学園のまにまに七話1
秋も深まり、冬に近い秋。
朝晩よく冷え、霜もたまにおりている。木々の葉はほとんどなくなり冬が間近なそんな期間。
こんな時になぜ……
なぜ……
「マラソン大会なんだー!!」
俊也はいつもの部室で頭を抱えながら叫んだ。
「いいよ!いいよ!別に!忍者の身体能力の高さを見せる時だ!おにぃ!」
隣に当たり前のように座っている妹のサヨがカエルのぬいぐるみ、ごぼさんだか、ごぼちゃんだかを机に置いて楽しそうに笑った。
彼女はこないだ勢いでこの部に入部してきた厄介者である。
「……僕らは忍者じゃないっしょ」
俊也は呆れた顔でサヨを見た。
「マラソン大会ってなんでやるのかしら?全く意味のない行事だわね」
部室の隅で小説を読んでいた時野アヤが本から顔をあげずに会話に参加してきた。
「やっぱり時野さんもマラソン大会嫌い?」
俊也は時野アヤがマラソン反対派だと思い、仲間を増やそうとそう尋ねた。
「嫌いではないわね。運動は大事だと思うし、走りきった達成感みたいなものはあるから」
時野アヤは意外な答えを返してきた。俊也は肩を落としてため息をついた。時野アヤは自分に賛同してくれると思ったからだ。
だが、ここで普段言いそうにない人物がマラソン反対を訴え始めた。
「あんなのただ疲れるだけで意味ない行事だよ。あたし、やりたくないよー。どこ走るんだっけー。めんどくさいじゃないかい……。あー、めんどー。休みたいー」
「日高さんはマラソン大会嫌いなの?好きなイメージだったんだけど」
「嫌いだよあんなの。やる意味わかんないよ」
あからさまに嫌な顔をした日高サキが俊也にそう言い放った。
「へぇ……意外」
「はあ、こんな寒い時期に……で、いつどこでやるんだっけー?」
日高サキはやる気なさそうに尋ねてきた。
「近くの広い公園ね。ちなみに明日よ」
時野アヤが盛り上がることもなく答えた。
「えー!あのでっかい公園!?やだよー。五キロくらいありそうじゃないかい……」
「女子は大道路の中に入り込んでいる小さい道路を走るから実際二キロ!だよーん!私はバリバリ五キロ走りたいのになー!!」
今度はサヨがいつもの盛り上がりで声をあげた。反対に俊也は気分が落ちていた。
「男子は大道路と小さい道路両方の五キロだよ……。男子は体力あるって言ったやつ誰なんだよ。憂鬱だよー」
「しっかりしなさいよ。たかが五キロじゃないの。駅伝の選手なんてどれだけ走ってると思っているの?私は頑張っている俊也君が見たいわね」
「なっ……」
時野アヤが何気なく言った言葉に俊也はいままでの発言を後悔した。
……時野さんに呆れられてるっ!!
頑張らないとダメだっ!
男は何気ない言葉に本気になってしまう生き物である。無駄にプライドが高かったりする。
「と、時野さん!僕はけっこう速いんだよ!足!本番いいとこいくと思うよ!」
こんな風に見栄を張ってしまうのも男の悲しいところである。
時野アヤはそれを知ってか知らないかわからないが柔和に微笑み頷いた。
「そうね。まだ若いんだから頑張りなさい」
「まだ若いんだからってー、アヤも若いじゃん!ウケる!」
時野アヤの婆臭い発言にサヨは無駄に爆笑していた。
ともあれ、明日はマラソン大会である。超常現象なんて探している余裕はなかった。
しかし、このマラソン大会で俊也はプチ超常現象を経験することになるのだった。




