表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
189/208

闇の世界5

 凍夜が現れてからずっと、「K」である「あや」が結界を張って攻撃に耐えていた。後ろにはアヤと怪我をしているミノさんがいる。


 凍夜は闇に落ちた刀神ちぃを的確に振るい、結界のほころびを見つけようとしていた。長くはもたなそうだった。


 「あや……」

 アヤはもうひとりのあやを心配そうに見つめる。アヤにはもうできることはなかった。

 太陽神のトップであるサキを必死で呼んだ。


 「お願い……サキ……助けて」

 アヤが何度目か呟くと、光が突き抜けた。

 「……!? な、なに?」

 あまりの眩しさに目を瞑った。   目を瞑った先で何かと斬り合う音が響いてきた。


 アヤは光が止んでから目をうっすらと開けた。


 「助けにきたよ! アヤ!」

 聞き覚えのある友神(ゆうじん)の声がする。アヤは目に涙を浮かべて彼女を見た。


 「サキ……来てくれたのね」

 「当たり前じゃないかい。友達だろ?」

 サキという黒髪の少女はアマテラスと同じような羽衣と着物を着て、頭に太陽の王冠をつけていた。


 彼女が現太陽神のトップだ。


 「凍夜は?」

 アヤは素早く感情をもとに戻すと、鋭く言った。黒い砂嵐で視界はあまりよくない。


 「あそこ。……強い……マガツミの力が強すぎるよ」

 サキは、一定距離をあけて(たたず)む凍夜を睨み付けた。


 「アヤ!」

 ふと、もうひとり、アヤを呼ぶ声がした。アヤが振り返ると、ドーム状の結界内にもうひとりの友神がミノさんを抱き起こしていた。金髪に金色の瞳、赤いベレー帽、ボーダーのシャツを着た少女。


 それを見た時、アヤの顔は少し緩んだ。


 「ライ……」

 芸術神ライ。彼女もアヤの古くからの友神だ。想像物が多い弐の世界で自由に創作ができる数少ない神である。


 「いったん、逃げようよ!」

 ライはミノさんの怪我の具合を見て泣きそうになっていた。


 「……逃げたいけれど、どうしたらいいのかわからないのよ」


 「弐の世界のものを自由に動かせる私なら、あの男を怯ませられるかも。でも、どうやって逃げる? 私達はこの本で……」

 ライは「弐の世界の時神について」と書かれた本を取り出す。


 「あ、それ……私が……」


 「そう。アヤが書いた本。天記神(あめのしるしのかみ)に頼んで貸してもらったの。これを使うと、私がいれば関連した世界に来れるみたいで……。これはアヤが書いたからアヤの元へ行けたの。後は、更夜様の記述のとこで、あの男と繋がったみたい。だから、入れたけど、この世界から出られないの」


 ライが早口で説明を入れていると、あやが咳払いをした。


 「わたし、『K』なんだけど」

 あやの言葉にアヤの目に光が入った。


 「あや、皆を連れて逃げるわよ。凍夜がいたら世界の修復なんてできないでしょう? ライ、あなたはこちらの世界の物を動かせる。この世界にあるものを使って、少しでも凍夜を邪魔できるかしら?」


 「できる!」

 ライは深く頷くとライの霊的武器「筆」を取り出した。


 彼女は絵括神(えくくりのかみ)。人間の脳内から絵方面のひらめきを引き出す神だ。


 「この世界を迷宮に、そして私達を幻影に!」

 ライは息を吐くと筆を動かし始めた。驚くことにライは空間に絵を描いている。絵はやがてこの世界全体を覆う迷路を作り、アヤ達が何人も描かれた。


 「すごい……」

 確かに世界を迷路にして、アヤ達を絵として産み出した。


 ただ、絵であるので、描かれたアヤ達は動かない。凍夜が気がつく前に去る必要があった。サキはライを見て頷くと、体から太陽神特有の炎を撒き散らし、凍夜の視界を奪う。


 ライとサキはあやに指で空を指した。声を出すと相手に気づかれて術が上手くいかなくなるからだ。あやは素早くアヤ達を浮かすと黒い砂嵐に隠れるように世界から離脱した。


 「うまくいった!」

 サキが小さく声を上げた刹那、人型をした黒い影が逃げるアヤ達の前を塞いだ。


 「うっ……」

 呻いたのはサキのみだ。気がつくとサキの肩あたりが焼けていた。サキは正反対な力を持っているため、厄に当てられると弱る。


 反対に黒い人型の厄はサキに触れ、白い煙を上げている。


 「サキ、凍夜には『ちぃ』っていう刀神がいて、厄に落ちてしまっているの」

 「なんだって!? ちぃちゃんが!?」

 サキとライが同時に声を上げた。


 「え……?」

 二人は刀神の事を知ってるようだ。


 「色々あってね、前一緒に行動したんだよ」

 「そうそう」

 これはTOKIの世界書二部「かわたれ時…」一話に載せている事件なため、ここでは省く。


 「しゃべらないで! まだ世界から出られてない! 凍夜が来ちゃった!」

 あやが必死な声を上げた。


 「なっ……」

 気がつくと目の前に刀を振りかぶった凍夜が黒い砂塵に紛れ、現れた。顔は微笑んでいるが目は笑っていない。

 言い様のない恐怖がアヤ達を襲う。


 「……あたしがやるよ!」

 サキは太陽神の力を引き出し、霊的武器「剣」に光を集めた。


 「ちぃちゃん! 目を覚ますんだよ!」

 サキは凍夜の刀に向かい、叫んだ。しかし、刀神は反応をしなかった。


 凍夜は厄神の荒れ狂う風にのり、サキに攻撃を仕掛けてきた。サキはあやの「K」の力で空中にいながら凍夜の刀を弾いた。


 サキの剣から炎が上がる。太陽の光を剣から発することで、厄が体に入るのを上手く防いだ。


 「うー……強い……」

 サキは痺れる手首を回すと、再び剣を握った。


 「サキが頼りだけど、サキは長く厄にあたってはいけないよ」

 あやが再び球体の結界を張った。


 「も、もう一回、逃げる技を考えてみる!」

 ライは怯えた顔のまま、恐る恐る筆を動かす。凍夜とサキが戦っている間にライは何人ものアヤ達を絵に描いた。パッと見て本物か区別がつかない。


 「影分身って感じで……」

 ライはさらにサキと凍夜の間に壁を作る。凍夜の視界を一瞬だけ奪うのが狙いだ。その間にサキはあや達の元へ戻り、あやは高速で世界から離脱した。


 壁がなくなった後、凍夜の前には無数のアヤ達がいた。


 凍夜は一気にすべてを破壊し、あやを追った。


 「……もうきた……」

 サキが唸り、アヤ達は顔を引き締める。もう世界からは出ている。しかし、凍夜はしつこく襲ってくる。顔が笑っているのがかなり不気味だ。


 「これ、逃げられるかな……」

 ライが小さくつぶやく横で、アヤが眉を寄せていた。


 「……アヤ、どうしたの?」

 ライに問われ、アヤは小さく答えた。


 「時神の力が凍夜の世界内からこちらへ近づいてくるわ。メグの……力のようなものも……」

 アヤはそこまでつぶやくと、目を見開いた。


 「そうだわ! メグをまだ見つけてない! ここにいるのよね?」

 アヤはあやに尋ねた。ミノさんは気を失っているようで先程から返事がない。アヤが頑張ってミノさんを背負っていた。


 「……今は助けられない。トケイがこちらに来るよ」

 「トケイ?」

 「うん」

 あやが答えた刹那、凍夜の後ろからトケイが現れた。


 ズボンに近未来的なウィングをつけた少年、トケイが凍夜を蹴りとばし、こちらに向かってきた。


 攻撃をしてくると思ったアヤ達は構えたが、トケイは正気を取り戻していた。


 「皆! はやく逃げよう!」

 トケイはKであるあやの手を掴むと、高速で進み始めた。Kをつれていけばアヤ達も強制的にKに引っ張られる。


 一時的だけアヤ達があやの一部になっているからだ。


 凍夜は体勢を直してアヤ達に向かい飛んでくるが、ライがトロンプルイユの絵を描き、凍夜を惑わした。


 「だまし絵……」

 凍夜からは全く違う方向に飛び去るアヤ達が映っている。その一瞬の隙にアヤ達は凍夜から離れ、近くの世界に隠れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ