学園のまにまに九話3
俊也はサヨを連れて冬に一度来た先祖がいるとかいう神社に向かった。この神社に来た理由は先祖の霊を見てみようと思ったからだ。俊也は頭のどこかに超常を否定している部分があったようだ。今回はそれを取っ払って先祖に会ってみようと決意した。
それにあたって、いるかどうかの確認ができないのでサヨを連れてきたのだ。
「おにぃ、逢夜とルルの家になんか用なの?」
サヨが苦笑いを浮かべてこちらをみていたが俊也はすかさずサヨに尋ねた。
「……逢夜。先祖の名前だね?」
「そうだけど?」
サヨは当たり前だと言うように訝しげに見てきた。
サヨは超常現象とかありえないこととかをすべて日常にしてしまっている。まず俊也との違いはそこだった。
「会わせてほしいんだよ。逢夜って人に」
「いやー、それはあたしが決めることじゃないしー。ルルがいるんだから聞いてみれば?」
サヨは社近くを手招いた。社の影から黒髪ショートの少女がそっと顔を出した。
稲城ルルだ。稲城ルルは以前、出張パン屋のエクレア騒動の時に一度俊也は会っている。
「こ、こんにちは……」
稲城ルルはか細い声で挨拶をした。突然の客、そして自分に話しかけてきたということでかなり警戒しているようだ。
「おにぃ、あの子はルル。縁結びの夫婦神のワイフの方。彼女は人間に見える神らしいよ」
サヨの説明で俊也は息を飲んだ。
時野アヤ、日高サキに続き、稲城ルルも神様らしい。
「嘘じゃないんだよね?」
「嘘ついてどうすんの?」
「あ、ごめん」
サヨが眉にシワを寄せたので俊也はとりあえずあやまっといた。
「あ、あの……用件は?」
稲城ルルが控えめに俊也とサヨを交互に見ながら尋ねた。
日はいつの間にか沈みかけていて夕方と夜が同居したみたいな空になっていた。神社は不気味かと思ったがそうでもなかった。
いままで見えていなかったはずの社内の灯りが見えたからだ。急に生活感があふれでてきた。この神社に神が住んでいる……。俊也はそれがはっきり見えた。
「逢夜さんに会ってみたいんだ」
俊也は素直に稲城ルルに言った。
「こないだ会っていたように思うんだけど……」
「見えてなかったんだ。いや、脳が見ようとしなかった。今度は平気かもしれないから」
稲城ルルに再びはっきり言い放った。稲城ルルは迷っていたがやがて頷いた。
「わかったよ。今呼ぶね」
「どうした?ルル」
稲城ルルが呼ぼうとした時、いつの間にか銀髪の青年が立っていた。後ろでまとめている銀髪が風に揺れている。サヨよりも明るい青い瞳を持つ、少し怖い雰囲気の羽織袴を着た青年だった。
俊也は目を見開いた。
……見えた!夢でみた人と同じだ!
あの人が逢夜さん。望月逢夜さんだ!!
「なんかね、子孫の子が会いたいって……」
稲城ルルが不安げに逢夜を見上げそう言った。逢夜は稲城ルルの頭を軽くポンと叩いた後、微笑んでから俊也に目を向けた。
「あー、お前が俊也だろ?知ってるよ。こんな時間に何の用だよ?めんどくせぇのはお断りだぜ。だいたい俺は直接の先祖じゃねーよ。ガキはいなかったからな」
逢夜は鋭い目を俊也に向け、ため息混じりに話しかけてきた。
「いや、あの……そのー、も、もう大丈夫です」
俊也は逢夜の威圧が怖かったのでサヨに目線をちらりと向けた。
「何?おにぃ?なんか話したいことがあったんじゃないの?」
サヨに問われ俊也の頭は真っ白になった。
絶対見えるようになる!とは思っていたが見えてからの事は考えてなかった。
「ごめんなさい!特に何もありません!お会いしたかっただけです!」
俊也は真っ青になりながらあやまった。
「ああ、そうかよ。よくわからねぇな。おい、なよなよしてんなよ。しっかり生きろ!望月俊也。望月サヨも元気に生きろよ」
逢夜は用がそれだけだとわかると俊也とサヨに一言優しく言うと社内に帰っていった。
「もういいの?」
稲城ルルが俊也に尋ねてきた。
「え?あ、うん。もう大丈夫!」
俊也は夢幻をみたかのようにぼうっとしていて動揺したまま答えた。
そこからどうやって家に帰ったかよく覚えていない……。
確認できた事は自分も『見えた』ということだ。見えて良かったのか、悪かったのか俊也には判断ができなかった。
春の新学期。新しい発見をした俊也だった。
※※※
逢夜と会話をしていた俊也を木に隠れてみていた時野アヤは頷いた。
……なるほどね。今日なんかおかしいと思っていたのよ。
ついこないだ、サヨを調べるついでに俊也君を調べていたら前任の時神立花こばるとが書いた日記に当たった。
そこに記載してあった一人の人間の名前……望月深夜。
『望月 深夜は神々が見える珍しい人間らしい』
そう日記に書いてあった。
そしてどうやら彼は俊也とサヨの親らしいのだ。なにかの遺伝か、異常部分のデータを子供が受け継いだのかわからないが子供のサヨと俊也は『神が見える』データを持っているらしい。
……まあ、だからといって別に何もないのだけれど。
時野アヤは神社から遠ざかる二人の後ろ姿を静かに見守っていた。




