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黄泉へ5

 千夜から言われ、サキとあやは入り込んだマガツミを排除しにかかった。太陽の力でマガツミを浄化させていると、千夜達がいた部屋付近で、かなり大きなマガツミの気配がした。


 サキは太陽の剣を出現させ、迎え撃った。


 「ここは、皆がさっきいた部屋だね。こりゃあすごい量のマガツミ……」

 気がつくと、部屋に溢れるほどのマガツミが黒い塊になって増え続けていた。


 「うわあ……」

 サキは頭を抱えつつ、マガツミと対峙する。マガツミは真逆の太陽の力を敵と判断し、襲いかかってきた。


 「あたしは負けないよ」

 サキは眩しい光を放出し、マガツミを消していった。


 「サキさん、私も戦うわ。結界はけっこう得意なの」

 サキの後ろにいたあやも前に出て手を前にかざした。

 

※※


 一方、アマテラスは宮の上空に浮き上がり、必死で結界を張っていた。しかし、マガツミの勢いが強すぎて、なかなか辛そうだ。


 「いつまで持つか……。予想外に強大になってますね……。望月凍夜が辺りの世界を闇に染めたのが原因ですかね」

 アマテラスは望月凍夜と戦う千夜と夢夜を冷や汗をかきながら見守っていた。夢夜よりも力では凍夜のが強いようだ。


 「なんとか、しばらく持たせてください……」

 アマテラスは目を伏せつつ、神力を高めた。


 ※※


 夢夜は力強く凍夜にぶつかる。凍夜のマガツミは鞭のようにしなりながら夢夜を殺そうと動いていた。夢夜は瞳を青く光らせ、武の神特有の異常な反射神経で避けていく。


 「どうした? こんなものか」

 凍夜が挑発するが、夢夜は乗らず、隙を探す。

 千夜の方は夢夜の近くに寄ってきたマガツミを『排除』で追い出していた。


 しばらくして、夢夜は凍夜が持つ刀が刀神だと気がついた。


 「なるほど……。あの刀神のせいで化け物化しているわけだ」

 「お前を苦しませてやろうか」

 凍夜が不気味に笑いながら刀を振りかぶってきた。


 夢夜は凍夜の刀を受けようとしたが、かわした。刀神により、刀を真二つにされるのが見えたからだ。


 振り下ろされた刀はアマテラスがいた宮の上に向かい、カマイタチのように襲いかかった。


 「なんだとっ」

 夢夜がアマテラスを守ろうと走った時、千夜が飛び上がり、『排除』をかけた。

 カマイタチはアマテラスがいる宮にぶつかることなく、世界から消滅した。


 「千夜、助かった! だが、無茶はするな」

 「ええ。夢夜様が当たりに行く無茶をなさろうとしたので、止めた感じです」

 千夜に見透かされ、凍夜から目を離さずに夢夜は苦笑いをした。

 

 

※※


 一方、アヤはトケイに抱えられ、更夜、狼夜と共に黄泉へと向かっていた。アマテラスが道を敷いてくれていたので、宇宙空間でも迷わず進めている。


 「黄泉……弐の世界とは違うのかしら……」

 アヤが小さく呟いた時、更夜とトケイの瞳に電子数字が流れた。


 「お、おい……これは……」

 狼夜が突然表情のなくなった更夜とトケイに怯えていると大きな五芒星がアヤの真下に現れた。


 「……時神が黄泉へ入る鍵なの……?」

 アヤは正常に動いていたため、困惑した顔で狼夜を仰いでいた。


 「知らねぇ。俺は詳しくないぞ」

 「黄泉への入り方……知ってるの……。今、流れてきた……」

 アヤがゆっくり手を前に出した。空間が歪み、不思議な島が現れる。島はむき出しの状態で宇宙空間に浮いていた。


 そのうち、宇宙空間は電子数字で覆われ、島だけがハッキリと見えるようになった。

 アヤ達は別の世界へ入ったようなのだが、重力がかからない。


 浮き続けたままだ。


 「なに……この気持ち悪い世界……」

 アヤが再び呟くと、隣にいた更夜とトケイの意識が回復した。


 「なんだっ?」

 「あれ? 記憶が飛んでるよ……」

 更夜とトケイはそれぞれ動揺の声を上げた。


 「時神がこの空間を開く鍵みたいだわ。過去、現代、未来がそろっているしね。まあ、私は壱の時神なのだけれど……」

 「ここはなんだ? 黄泉なのか」

 更夜が辺りを見回すと、電子数字の海の中に桃の木があり、不気味に実っていた。


 「たしかさ、桃とタケノコ、えーと、ブドウのデータを取り込んで、イツノオハバリを探すんだったよね?」

 トケイがウィングを広げながら電子数字の海に足をわずかにつけてみた。


 「なんか、海とは違うね。宇宙空間のこことなんら変わらないよ」

 「じゃあ、普通にいけんのかよ?」

 狼夜が電子数字の海へ入ろうとした刹那、不思議な女が現れた。        


 アマテラスと同じ紫の高貴な髪を耳の横で丸めて結んでいるが、とても髪が長いようで残りの髪は足先まで伸びていた。白衣(しらぎぬ)のような物を纏う、美しい女性である。


 「だ、誰だっ!」

 狼夜が叫んだが、女は表情なくこちらを見ていた。


 「……得体の知れない雰囲気を纏った女だな」

 更夜は眉を寄せつつ、警戒する。

 「えっと、あの桃をもらいにきましたー」

 トケイが控えめに女に言うと、女の顔つきが変わった。


 「これは黄泉のもの……渡すわけにはいかない。あなた達は何をしに来た……。まさか、ワールドシステムに入り込もうというのか?」

 女は突然に炎を纏わせ、襲いかかってきた。


 「え……」

 「ワールドシステムの前に、黄泉のものは渡せない。これを許せば、皆入ってくる。カグヅチっ!」

 女が叫ぶと、炎は渦を巻き、アヤ達を飲み込もうと動いてきた。


 「……逃げろ!」

 更夜が鋭く言い、トケイを後ろに下がらせた。トケイはウィングを広げ、空に舞う。背に乗っていたアヤは上から女と炎を観察した。


 「……もしかすると……あの女性はイザナミ……。カグヅチはイザナミの子供だわ」


 アヤがつぶやいた時、

 「強さが異常だ。いったん、離れた方が良さそうだが……」

 更夜と狼夜が冷や汗をかきながら横にきていた。二人はこの空間で当たり前のように浮いている。


 「なんだか、知らない内によ、体が透けてきている気がするんだが、なんなんだよ?」

 狼夜の発言に更夜とトケイは目を見開いた。トケイと更夜もどことなく透けてきている。

 大丈夫なのはアヤだけだ。


「大変だ! 僕達のデータが消えていってるよ!」

 トケイは弐の世界を守る神でもあるため、データの解析をしていた。


 「どういうこと?」

 「つまり、僕らが持っている『存在理由』のデータが消えていってるの! 僕なら弐の世界の時神であるっていう部分がデリートされてる」


 「なんだと。つまりなんらかの形で俺達が持つデータが消えていき、存在を消されそうと言うことか」

 更夜は頭を抱えた。

 こういう事は初めてだ。

 黄泉に入って早々に得体の知れない力に襲われるとは思っていなかった。


 「カグヅチ、ついでに燃やしてしまえ」

 イザナミだと思われる女が攻撃的に炎に命令し、炎は触れたら一瞬で炭になりそうな灼熱を纏いながらアヤ達に飛んできた。


 「まずい。逃げた方がいいっすね」

 狼夜が更夜に言い、更夜はアヤに早口で策を伝える。


 「アヤ、炎の時間操作か、俺達の時間操作ができるか?」

 「……え……えっと、私達の時間操作なら……たぶん」

 アヤは萎縮しながら、小さく言葉を発した。炎の速さがかなり速いので、トケイはアヤを乗せたまま高速で逃げ始める。更夜、狼夜も後を追った。


 「俺達の時間を早めることはできるか? あの炎はかなり早い」

 更夜は隣を高速で飛びながらアヤに尋ねた。


 「わ、わからない。でも、この不思議な世界だとできる気がするわ」

 「とりあえず、このままでは炭だ」

 更夜の言葉にアヤは息を飲んだ。


 「や、やってみるわ」

 アヤは怯えながらトケイ達に時間を早める時間の鎖を巻いた。

 突然に世界が線に変わり、だんだん辺りが暗くなっていく。


 「何もみえねーじゃねーか!」

 狼夜の焦った声のみがアヤの耳に届いた。

 「え、あの、たぶん、光の速さに近づいたんだと思うわ」

 話しかけられて一瞬、アヤの集中が途切れた。刹那、炎の先端がアヤ達をかすった。


 「アヤ! 集中しろ! 死ぬぞ」

 更夜に叱られ、アヤは半泣きで時間を早める。

 再び光速に近づき、更夜は全員の安否を確認した。


 「怪我は?」

 「わ、私は靴がなくなったわ」

 「僕は足先をちょっと焼かれた」

 アヤとトケイがそれぞれ声をあげる。


 「申し訳ありません。お兄様、俺のせいです」

 「それはいい。怪我は?」

 困惑した声を発した狼夜に更夜は優しく言った。


 「ありません」


 「よかったな。皆無事か。しかし、これからどうする……。ここはあの島以外なにもないようだが、ぶつかったら終わりだ」

 「桃を取りにいける余裕すらないし、消えるかもしれないわけだね。まいったなあ」

 トケイが悩みながらどうするか考えていると、真っ暗になりつつある世界で謎の赤い鳥居が見えた。


 鳥居はこちらが光の速さに近づいても、ハッキリと見える。


 「鳥居があるっ!」

 トケイが叫び、アヤの集中が途切れた。更夜はトケイと狼夜を強引に引き寄せ、勢いよく急降下した。炎が頭上を容赦なく通りすぎる。


 「勘で避けた。勘が当たって良かった……。アヤ!」

 「ごめんなさい……」

 アヤは震えながら再び時間の鎖を巻く。


 「さっきの鳥居が気になるぜ。お兄様、潜ってみましょう。別の空間に出られるかもしれません。鳥居があるってことは、違う神がいる霊的空間ってことっすから」

 狼夜が落ち着きながら言葉を発し、更夜は頷いた。


 「あ、あれ……進んでいるのに、また同じ場所に鳥居がある。右のとこ」

 トケイの発言に、更夜は慌てて指示を飛ばした。


 「トケイ、鳥居を潜れ」

 「え? うん」

 トケイは動揺しつつ、右に曲がる。なんだかわからぬまま、アヤ達は鳥居を潜り抜けた。

 とたんに重力がかかり、トケイと上に乗っているアヤ以外、下に落ちた。

 更夜と狼夜は危なげに地面に着地する。


 「大丈夫? 更夜、狼夜」

 トケイが後からゆっくり降りてきて地面に着地した。


 辺りは森の中で、なぜだか古くさい雰囲気があり、時代が現代のようではなかった。

 更夜達は石段の踊り場に着地したようで、上を見上げると、さらに石段が続いており、石段の上に鳥居がある。さらに奥に社のようなものもあった。


 「なんだ? ここも霊的空間か?」

 更夜が警戒を強め、辺りをうかがっていると、狼夜が小さく声をあげた。


 「お兄様、時神アヤが……」

 更夜は狼夜の声で、後ろにいたアヤを振り返った。

 アヤは真っ青な顔でフラフラとしており、息を上げて苦しそうにしていた。


 「どうした? 大丈夫か」

 「だ、大丈夫よ……」

 「更夜、無理させ過ぎたんだよ」

 トケイがアヤの背を優しくさすり、辛そうな顔で更夜を見た。


 「……すまない。俺が……」

 「いいの。それより、何度も集中きらしてごめんなさい……。なかなかまだ、こういうのできないのよ」

 「わかっている。本当にすまない。他に思い付かなかったのだ。トケイにおぶさっていてくれ。俺と狼夜が危険がないか調べる故」

 更夜と狼夜はお互い頷き合うと、石段を登っていった。


 トケイはアヤを抱くと更夜達の後を追って歩き出す。


 「トケイ、ありがとう……。ちょっと疲れてしまって……」

 「いいんだよ。よく頑張ったね。また、アヤの力が必要になるかもしれないから、休んでて」

 「ええ、そうさせてもらうわ……」

 石段を登り終えたところで、更夜は不思議な石像を見つけた。


 不思議な石像は二つ置かれ、どことなく懐かしい気分にさせる。その石像は犬のようでもあり、獅子のようでもある石像だった。


 「なんだ、これは見たことのない動物だ」

 「……犬っすかね?」

 狼夜がつぶやいた時、石像が突然に話し始めた。


 「あー? 犬? なにバカなこと言ってんでー! 狛犬だよ! 狛犬! ああ?」

 かなり狂暴な言葉使いで狼夜を威嚇する男の声がした。


 「あーちゃん……ダメだよ。声がデカイよ……」

 隣にいたもうひとつの石像は弱々しい女の声で話し始めた。


 「石像がしゃべってる……」

 トケイが不気味に思いながらつぶやくと、二つの石像が急に人型になった。


 赤系の灰色の着物を着た人相の悪い男と、青系の灰色の着物を着ている眉が下がった女が、それぞれ対照的な顔でこちらを見ていた。


 男の方は髪の毛がライオンのタテガミに似ている。女の方はストレートな灰色の髪だが、頭にツノが生えていた。


 石像は同じような感じだったが、人型になると、雰囲気から格好から、何もかも違っていた。

 「あんたらよォ、狛犬知らねーの? 犬じゃねーよ? コマイヌ!」

 「知らぬ」

 更夜のそっけない態度に男の狛犬が怒りだし、女の狛犬が慌てて止める。


 「たぶん、この神達は『狛犬が神の使いだった時代の神じゃない』んだよ。今の使いは鶴だもの。あ、私はうーちゃんです」

 「なんだ? どういうことだ?」

 狼夜が警戒しながら、うーちゃんと名乗った女に尋ねた。


 「この世界はね、世界大戦の後に生まれ変わっているの。歴史の神々が記憶を書き換えてね、新しい世界にして、スタートさせたのよ。日本人はアマテラス様を掲げて争っていたので、アマテラス様は心を痛めてね、戦争をなくそうとしたの」


 「……つまり、俺達も記憶を消されて新しい記憶を入れられてるということか?」

 狼夜がうーちゃんを見据え、眉を寄せた。


 「そう……だよ」

 「まあ、それはいいんだよ。おめーら、世界改変前のバックアップ世界になんのようだ? ああ?」

 あーちゃんがつっかかるように更夜達を睨み付ける。


 「……桃、筍、ブドウのデータをいただきにきたのだ。あとは……イツノオハバリとかいう剣だ」

 更夜の言葉にあーちゃんは軽く笑った。


 「ダメだね。ありゃあ、こっちのもんだぜ! 俺らに勝てば教えてやるよ。改変前の世界はな、力を持ってるやつが強えーのよ!」

 あーちゃんは更夜を勝ち気に見据えると、うーちゃんを呼び寄せた。

  

 


 

  

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