
「いんやあ、そりゃあわからん。だがやつがれが天御柱神を乗せたよい!」
「えー!」
鶴の一言にルルは驚いて叫んだ。
「ルル、うるせぇ。……おい、鶴、さっさと行ってくれ。」
「わかったよい。」
逢夜の一声で鶴が動き始めた。
駕籠がふわりと浮き、スピーディに進み始める。乗り心地は電車のような飛行機のような不思議な感じだ。
「逢夜、みー君はこれに乗って運命神の神社まで行ったんだよ!つまりお忍び。なんか怪しいと思わない?」
ルルが顎に手を当てて考えるポーズをとった。
「そんなの、遊びに行くのを誰かに見られたくなかったってのもあるじゃねぇか。あんた、さっきと言っている事逆だぜ。天御柱神の事、疑ってんじゃねぇか。」
逢夜はため息をつきながら背もたれにもたれかかった。
「そ、そんな事ないよ!で、でもちょっと怪しいなって思っただけで……!」
「わーったよ。そんなムキになんな。ちょっとからかっただけだぜ。」
逢夜は軽く笑うとルルの額をちょんと突いた。
「……!」
ルルは顔を真っ赤にして逢夜の隣で身を縮めた。
「まだ着かねぇからしばらく寝てな。」
「さっきまで寝てたもん……。寝られるわけないじゃん。」
逢夜の言葉にルルは小さくつぶやいた。
しかし、その数分後、ルルは深い眠りに落ちていた。




