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旧作(2016〜2024完結)「TOKIの神秘録」望月と闇の物語  作者: ごぼうかえる
龍神ヤモリが見ているもの再び
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学園のまにまに十一話4

そんな会話を聞きながら俊也は思い出した。そういえば龍神ヤモリさんとやらに聞いた話でイナという暴食の女の子稲荷神がいると。


「彼女だったのか」

俊也の言葉にイナは首を傾げたが満面の笑みで頷いた。


「お久しぶりっていうの忘れてた!お友達になってたもんね?」

一度だけ会っていたはずの俊也だったがあの時は見えていなかった。知らぬ間に友達になっていたとは。


「まあ、いいか。お友達だね。あの時は屋台の食べ物が十個二十個単位でなくなるから化け物かと思ったけど普通の女の子みたいだ」

俊也はとりあえず流す事にしてイナと友達になってあげた。


「俊也君、本当に見えるようになったのね」

時野アヤがステージを楽しみながら俊也に尋ねてきた。


「うん。見えるみたい」

ステージではノノカさんがバラードを伸びやかなきれいな声で歌っている。


「深入りはしない方がいいわよ」

「深入りしてるつもりはないんだけどなあ」


「サヨはこの現象を当たり前にできる。だけど、俊也君は興奮を覚えながら見ている。それは誰かから利用されたり深入りさせられたりする精神状態。気を付けてね。私が見ているから大丈夫なはずだけれど」

時野アヤが俊也から離れないのはそういう理由があったらしい。


……まあ僕のことが好きなわけじゃないよな……トホホ。


俊也は軽くうなだれた。


「さいっこう!気分アゲー!!」

「いやっほぅ!!」

いつの間にかライブは終わっていてやたらと騒いでいるサヨと日高サキがスキップしながら戻ってきた。


「あ……」

俊也は戻ってくる二人の横を恥ずかしがりながら歩いている女の子に目がいった。


その女の子は麦わら帽子にピンクのシャツ、オレンジのスカートをはいていた。サヨや日高サキと比べるとかなり地味だ。


……あの子、龍神ヤモリさんだ。

前に一度会ったな。


ん?龍神ヤモリ?


「龍神か!!」

突然叫んだ俊也に時野アヤとイナは驚いて跳ねた。


「な、なに?どうしたの?」

「そうだよ!ヤモリは龍神だよー!」

時野アヤとイナは不思議そうに俊也を見ていた。


……そうか。皆普通なのか。こんなイレギュラーな現象が。


一年前の夏、俊也は龍神ヤモリを人間だと『思い込んでいた』。


名字が龍神なのかと不思議に思っていたが龍神は言葉通り龍神だったのだ。

誰かが彼女は人間にも見える神だと言っていたような気がする。

それを俊也は聞いていたはずなのに『聞かなかった』。


まるで聞いてはいけないみたいに。


……見えない普通の人間はおかしな現象を『なかったこと』にするのか。

そんな事を思っていると頭の中から突然声が聞こえてきた。

その謎な声はすぅっと自然に俊也に入り込んでいった。


「あ……なるほど」

声は俊也をなぜか納得させた。


……見えない普通の人間は見えないようにデータの変換が行われている。見える人間にはそのデータ変換をするコマンドがない。


「俊也君?」

時野アヤに覗き込まれ俊也は我に返った。


「え?な、なに?」

「おにぃボケてるー!」

「はい、今言った事はなんでしょーか!」

サヨと日高サキがイタズラな笑みを浮かべながら俊也をからかった。


「ごめん。聞いていなかったよ」

「これから皆でアリスカフェ行かない?だって」

サヨ達の隣に静かに地味にいたヤモリがぼそりとつぶやいた。


「えっ……またあのフリフリゆめかわ?だっけ?のとこ?」

「わーい!アリスー!なんだかわからないけど行くー!俊也もいこー!」

イナが小さい体をフル活用して跳び跳ねていた。

小さい女の子と友達になった手前断れず俊也は頷くしかできなかった。


「わ、わかったよ……」

「じゃあ今すぐ行こ!秒で!」

サヨの言葉が決定を意味し、俊也は女の子のカフェに行くことに再びなってしまった。


……まあいいか。


俊也はライブの感想を言い合っているサヨと日高サキを眺めながら小さくため息をついた。

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