学園のまにまに七話2
なんとなく次の日になりマラソン大会が始まった。俊也は寒空の中、ジャージを着て震えながら公園に入った。
「ひー、寒いー。もう無理だー!」
冷たい風が吹き、俊也は寒さに悶えた。
「俊也!準備運動しようぜ!」
男子が走る大道路についたらすぐ友達の白沢圭一が話しかけてきた。彼は少し前に稲城ルルという不思議な女生徒の話を持ってきた男だ。ちなみに彼女がいるらしい。それも稲城ルル騒動の時に聞いている。たしか、圭一の彼女が稲城ルルの名前を聞き出したとか。
「おう!」
俊也は圭一と一緒に準備運動を始めた。
「女子が後から走るらしいな。先にいいとこ見せるチャンスだぞー」
圭一は相変わらずおちゃらけたまま俊也と前屈をした。
「ま、まあねー……」
俊也は一瞬時野アヤを思い浮かべたがブンブンと首を振った。
「ちなみに俺の彼女、あそこで叫びながら手を振ってる」
圭一が照れ笑いを浮かべながら少し遠くにいる女子達を指差した。
なんとなく俊也も顔を向ける。
「なっ……!?」
視界に入った女子達の中でありえない女子がこちらに向かって手を振っていた。
「けーいちぃ!ガンバレー!おにぃもイケイケー!」
「ちょっ!?」
手を振りながら叫んでいたのはサヨだった。
と、いうことはつまり……
「サヨが圭一の彼女!?」
「お前、今おにぃ言われてたぞ!どーゆーことだよ!!」
俊也と圭一に大混乱が起きた。
しばらく騒ぎ散らした俊也と圭一は深呼吸をして心を落ち着かせた。
「はあ……はあ……。走る前から疲れた……。で?どゆこと?」
「妹なんだよ。単純に……」
圭一の質問に俊也は簡単に答えた。
「なんだって!?妹?双子か?」
「違うんだ。一年以内に産まれた子だから同学年だけど、一才違い」
「マジかよ!そゆことか!てか、え?ほんとのマジなの!?」
走る前から心臓が止まりそうだった。
「マジだよ」
「名字が一緒なのは知ってたが望月なんてよくある名字じゃん?さすがに兄妹とは思わねーよ!だいたいお前ら似てない!」
「ま、まあ似てないといえば似てないね。性格も」
俊也は苦笑いを浮かべながら肩を動かした。
「なんか不思議な縁だなー……俺、怖い」
圭一がおどけて言った時、体育の先生から集まるようにとの声かけが始まった。
「はあー……はじまる……走る前から疲れた」
俊也達はそこで会話を切り、位置についた。
……一瞬戸惑ったけど、とりあえず、時野さんにいいとこ見せる事だけ考えよう!いっそのこと運動部に勝つとか……
「とりあえず、俺はサヨにいいとこみせるぜぃー!」
圭一が隣で意気込んでいるのを眺めながら俊也はなんだか複雑な気分になった。
体育の先生が合図をだしマラソン大会がはじまった。男子生徒がいっせいに走り始める。
「ちくしょー!運動部はやいっ!」
圭一が開始早々弱音を吐き始めた。
「ふー。走りたくはないけど時野さんのため、頑張るぞ」
俊也は息を吐くと圭一を追い抜かして一気に駆け抜けた。
「おい!そんなハイペース、五キロもたないぞ!しゅんやーっ!」
圭一の声がするが俊也は足を緩めずにどんどんスピードを上げていく。
……まあ、ちょっと本気出せば運動部には楽勝なんだけどね。
でも、疲れるからなあ……。
いやいや、時野さんを思い出すんだ!
みたいな事を考えていたら特に息もあがらずに一位でゴールしていた。
「ウソだー!ばけもんか!お前っ!」
走り終えた圭一と他の男子生徒が口々に俊也に驚きの声をぶつけた。
「お前、絶対、足遅いキャラだと思ってた!そんでマラソン大会やだなーとか言ってるかと……」
圭一は俊也に失礼な事を連発しながら叫んでいた。
「あれ?僕ってそんな風に見られてたの?走るのは割りといけるんだよ。嫌いなだけで」
なんだかショックを受けている圭一にため息をつきながら準備体操をはじめた女子達に目を向けた。
……時野さんは……
キョロキョロと時野アヤを探しているとふと声がかかった。
「意外ね。とっても速くてカッコ良かったわ」
「時野さん!」
すぐ近くにいた時野アヤに素敵な言葉をいただいた俊也は顔をほころばせた。
「てゆーか、ほんと、化け物並みに速かったよ。まるで忍者みたいじゃないかい?」
「だーかーらー、忍者の家系なんだってば!」
時野アヤの横にいつの間にかいた日高サキとサヨも俊也の足の速さと持続力を誉めていた。
……もう、時野さんに誉められたからいいや。皆の走りを見ておいてあげよっと。
そう思った俊也は大きく伸びをして妹含む女子達を眺めていた。
ちなみに圭一はサヨに特に何も言われていなかった。
かわいそうな圭一。せめて誉めてやれよ。彼女でしょ……
とも思ったが面倒だったので流した。




