学園のまにまに十二話1
「はっ!!」
俊也はベッドから飛び出す勢いで起きた。
今日は土曜日だ。秋にある文化祭が近づいてきて、少しワクワクしているそんな時期である。
最近は寒くなってきて朝にきれいに起きることが難しくなってきていた。特に休日は。
時計を確認すると午前十一時を過ぎていた。
「寝過ぎた!」
いつもはこんなに慌てないが今日は別である。
今日は午後から『超常現象大好き部』の部員、時野アヤ、日高サキ、妹のサヨと共にオータムフェス音楽祭に行く予定なのだ。
……あれ?
寝起きの俊也は首を傾げた。
不思議とそのフェスとやらに行ったばかりな気がするのである。
「正夢?たしか……コウタ様が……」
ぼんやり思い出しているとサヨの声が響いてきた。
「おにぃー!なにしてんの!昼御飯!」
階段下からサヨの怒鳴り声が聞こえた。実家は二階建てで二階に俊也、サヨの部屋がある。サヨは昼御飯ができたことを何度も階下から声を張り上げて伝えていたらしい。
「ごめーん!今起きた!今行く!」
昼まで寝ていた俊也は慌てて叫ぶと階段をかけ降りていった。
一階の食卓には温かいごはんが出来上がっていた。味噌汁と焼き鮭、漬物、飯。朝ごはんのようなメニューだが休日の昼はこんなものである。
食卓には半分キレていたサヨと父親の深夜がいた。
母親は休日はどこかに遊びに行っていることが多い。
今日も朝早くからいないのか姿が見えない。
元気な事だ。
「冷めるじゃん。マジない」
うんざりした顔のサヨに俊也はあやまりながら食卓につく。
「これ作ったのって……」
俊也はサヨが作ったのかと確信し驚きの目で見つめた。
「俺だよ……」
静かに父、深夜が声をあげた。
「え!?とーさんだったの!?」
「とーさんじゃ悪いのか……」
深夜は俊也の発言に肩を落とした。
「い、いや悪くないけどなんでまた……。いつもは母さんが昼用意しておいてくれるじゃないか」
「今日は置いといてくれなかった……。なあ、母さんは父さんを置いてどこに行ったのかなあ……」
深夜は暗い顔で俊也に尋ねてきた。
「し、知らないよ……。いつも二人で遊びに行ってるのに珍しいね?てか、ほぼ父さんが背後霊みたいに毎回ついてってるだけだけど。母さんがいつもしてくれる事を忘れちゃうなんてよっぽど今日を楽しみにしてたんだな」
「うわーん!しゅんやー!父さんは嫌われた!!」
突然の父の涙に俊也ははにかみ、どうしようか迷った。
「たまにはいいじゃん。今日は六本木で女子会なんだってさ。パパがついてくると邪魔だったんでしょ」
「サヨォ……サヨは今日、パパと遊んでくれるんだよな?な?」
すがりつく勢いで深夜はサヨに子犬のような目を向ける。
それを無情にも払いのける娘サヨ。
「はあ?やだ。忙しーもん」
「ガーン……。じゃあ俊也は?」
深夜はすぐに俊也の方を向いた。
「あ……えっと……その……ごめん。今日はサヨと……」
「サヨとぉ!?なんで俺だけおいてけぼりなの!!家族離散だー!」
「そんなんで離散しないし、すぐ帰ってくんだから叫ぶな!パパはお留守番ね!今日は!わかった?」
サヨに言いくるめられ深夜はしゅんと再び肩を落とした。
どうでもいいが深夜は俊也には父さん、サヨにはパパと呼ばせている。どちらの響きも好きなようで男の子、女の子両方授かって良かったと泣きながら言っていたのを俊也は思い出した。
少しわからない父親である。
わからないついでだが深夜はサヨと同じく神が『見える』体質のようだ。
深夜とサヨは昔から奇行ばかりだったがなんだかそれが当たり前な気がしていた。
俊也は焼きたての鮭とごはんを頬張りながらふと、深夜にも聞いてみようと思った事ができた。
「ねぇ、父さん」
「なんだ?」
「父さんは神様が見えるんでしょ?サヨと同じで」
「見えるよ?それが?」
深夜は問題あるか?といぶかしげな顔をした。深夜もサヨと同じ、見えることを不思議とも思わないらしい。
「先祖に……会ったことはある?」
「先祖……そういえば……縁結びの神の銀髪の青年が先祖に近いとか?」
「望月逢夜さんだ」
「あ、そうそうそんな名前」
深夜は味噌汁をズズッと飲みながら答えた。
「ああ、そういえば絵括神ライちゃんも望月家に縁があるとか。逢夜さんの妹が……たしか、憐夜さんだったな。絵描きさんだったけど若くして亡くなって供養のために彼女を祭った時に神様としてライちゃんがうまれたらしいよ」
深夜の発言に俊也は「ん?」と眉をあげた。
絵括神ライ……どっかで聞いたような……。
夢かわからないけどフェスにいた金髪の女の子……。あの子がたしか……。
なんとなく考えてからふと時計を見ると十二時半を過ぎていた。
「うわっ!時間が!」
「おにぃ、ベラベラしゃべってないで早く食べて!」
サヨに急かされながら俊也は昼食を終えた。




