学園のまにまに八話1
そういえばサヨは昔から変な妹だった。神社の境内見て手を振ったり、屋根の上とかを不思議そうに眺めていたり……。
そんな彼女は父親に似て青い瞳をしている。青いと言ってもよく見ないとわからないくらいだが兄である俊也とはあきらかに違った。
ちなみに俊也は母親似だった。母親は典型的な日本人といった容貌で瞳は茶色だ。父親は日本人のはずだがなぜか瞳が青く、自分にはロシア人とかの血が入っているんだ!かっこいいだろ!とことあるごとに自慢してくるのだった。
「まー、確かになんかかっこいいとは思ったけど……」
俊也は自室のベッドの上で物思いにふけっていた。
季節は凍りつくくらい寒い時期で外は軽く雪が降っており布団にくるまっていないと体があたたまらない。
明日、終業式でそのまま冬休みだ。一年なので比較的暇である。
俊也はこれから寝るところだったが隣の部屋にいるサヨがなんだかうるさいので文句を言いにいこうと布団から出た。
「うーっ……寒い……。おーい。サヨ?何してるの?うるさい」
俊也は体を震わせながら廊下に出て隣の部屋のドアをトントン叩いた。
「あ、おにぃ?ごめそん。うるさかった?」
サヨはドアを勢いよく開けて顔を出した。ドアの勢いが良すぎて俊也はドアに鼻をぶつけ悶絶していたがそれよりも文句を言う方が重要だ。
「夜中にドタドタバタバタ何してるの!近所迷惑だし、父さん、母さん起こしちゃうよ。あ、おにぃもな……」
「いやー、ちょっと個人で忍者の修行をねー」
サヨは反省したのかしてないのかわからないが一冊の本をかざした。
タイトルは『忍者はこんな修行をしていた!』だった。
よく見るとサヨは動きやすいジャージを着ており、部屋をチラ見するとゴム紐が机とベッドの足に縛り付けられていた。部屋の対角線にゴム紐が張られているようだ。
「サヨ……まさか」
「うん!このゴム紐を渡るのー!!なかなか渡れなくてね」
サヨは胸を張って言い放った。
「やっぱり……。いいからもうやめてよー……」
俊也がうんざりした顔でサヨにお願いした。サヨは突然こういうことをやる。夜中とかに。
おそらく、ドタバタという音はこのゴム紐に乗れず、何度もひっくり返った時に生じる音のようだ。
「てか、明日終業式だよ。まだ学校あるよ。もう寝なよ」
「あーあー、おにぃは真面目!マジマジメッ!マジリナイマジリッケナイマジマジメマジナイマジマジマジナイワー!」
サヨは俊也に一通り叫ぶとため息をついた。ちなみに後半のカタカナは俊也には呪文に聞こえたからこんな感じである。
日本語はたぶん、まじ真面目!混じりない、混じりっ気ない、まじ真面目、まじない。まじまじまじないわー。だと思われる。
「まあ、とにかく寝なよー」
俊也は半分以上聞き流すとサヨに一言言ってドアを閉めた。そのまま自室に戻りベッドに倒れる。
ふと横を見ると枕元に置いてあったスマートフォンのランプ部分がチカチカ光っていた。メールかなんかきているようだ。
俊也はスマホの画面を開きチャットのアプリを起動させた。俊也は今時の人間なのでメールではなくグループチャットをやっている。
誰から来たのか確認すると超常現象大好き部のチャットだった。
時野アヤからであった。
不思議と夜になると日高サキとは連絡が繋がらない。なのでグループチャットに参加するのは時野アヤと妹のサヨになる。
時野アヤは実にシンプルな言葉で「サキが終業式後に行きたいところがあるみたいなんだけど、皆で行こうと聞かないの。大丈夫かしら?」
と言ってきていた。
その後、サヨの不思議な言葉が続く。
「りょーかい道中ひざくりげ!めっちゃありよりー!ひまたんだし、うちかえってもごろりんきめこむだけだから良きー!とりま、どこ行く?」
絵文字だらけで相変わらず文面不明な内容。それよりもまず、返信が早い。女子はすごい。
「どこに行きたいかはわからないの。サキはいつも突然だから」
「おけまるー!それまウケるー!サキのいきたいとこねー」
二人の会話に俊也はいつ返信するか迷った。
とりあえず、続いた会話を流しつつ、寝る前に一言「わかった」と送っておいた。
それからはよく覚えていない。




