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闇の世界1

そろそろ完結にむけて動きます!

猫夜(びょうや)はいらついていた。憐夜(れんや)を追っていった使いの人形達が暗い顔で戻ってきたからだ。


「あんた達、なんで戻ってきたのよ……。憐夜はどうしたのよ!」

荒々しく人形を蹴散らした猫夜は光のない瞳で叫んだ。


「ご、ごめん……。あの……、もうあの男に従うのはやめた方がいいでごじゃる」

着物を着ているドール、リンネィが猫夜にやんわりと言った。

「うるさいわ」

猫夜は三人組の人形を睨み付けてから、隣にいる竜夜(りゅうや)を見据える。


「さっさと俊也(しゅんや)以外を捕まえましょう」

「……」

竜夜は影縫いの術がかかって動けないルル、明夜(めいや)に攻撃を加えようとしていた。


「う、動けないっ!」

ルルは明夜に叫ぶ。


明夜も影縫いにかかり、動けなかったが、ルルを守ろうとしていた。ちなみに、猫夜に先程、奇襲をくらった俊也は地面に転がっている。俊也が倒れたことにより、憐夜に影縫いがかからず、憐夜のみ、この世界から離脱していた。


「いてて……」

俊也は頭を押さえながら起き上がった。


「俊也! 影に刺さってるクナイを外してくれ! はやく!」

俊也は起き上がって早々に明夜にそう命令された。

混乱している頭で、俊也はとりあえず、二人の影に刺さっていたクナイを蹴る。明夜とルルの体が自由になった。


「忍に背を向けるな!」

とっさに逃げようとしたルルに明夜が叫ぶ。ルルは肩を震わせ竜夜を視界に入れたまま立ち止まった。

「忍に背を向けるな……。殺されるぞ」

明夜は折れた刀を構え、ルルにもう一度、静かに言った。


「……サヨ」


「?」

竜夜はなぜかサヨの名を小さくつぶやいていた。明夜とルルの眉が動き、俊也は動揺していた。


「お、おい! 今……サヨって言った?」

「何やってんのよ! 竜夜! さっさと捕まえて!」

猫夜が叫ぶが竜夜は動かずにつぶやきはじめた。


「サヨは……未来に産まれるはずだった魂……。だが『メグ』が我々のお父様を倒すために魂の調整をし、早めに産まれる設定にし、失敗した……。だから彼女はあの段階で、不完全だったため、水子になる予定だったのだ。我々の魂だけでは生まれ変わることができなかったのだ。それが真実だ……望月(もちづき)静夜(せいや)。ワダツミを恨むか? 望月静夜」


「……なんだ……? 突然」

明夜には竜夜の言葉の意味がわからなかった。


「……見つかってしまいましたか……。サヨについてはわかりましたね」

ふと、木々の上から声が降ってきた。


「……?」

猫夜が肩を震わせると、木の上から女がすばやく飛び下りてきた。


「あんた、誰よ……」

猫夜が噛みつく勢いで女を威嚇する。


「はい。私は望月静夜です。水子になるはずのサヨを助けた女です」

「……ふーん」

静夜の言葉を聞きつつ、猫夜は冷たい目で見下ろした。


「竜夜からデータを引き抜き、読ませていただきました。サヨの秘密。サヨがなぜ、『お祖父様』と敵対するのか、知りたかったものですから」

猫夜は静夜の一言に眉を寄せた。


「……おじいさま? ふーん、あんた、まさか……。凍夜様のことは皆、望月の、すべての父という意味で『お父様』と呼ぶけれど、あんたはおじいさま……、『ご先祖様』でもない。あんた、望月家を離れたやつだね」

「鋭いですね。その通り」

静夜は優しく微笑みながら答えた。


「ここに何の用なわけ?」

「……お祖父様(おじいさま)のお城、また大きくなってますね。今は天守閣のよう」

静夜は猫夜の問いには答えず、瓦屋根の小さい家だったはずのお城を指差してつぶやく。


「……聞いてるの?」


「私が何をしにきたか? 竜夜を『元に戻しにきた』のですよ」

再び尋ねた猫夜に静夜は、今度はしっかり答えた。


「……?」


「弐の世界、管理者権限システムにアクセス『分解』」

「!?」

静夜の発言に猫夜は目を見開いた。


「竜夜、あなたはサヨに帰りなさい。サヨの一部になり、幸せを感じて……」

ルル達が戸惑う中、竜夜はどこか安心した顔で静かに目を閉じた。


「……ああ。あの娘の中はあたたかいんだ。殺伐としていたあの時とは全く違った。華夜……雷夜……今いく」

竜夜はそうつぶやくと、光の粒になり世界から消えた。

「なっ! あんたっ!」

猫夜は困惑した顔を静夜に向けていた。


「……私は魂の管理をしている『霊』です。普段は何もしませんが、私の子孫の『K』達が助けを呼んでいましたので騒動の中に入りました」

「魂を管理する霊? そんなの聞いたことないわ!」

猫夜は疑惑の目を静夜に向けた。


「……あなたはそろそろ『K』を解除されるでしょう。そして、『K』ではない私から罰を受けます。『K』はこういった汚れ仕事はしませんから」

静夜は猫夜を睨み付けるとルル達を見た。


「怪我はありませんか? 『K』から聞きました。逢夜様の奥様、そして千夜様のご子息様、そして……現在の当主様」

静夜はルルと明夜、そして俊也に丁寧に尋ねてきた。


「……え、ええ」

「残念ながら、私は身体能力も霊的力も高くないので、お祖父様には勝てません。ただ、竜夜を解放しにきただけでした」

静夜は丁寧に頭を下げた。


「ちょっと! 私を無視するんじゃないわよ」

猫夜は再び静夜に噛みついた。


「……猫夜、あなたはもう戻れないところまで来てしまった。……あなたは魂の解析ができる『K』だったようですが、サヨの解析を完璧にできなかったでしょう?」

「……っ!」

静夜の言葉に猫夜は奥歯を噛みしめた。


トケイになりすまし、サヨを『K』の世界へ送り届けた時、猫夜はサヨの魂を解析していた。

しかし、猫夜は完璧には解析ができなかった。


……ずっと不思議だったんだけど……。

……あの子の未来が「赤ちゃん」なのはどういうことなんだろう?


あの時の猫夜はここまでしか解析できなかった。静夜はサヨ本人すらいない中、あっという間に解析してしまった。


……しかし……。


猫夜は思う。


……メグがお父様を倒すためにサヨの魂を早く成長させた……だって?


猫夜は眉を寄せた。


「魂をいじるのは禁忌だったはずでしょ? 失敗したならなお、罪だわね」

猫夜は余裕を取り戻し、高らかに笑った。


「そうです。メグは最初、あなたに騙された。お祖父様をよみがえらせてしまった後、メグは弐の世界にて未来を予知し、動揺し、サヨの魂を早送りするという禁忌に手を染めたのです。メグは……黄泉(よみ)海原(うなばら)を守るツクヨミ様に泣きながら謝罪をしております。そして罰を受けました。十七年の苦痛と封印です。彼女は隠しているようですが、罪を解かれたばかり。本調子ではないはず。罰を受けて解放されてから、しばらく立ち上がることすらできなかったのですから」


「……そう。無駄に知ってるのね」

猫夜の挑発にも似た言い方に、静夜は怒ることもなく、淡々と続けた。


「私は魂の記憶を覗いただけであり、実際に見たわけではありません。『K』でも神でもないですからね」

その淡々とした言い回しに猫夜はどことなくいらついていた。


「あ、そう。まあ、あんたもお父様に壊されることになるだろうから、楽しみだわ。どんな声で泣くのかしら」


「残念ですね。私には大切な『お父様』がいます。お父様がお祖父様の暴行を許すはずがないですので、あなたは私が泣くところを見られないでしょう」

そっけない静夜の発言に猫夜の怒りの感情が膨れ上がる。


「……お前はどんな手を使ってでもお父様に差し出してやる……」

「……あなたには負ける気がしませんね。明夜様、俊也様、ルル様、猫夜から逃げてください。そしてお祖父様に見つからないよう、細心の注意を」

「……逃げると言ってもなあ……。(いち)の世界の魂が二つもいてだね……」

代表で明夜が困惑した声を上げた。


「でしたら、この猫を一緒に捕まえましょう……」

「……なめんじゃないわ……」

静夜を睨み付けた猫夜は状況を見ていた三体の人形を乱暴に扱いはじめた。



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