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闇の世界9

 刀を奪う戦いが始まった。

 千夜は猫夜、狼夜、明夜を連れ、壊れた「K」の世界までたどり着いた。

 「凍夜の気配がない。もういないのか? キツネ耳とメグは無事か? やられたトケイの気配もないようだ」

 世界の外からうかがうが、すべての気配がない。

 「確かに凍夜様の気配はありませんが、妙な気配はします……。ワダツミのメグっぽいような」

 狼夜がつぶやき、千夜も頷いた。明夜は首を傾げていた。

 明夜は戦場を生きていないどころか、武術はまるでできない。

 「この気配……弱々しいな。行ってみるか。メグのみがいるのか?」

 千夜は凍夜が来た時のことを考え、明夜と猫夜を見守ることにし、狼夜に気配の特定に行かせることにした。

 気配が弱いことから、狼夜が行っても問題がなさそうだったからだ。

 「はい。では、いってきます」

 「まずそうならすぐに引き返すか、私を呼べ」

 「はい」

 狼夜は頭を下げると厄が渦巻く世界へと落ちていった。

 黒い砂漠の世界には何もなかったが、凍夜と争ったかのような形跡があちらこちらにあった。

 「……どうしてキツネ耳とメグがいない? トケイも……」

 結界の形跡の他、血のにおいが砂に染み付いている。

 あの二人の他に複数の人達がいたような感じだった。

 「……負けたのか?」

 歩いているとオレンジ色のぼろ切れを踏んだ。

 「……っ」

 ぼろ切れだと思ったのはよく見たらスカートだった。

 「服だ……」

 狼夜は蒼白で黒い砂をかき出す。

 「……っ」

 狼夜は掘り進めて絶句した。

 短い青い髪が覗き、ほぼ裸に近いくらいに服を切り刻まれ、血にまみれたメグが意識なく倒れていた。

 「……ひでぇな……長い髪まで持っていかれたのか。生きてるのか……」

 狼夜は戸惑いながら呼吸を確認する。

 「……っ。息……してねぇっ……」

 体が異様に冷たかった。

 「まさか……死っ……」

 そこまで考えて、狼夜は神が死んだら光の粒になって消えるというのを思い出した。

 「……まだ、生きてるっ!」

 狼夜は慌ててメグを担ぐと、世界から離脱した。

 焦った声ですぐに千夜を呼んだ。

 「お姉さまァ!」

 「……狼夜、どうした?……はっ!」

 千夜と明夜と猫夜は、狼夜が背負っている少女を見て絶句した。猫夜の催眠が一瞬で切れた。

 「メグ……」

 さすがの猫夜も目を見開く。

 「キツネ耳達はどこだ!?」

 「わかりません。いませんでしたっ!」

 狼夜は必死に声を上げた。

 「なんだ……どうなっている……」

 千夜はとりあえず、メグを治療することにした。

 「刀は後回しだ!」

 「これをやったのはアイツなのか……。凍夜……」

 明夜は怒りに震えていたが、千夜が止めた。

 「明夜、今はメグを」

 「……はい」

 「しかし、これからどこへ?」

 狼夜が尋ねた刹那、K のあやがアヤやミノさん達を連れて現れた。

 「……! 千夜さん達!」

 アヤが半泣きで叫び、見知らぬ女とライもこちらをみた。

 「……って、ライがなぜ……」

 千夜はライを知っている。

 妹の憐夜が悲劇的に死んだ後、昔話として祭られてできた神がライだったのだ。知るまで時間がかかったが、彼女とは顔見知りだった。

 詳しくは「TOKIの世界書」に記述している。

 「メグを見つけたんだ!」

 あやが声を上げた。

 「あや、キツネ耳は……」

 「怪我が酷くて意識がないの」

 「……やはり、負けたのだ。あの時に過去戻りがなければっ!」

 千夜は悔やんだが悔やんでもしかたない。

 「メグは……僕に力をくれたんだ……。僕は元に戻れたんだよ」

 あやの後ろにいたトケイがいつの間にか正気を取り戻し、千夜を見ていた。

 「トケイ! メグの力で戻ったのか……? いや、今はそれどころではない! メグが……」

 千夜がどうするか悩んでいると、見知らぬ女が口を開いた。

 千夜が見たことのない女だ。

 「……ふたりとも酷い怪我だねぇ……。アマテラス様んとこに帰るかい?」

 「アマテラス……。あなたは誰だ?」

 「あたしはサキ。太陽神のトップだよ」

 「サキ……」

 千夜がつぶやくと、アヤが続けた。

 「私の友達よ。彼女がいなければ全滅していたわ。本当はサキと凍夜は会ってはいけなかった。サキの世界に入られたら、まずいのよ」

 「あたし達の力は真逆。だから簡単には入れないはずだよ。とりあえず、アマテラス様のとこへ!」

 サキがしきり、千夜は頷いた。

 彼女は上に立つ者だと千夜はわかったからだ。

 「では、よろしく頼む……」

 「任せといてー!」

 こうしてアヤ達と合流した千夜はアマテラスの屋敷へと向かう。

 

 

 ※※


 一方、先にアマテラスの場所にいる更夜と憐夜は、太陽を模した飾りが沢山ある畳の部屋で座らされていた。

 「お兄様、はるさんはどういう方だったのですか?」

 「ああ、お前に似て強い女子だった」

 憐夜の質問にそわそわしながら答えた更夜に憐夜は軽く笑みをこぼす。

 「お兄様、はるさんが元気で良かったですね」

 「ああ……」

 更夜が一言答えた刹那、障子扉を静かに開けた者がいた。

 「失礼いたします」

 黒い髪に柔和な雰囲気、幼子のような笑顔を向ける少女だった。

 その少女を視界にいれた更夜が思わず立ち上がった。

 「はっ……はる!」

 「更夜様、お久しぶりでございます」

 「すまぬ!」

 更夜は突然はるを抱きしめ、涙ながらに謝罪をした。

 憐夜は目を丸くしたが、特に何も言わなかった。蹂躙の末、死んだとならば、まともな死に方ではない。きっと苦しくてせつない死に方だったはずだ。

 ……私よりもきっと辛かっただろう。

 憐夜はそう思い、何も言わないでおいたのだ。

 「すまぬ……っ」

 「更夜様、もう大丈夫ですから……ずいぶん昔のことでございます故」

 はるはそう言うが、更夜ははるを離さずに謝罪を繰り返す。

 「許してほしいわけではない……。俺にはもう、あやまることしかできぬ……。すまぬ……。俺がいながら、暴力を止められなかった!」

 「それは仕方ありません。お気になさらずに。それより、太陽の宮に負の感情を持ち込まぬよう……」

 はるに言われ、ようやく更夜ははるから離れた。

 「すまぬ。会いたかった。はる……」

 「ええ。私もです。静夜には会われましたか?」

 「ああ、会った。彼女は立派に生きたようだ」

 「そうでございますか」

 はるは心からの笑顔で更夜を見ていた。更夜も自然に微笑み、再び優しく抱き合った。

 「再会できで良かったですね」

 憐夜も笑顔になり、つかの間の幸せが訪れた。

 更夜は泣いていた。

 子供のように泣いていた。

 憐夜は、更夜が泣き虫だということを隠していたのだと、この時初めて知った。

 男が泣けない時代はもう、終わっている。

 「お兄様、沢山泣いてくださいね……」

 憐夜は優しく笑い、すみで大人しく座っていることにした。

 

 

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