学園のまにまに七話3
女子達が走る番になった。
俊也はジャージを着直して時野アヤと日高サキの頑張りを眺めることにした。
サヨは別にいい。あれはいつも通りぶっちぎりなはずだ。
なんせ、忍者の家系だからねっ!
みたいな。
体育の先生が合図し、女子達が走りはじめた。俊也の目線は超常現象大好き部にそそがれる。
……がんばれ!時野さん!日高さん!
なんとなく応援ムードだったがしばらくしてなんだか変だと思い始めた。時野アヤは走っているが走っている感じがしない。それにいつの間にか日高サキがいない。
……なんで?あれ?
ついでにサヨも探した。サヨは運動部を遥かに離してぶっちぎりで走っている。
速いっ!!
彼女は百メートル十秒というオリンピック選手も目を丸くする記録を持っている。おまけに持久力も人間離れしている。ちなみに彼女はなんの運動もしてきていない。
見れば見るだけ恐ろしい妹である。
「そんなことよりも……」
俊也は時野アヤと日高サキを探す。
時野アヤはやはり走っているが走っている感じがしない。違和感しかない。
……そうか!息が全くあがっていないどころか時野さんだけ時間が止まっているんだ!
結論は出たがよく考えると自分は何をいってるのか意味不明だ。
日高サキについては本当にわからない。こっそり逃げ出したのか?
不思議に思っていると女子のマラソンは終わっていた。
「終わった……」
俊也が呆然としているところに時野アヤと日高サキが何事もなかったかのように現れた。
「はあー!終わった!俊也くん、今日は部活やるのかね?」
日高サキがニコニコ笑みを向けながら俊也に話しかけてきた。
「う、うん。やるつもりだけど……」
俊也はなんとか答えたがもうこれが超常現象になっている気もする。
「サキ、あなたズルしたわね?太陽神の使いサルにダッコされているのを見たわよ」
時野アヤが意味不明な発言を日高サキに向かって発した。
「そういうアヤだって自分の時間をずっと巻き戻して疲れないようにしてたじゃないかい」
日高サキも意味不明な発言で対抗した。
「え、えーと……ふたりとも……よく走ってたと思うよ……。たぶん」
俊也は戸惑いながらふたりをなだめた。
「ふーん。なるほどねー」
ふとサヨの声が聞こえた。
「サヨ、サヨは言うまでもなく速かったね」
俊也がとりあえず、サヨをほめた。
「あんた達、神様でしょ!」
サヨは俊也を丸無視し、時野アヤと日高サキに言い放った。
「ちょっ?サヨ、何わけわからんことを……」
俊也は相変わらずのぶっ飛んだ発言に冷や汗をかいた。
……変な妹がいると思われるっ!
俊也は何言われるかとビクビクしていた。時野アヤと日高サキは文字通り困惑していた。
……そりゃ、そんなわけわからんこと言われたら困惑しちゃうよ!
俊也はサヨにそう言おうとしたがふたりはそれで困惑していたわけではなかった。
「バレちゃった?」
日高サキが突然サヨに苦笑いを向けた。
「うん。そんだけやられたらわかるよ!私は神様見えるし!」
「あーっ!ごめん!妹はわけわかんないんだ!前にも言ったけど不思議ちゃんなんだよ!」
サヨのわけわからない発言に俊也は慌てて声を被せる。
「おにぃ、おにぃはこのふたりと一緒にいてよく変だと思わなかったよねー。太陽神と時神でしょ。このひと達」
サヨは当たり前だと言うように胸を張って答えた。
「太陽……時神?」
「まあ、そんなのいいじゃないの。また部室で活動しましょ」
時野アヤは一瞬戸惑ったがすぐに元に戻り俊也に笑みを向けてきた。
「う、うん。ま、まあいいか」
俊也は時野アヤの笑みに負け、顔が緩み、どうでもよくなった。
「帰りにクレープでも食べる?おいしーとこ知ってるよ!」
サヨはそれきり何にも聞かず、いつも通りに戻った。
「いいねぇ。あたしはなに味にしよっかなー」
サヨと意気投合している日高サキも表情を元に戻し笑っていた。
「なんかおいてけぼり……こりゃあ皆不思議ちゃんだ……」
謎のマラソン大会は謎のまま終わった。




