学園のまにまに 俊也2
俊也は知らぬ間に意識を失っていた。
「んむ?」
目を覚ますと青空が広がっていた。どうやら大の字で寝ていたようである。
「ん?なんで寝てる?なんで青空……」
俊也が寝ぼけ眼で独り言を話しているとライが俊也を覗き込んできた。
「気がついた?」
「うわわっ!?」
俊也は目を見開いて飛び起きた。
今ので完全に目が覚めた。
「ちょっ!ここどこ!?」
俊也はやっと我に返り慌てて叫んだ。
気がつけば白い花畑のど真ん中で寝ていたのだ。驚かない人はいない。青空は遠く高い。
「ここはあなたの先祖が住んでるとこよ。連れてってあげるって言ったでしょ?」
ライは少し興奮ぎみに俊也を立たせた。
「いやまあ……言ってたけど……」
「こちらに来れるドアを人間の心を使って描いたの。芸術は爆発だからね」
ライは胸を張って答えた。後半はあの有名な芸術家の言葉を真似したのだろうが前半は俊也にはわからない。
合わさると余計に意味不明だ。
「ま、まあいいや。ここで先祖さんに会えるの?」
「会えるよ!あそこにおうちがあるでしょ?」
ライは白い花畑の先を指差した。
「あの日本家屋に住んでるの?」
花畑の先には古そうだがかなり広めな日本家屋が堂々と建っていた。こう言ってはいけないのかもしれないが、なんというか不思議と生気を感じられない。
廃屋には見えないのに人の気配が感じられないのだ。
……うまく言えないけど、住んでいる?のか?
「何者だ」
ボケッとしていたら鋭い声が聞こえた。
「あ、更夜様!はあ……」
ライが突然潤んだ瞳で俊也の後ろを見て叫んだ。俊也は眉を寄せつつ振り返る。
「更夜様ってどっかで……うわっ!」
振り返った俊也は驚いて尻餅をついた。俊也のすぐ後ろに眼光鋭い侍が厳しい顔で立っていたからだ。
銀髪を後ろでひとまとめにし、右目を髪で隠している意外と若そうな青年だった。
なんだか知らないが最新のオシャレな眼鏡をしている。
「ひぃ!こんなとこで死にたくない!」
青年から溢れる殺気のようなものに俊也は半泣きで後退りしていた。
「いや、別に殺すつもりはなかったのだが……すまん。忍の癖が残っていてな。ライ、このお方はどちら様だ?」
青年はため息をひとつつくとライに目を向けた。
ライはうっとりした顔を慌てて戻すと俊也を戸惑った目で見つめて口を開いた。
「あ、えーと、更夜様のご親族で……その……子孫と言いますか……」
「子孫?俺には子はおらんぞ。望月家なのか?」
更夜と呼ばれた青年は俊也を特に表情なく見つめる。
「あ……はい。望月俊也です……けど……」
完璧にビビりまくっている俊也は青い顔で更夜から少しだけ目を離した。
「ふむ。お前が望月俊也か。お兄様から聞いているぞ」
「おにい……あ!望月逢夜さん!?」
「そうだ」
俊也の言葉に更夜は若干頬を緩めた。
それを見たライが顔を紅潮させ、「かっこいい……」とうっとりした顔でつぶやいていた。
……ライさんはそういえばこの人?のファンとかなんとか言っていたような……。
俊也は更夜を観察した。
祖先だったとしてもなんだか自分とは似ていない。
……そういえば忍者の家系だったってサヨが……。
そんなことを思っていたらライが頬を紅潮させたまま俊也に「私、ちょっと更夜様とお話を……」
とモジモジしながら言ってきた。
「え?僕はどうすればいいの?これから……」
俊也は焦ったが隣にいた更夜に肩を掴まれ古民家の方を向かせられた。
「あなたの先祖は中にいる。肉体を持つ霊体が来た事についてライから話を聞かせてもらおうか」
「ちょっ……置いてくの!?僕を!」
俊也の叫びもむなしく更夜は一方的に言うとライを連れて花畑の方へと行ってしまった。
「終わった頃に迎えに行くねー!」
ライの元気な声だけが流れ、俊也はその場に取り残された。
「……なんか怖いけど……行くしかないよなあ……」
俊也はため息をつくと古民家へと足を向けた。




