壊された世界15
更夜、千夜、狼夜は鈴を抱えながら凍夜の世界へ向かっていた。
目的はルル、明夜、憐夜を救うことだ。ただ、現在、更夜達は憐夜が逃げていることを知らない。
「世界の場所はわかる……」
千夜が先頭で弟達を誘導していた。鈴は全く目を覚まさない。
ネガフィルムが絡み付く宇宙空間を滑っていると、何やら迷っている魂がいた。
「……あれはっ!」
「憐夜!」
千夜が気がつき、更夜達も驚いた。慌てて憐夜の元へ駆け寄る。
「無事だったのか! 心配したぞ!」
「あ! お姉様! お兄様!」
憐夜が言い終わる前に千夜が抱きついた。千夜の肩がわずかに震える。泣いているようだ。
「憐夜……」
更夜は姉ごと憐夜を抱きしめた。
「酷いこと、されなかったか?」
千夜の言葉に憐夜は軽く頷いた。
「私は逃げました。……あの、色々言わないといけないことがあるんです……」
憐夜の様子を見て、事態が大きく動いていることを兄弟達は感じ取った。
「……俺が見張っています。千夜お姉様、更夜お兄様は憐夜お姉様とお話を」
狼夜が丁寧に言うと、外に気を張り巡らせた。
憐夜はそれを横目で見つつ、話し出す。自分がルルと明夜と逃げたこと、逢夜達と合流していたこと、時神アヤが時間の狂った世界に入ったこと、ごぼうからマガツミがサヨに入り込んだこと、サヨがおかしくなったことまで、矢継ぎ早に話した。
話した憐夜は震えながら目に涙を浮かべ、不安げな顔でこちらを見ていた。今まで気を張りすぎていたのかもしれない。
「憐夜、大丈夫だ。今回は俺達がついている」
更夜が言い、
「凍夜の呪縛を断ち切った故、負けぬ」
千夜も被せて言う。
「……お姉様、お兄様……、お父様の世界に行きますか? 」
少し落ち着いた憐夜が涙を拭って尋ね、更夜達は頷いた。
「ルルと明夜を助けよう。凍夜が戻る前に」
「……鈴ちゃん……ごめんね……」
憐夜が更夜に抱えられている鈴を悲しげに見据えた。
「憐夜、お前のせいではない」
「……」
更夜が憐夜の頭を撫でるが、憐夜の表情は明るくならなかった。
「鈴ちゃんは酷い呪縛にかかってます。どうしますか?」
憐夜はもうひとつ、心配なことを震える声で尋ねた。
「……直接……術を解く。凍夜を倒すしかない」
更夜は呼吸を整えてから答えた。
「……鈴ちゃんが?」
「いや、全員で立ち向かう。そのためにこちらも地盤を固めねば」
千夜も憐夜にしっかりと答えた。
憐夜は頷く。
「……わかりました。では、まず、お父様の世界へ。私が案内します」
憐夜は更夜と千夜を連れて狼夜の元まで飛んでいった。




