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旧作(2016〜2024完結)「TOKIの神秘録」望月と闇の物語  作者: ごぼうかえる
龍神ヤモリが見ているもの再び
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学園のまにまに十一話3

神社の横に即席な壁ができており、ミュージックフェスタと張り紙がされていた。この壁に囲われた中がステージのようだ。

普通に中にいても外にいても音は聞こえそうである。


……これ、チケットの意味あるのかなー……歌手が歌っているのが見えるか見えないかだけ。そんなに有名な歌手なんだろうか?


俊也は音楽にはうとかった。だいたいはじめてのフェスというやつだ。知らないことも多い。


「やっぱ違うねぇ!有名人ばかりだしねぇ!」

隣で目を輝かせている日高サキを見て有名人だったのかと再確認した。有名人ならチケット販売にしないと大変な事になる。


チケットを見せて会場内に入ると黄色い声が一斉にあがっていた。

もちろん俊也に向けてではない。


「コウタ様いるじゃん!きゃー!!コウタ様ぁ!!」

突然騒ぎ出したのはサヨである。

俊也はサヨの変わり具合に驚き目を見開いた。


「コータ様ぁ!!」

さらに隣にいた日高サキもバッグからコウタ様と書いてあるうちわを取り出しふりはじめる。


コウタと呼ばれた二十代後半くらいの男性はファンサービスなのか皆に手を振ってからステージ裏に消えていった。


「ね、ねぇ……彼は誰?なの?」

俊也はアウェイなのを感じながら反応の薄い時野アヤに助けを求めた。


「あの人は元々ネット歌手だったけどジャパニーズゴッティっていう乙女ゲームの主題歌で大ブレイクして今は引っ張りだこのシンガーソングライター。本当は東京ドームみたいな大きな会場でも満杯になるくらいの人気歌手よ。だけど、歌で元気になってほしいという信念で忙しいのに地方もまわって小さいライブとかにも出てるみたい。立派ね」


時野アヤはなんだか異様に詳しかった。ファンではなさそうだがまるで昔から知っているみたいだ。


「時野さん、もしかして昔から彼を知っていたり?」

「ええ……。五、六年前から知っているわ。サキがいちいちうるさかったから」

「そうだったんだ」

俊也は時野アヤの言葉になるほどと頷いた。


続いて現れたのは切ない歌を歌う、心に響くとテレビでもよく見る最近売れっ子の歌手だった。


「あ!あの人は知ってる!」

これまた黄色い声の中、俊也は興奮ぎみに声をあげた。


「ああ、ノノカさんね。彼女は確か幼なじみの男の子の友達を二人亡くしてて傷ついた思い出を歌にして大ブレイクした歌手ね。おまけにこないだ双子の男の子を産んだのよね。亡くなった幼なじみの男の子の名前、ショウゴとタカトって名前にして話題になっていたわ」

時野アヤはまたしてもスラスラと答えた。


「く、詳しいんだね」

「このフェスね、神が応援している歌手が多いの。話はすぐに広まるわ」

時野アヤはちらりと横を見た。俊也もなにげなくそちらを向いた。


はじめは何も『見えなかった』がもしかするとと思い、『見て』みた。目を凝らすと着物を着た金髪の少女二人が目を輝かせながらステージを眺めていた。

それはいままで『いなかった』はずだ。


「あれは……」

「ああ、見えるのね。あの子達は姉妹の芸術神。聞いたことないと思うけどお姉さんは絵括神(えくくりのかみ)ライ、妹は音括神(おとくくりのかみ)セイ。妹さんの方がノノカさんのファンなのよ。影でいつも見ているみたい。お姉さんは私の友達よ。五、六年の付き合いかしら。よく覚えていないわ」


「へ、へぇ……」

俊也はどこか震えながら時野アヤの話を聞いていた。恐怖ではなく興奮の震えだ。自分は今、夢をみているのか?

非日常な空間に非日常な現象、俊也は舞い上がっていた。


気がつくと日高サキとサヨがいなかった。ここは客席はなく、椅子がないので好きな場所でライブを楽しめる。ふたりはステージに近い方へ行ったのかもしれない。

そのうちライブが始まった。

コウタ様の歌声が響く。


……か、かっこいい……

ステージの臨場感とライブの演出に伸びやかで力強い歌声がミックスされて俊也は内からの興奮を覚えた。心に直接来る感情の波が俊也を包み、思わず泣いてしまった。


「うう……なんて素晴らしい歌声なんだ……しびれる!」

俊也が男泣きしているとふくらはぎ辺りに違和感を覚えた。


「ん?」

下を見ると赤いちゃんちゃんこに赤い着物を着た小さな女の子が俊也のふくらはぎをツンツンしていた。


「どーしたの?なんで泣いてるの?大丈夫?しびれたって電気?ビリビリ来ないよ?」

「う、うわぁ!!」

俊也は突然の事に驚いた。女の子は巾着袋を逆さにしたような不思議な帽子を被っていた。どことなく動物系の耳にも見える。


「お、女の子……?」

「あら、イナじゃないの。そうか、ここはあなたの神社の分社なのね」

俊也が戸惑っていると時野アヤが当然のように話しかけていた。


「い、イナってどっかで……」

「前に七夕の花火大会行ったじゃない?あの時、あなたの横にいた稲荷神よ」

「ええ!!ほ、ほんとにいたのか!!」

時野アヤの言葉に俊也はまじまじと小さな女の子を見つめる。


「そ、そんなに見つめないでよォ!恥ずかしいよ!」

「それよりイナ、あなたの保護者は?」

「保護者?」

時野アヤの問いかけにイナは首を傾げた。


「はあ……、ヤモリよ。ヤモリは一緒じゃないの?」

時野アヤはため息混じりに尋ねた。


「ああ、地味子はどっか行っちゃったよ!」

イナは元気に答えたが時野アヤは再び深いため息をついた。


「つまり、迷子みたいなものね」

「迷子じゃないもん!ここ、おうちだもん!」

怒り出したイナを時野アヤはてきとうに流した。

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