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学園のまにまに六話3

俊也達は田舎道をのんびり歩き、沈む夕日を観賞しながら海岸へ向かった。日が沈むのが早くあっという間に真っ暗になった。


夜になるにつれて風が冷たく、海に行くにつれて寒くなってきた。


「うう……海風か冷たい……。いつも不思議だけど女子は寒いのによくスカートはけるなーって思う」

俊也は学校の制服を思い出しながらぶるると震えた。


「私達は逆に夏はあんなに暑いのによくズボンはけるなあと思っているわよ」

今日はズボンを履いてあたたかい格好をしている時野アヤが辺りを見回しながら答えた。


「てゆうかさ、女はスカートで男はズボンとかっていう制服は男女差別だと思うー。寒い時はジーパンとか履かせてほしいー!」

こんなに寒いのに丈の短いスカートを履いているサヨが文句を言った。


「制服でジーパンっておもしろいじゃないかい!男女ジーパンなら統一感あるよねぇ!」

日高サキはゲラゲラ笑いながらサヨをつついている。意外にこのふたりは馬が合うのかもしれない。


くだらない会話をしている間に海岸へついた。人は誰もおらず、月の光と星の光で真っ暗ではないが不気味な感じだ。

波の音だけが静かに聞こえる。


「なんていうか、なんもないじゃん」

「サヨ、何を期待してたの?」

俊也は連れてきたことを若干後悔しながらわめくサヨに尋ねた。


「もっとキラキラな感じかと思ったー」

「きれいじゃないの。静かだし、冬が近づいている感じのするインディゴの夜……」

サヨとは真逆の時野アヤが満足げに星空を見上げていた。


……ああ、時野さんきれいだ……


なんとなくロマンチックな気持ちになってきた俊也をサヨがさらにぶち壊した。


「ゴボさん!登場!月の光に照らされたゴボさん!」

サヨはカエルのぬいぐるみを取り出すと月にかざしながらスマホで写真を撮りはじめた。


「はあ……」

俊也はますます連れてくるんじゃなかったと後悔した。


「きれいじゃないかい。夜なんて久しぶりに経験したよ!」

もっともおかしな事を言っているのは日高サキだった。


「あんた、変なこと言うね!そそるわー」

いつの間にかサヨのお気に入りになったらしい日高サキにサヨは微笑んだ。


「いやあ、ほんとの事をなんだけどねぇ」

日高サキは笑みを浮かべながらこくこく頷いていた。

彼女は時々本心か冗談かわからないときがある。


「なんか……この状態が怪現象のような気がする……」

俊也は星空を楽しむよりもこの不可解な発言をしまくる彼女達に興味がいってしまった。


「あなたの妹が一番不可解だわ」

ふと時野アヤが呆れた顔でこちらを見ていた。


「はは……」

俊也は戸惑いつつ苦笑した。


「決めた!私、この部活入る!なんか楽しー!」

一体どういう話からそうなったのかわからないがサヨは盛り上がりながら日高サキに叫んでいた。


「いーよ!あんた楽しいしあたしもあんた好きだわ!」

日高サキも満面の笑みで答えていた。


「なんで……こんなことに……」

「星空眺めてる場合じゃないわね……。せっかく静かできれいなのに」

呆然と立つ俊也に時野アヤはため息混じりにそう言うと頭を抱えた。


しばらく夜空を観賞した俊也達はあまりに寒いので昨日とった民宿に向かった。


「私ね、いつか先祖に会ってみたいの!忍者の子孫なんておもしろいでしょ!まあ、忍者だから調べてもなんも出てこないと思うけどね!しかし、田舎の夜って街灯もないんだね!昔の人は大変だっただろうなあー。あ、忍者って夜、目が見えたらしいよ!」


サヨはマシンガントークで次から次へと言葉を発している。


……なんかサヨ、楽しそうだなあ……

俊也はしみじみそんなことを思った後に宿について考えた。


……てか宿、やばくないか!?女の子ふたりと妹に挟まれたらどうしたらいいんだよ!!


頭が真っ白になっていた時間がどれだけだったかわからなかったがいつの間にか布団に入っていた。布団に入ってからしみじみ今の状態を見て思った。


……だよな……


俊也は壁越しにケラケラ笑っている女の子三人の声を聞きながらひとりため息をついた。

俊也は狭い部屋でひとり、寝ることにした。

当たり前だが別部屋であった。

どこか残念な気もした。


※※


その夜、なぜかいつぞやで夢に出てきた銀髪の男がこちらを向いて笑っている夢を見た。

それはいつだったか……

稲城ルルという娘がエクレアをくれたあの時か。

「祖先だー!!」

銀髪の男に驚いた俊也は寝言でそう叫んでいたらしい。

薄い壁の奥にも聞こえたようで次の日の朝、サヨと日高サキにさんざんいじりまくられてしまったのだった。


秋の短い思い出である。

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