壊された世界8
サヨ、逢夜、憐夜、アヤは散り散りになった仲間を集めるため、赤い空の世界から宇宙空間に出ていた。
サヨの「K」の力を使い、霊ではないアヤを運ぶ。
サヨはまだ、ミノさんやメグや更夜が、雷夜と戦っていると思っている。
「……まず、皆の手助け? メグのところに戻ろうかな。 アヤ達を助っ人に、襲ってきた猫夜ともうひとりの男を倒す」
「そうね……」
サヨの後ろを飛んでいるアヤが、小さく頷いた。
「ほら、すぐそこだ。更夜がいるはずだから心配はないと思うがな。俺が見てきてやるから、待ってろ」
逢夜が姿を消した状態のまま、声だけ発した。霊は宇宙空間だと、頑張れば姿を見せていられるが、意識をしていないと見えなくなる。
少ししたら、また逢夜の声が聞こえた。
「見てきた。誰もいねぇ。気配すらない」
「え!? いないわけ?」
サヨが声を上げた刹那、逢夜の姿が現れた。
「いねぇよ。どっかにいっちまったらしい。ここは、現世じゃねぇから、世界から世界への『風移しの術』は使えねぇ。どこにいるかわからねぇな」
「風移しの術?」
「ああ……風向きを見て、鳥の羽を風に流して、仲間に自分の居場所を知らせる忍術だ」
サヨが首を傾げたので、逢夜はため息混じりに答えた。
「ほぇー、すごいおもしろそう! 忍術大好き! ごぼうちゃん使ってやってみようかな!!」
「はあ?」
サヨはいたずらっ子のように笑うと、目を丸くしている逢夜達をよそに、ごぼうを呼んだ。
「ごぼうちゃん!」
「はいはい。サヨ、なあに?」
「風移しをやる! よろ!」
サヨはポカンとしているごぼうに、ふんぞり返って言った。
「ごぼうちゃんは『Kの使い』。現世を生きる奴らを運べるよ! そんで、アヤ!」
「な、なによ……」
サヨに呼ばれて、アヤは困惑しながら返事をした。
「役に立ちたいって言ったよね?」
「え……」
アヤを見据えながら、サヨは勝ち気な顔で叫んだ。
「弐の世界、管理者権限システムにアクセス、『同調』」
サヨはなぜか、ごぼうと繋がった。
「……?」
「アヤには、ごぼうちゃんと偵察に行ってもらうね。『鳥の羽』代わりに」
「なに言ってるのよ?」
「アヤとごぼうちゃんは居場所がわかる! あたしがごぼうちゃんと繋がってるから!」
サヨの得意気な顔を見ながら、アヤはさらに眉を寄せた。
「つまり、私が、カエルのぬいぐるみに連れられて、あちこち行きながら仲間を集めるってこと?」
「ザッツ、ライ! あ、ザ、つらいじゃないから、そこんとこよろ」
サヨが元気に返事を返してきたので、アヤは不安げな顔をしたまま、さらに尋ねた。
「憐夜さんとか、逢夜さんはどうするの?」
「彼らはあたしを守る役! ごぼうちゃんがいないと、何にもできないもん。つまり、ある一定の場所で待機してる。あたしが、敵に落ちたらマケ。だから、あたしは隠れて今は指揮する。アヤには護衛のごぼうちゃんがいるから、なんとなかなる! 頭いいっしょ!」
「後半雑な気もするけれど……、いい判断だと思うわ」
アヤの顔色が悪くなるが、アヤはやる気で頷いた。アヤはいままで、ひとりで何かをしたことがない。だから不安なのだ。
だけれど、役に立てるチャンスなら頑張りたい。
「おい、アヤ、大丈夫か? お前、身体能力高くないだろ」
「アヤ……」
逢夜と憐夜の心配そうな声がする。それを打ち破るようにサヨが声を上げた。
「大丈夫! アヤには、ごぼうちゃんがいる。つまり、モニターであたしもいるわけ」
「だけど、サヨ、『Kの使い』はそんな遠くまで通信できないでしょう?」
憐夜が姿を現して、心配そうな顔をサヨに向ける。
「できるよ。あたしなら。想像物を操るのはコツがいる。夢の世界に住んでいる『K』は想像物を想像物だと思っていない。アヤ、あんたは、自分が想像物だって常に考えてる?」
「……考えていないわ。確かに神だから想像物よね。私……」
「そう、つまり、人形、ぬいぐるみとかが、動いているのを、『想像物だと思えるK』が少ないから、人形達をうまく扱えない。皆、当たり前になっていて、想像物を想像物だと思っていないから上手くいかない。こちらの世界が常識になってる。……だけど」
サヨは口角を上げて不敵に笑うと、再び口を開いた。
「あたしは現世から来た。当然、人形は動かない。最初、こっちに来たとき、びっくりしたよ。神様は見えるけど、ぬいぐるみがしゃべって動くとは思わなかった。つまり、現世の常識がある人は、『あたりまえ』になっていないから、『想像できる』。それが人形を操るコツ。だから、現世に生きている、あの親子の『K』も普通では考えられないことができる」
「あやと、お父さんの健ね」
アヤの返事にサヨは深く頷いた。
「アヤ、大丈夫だから行ってきて」
「……信じるわよ……。あなたのぬいぐるみが動かなくなったら、私、どこかの世界に落ちて、動けなくなってしまうんだから……」
アヤが不安げにサヨを見るが、サヨがウィンクを返してきたので、アヤは不安になるのをあきらめた。
「じ、じゃあ……行くわね……」
「いってら!!」
サヨはさっさとアヤを送り出した。ごぼうは宇宙空間を飛ぶように跳ね、アヤも引っ張られるように強制的に連れていかれた。
「がんばれー」
「おい、サヨ……」
サヨが手を振っていたところへ、逢夜があきれた顔で現れる。
「ダイジョブだって!ダイジョブ、ダイジョブ! 大丈夫!」
「あの神は身体能力が低いんだぞ……。本当に平気なのか?」
逢夜にサヨは勝ち気な瞳を向けた。
「あんた、女が皆、弱いと思ってんでしょ? わかってないなあ。女に甘い男は女には好かれるけど、女に騙される男なんだぞ。ひひひ……」
「ああ?」
サヨのバカにした態度に、逢夜は少しだけ、いらだちを見せた。
「女はね、あんたが思っているよりはるかに強い。ひとりになったときなんて特に。度胸があるからね。まあ、男がいると、頼りたくなる生き物だったり。女は皆、それがわかってるよ。自分が、男がいらないくらい精神的に強いこと。ひひひ……」
「……ちっ、女の裏側を覗いた気がする……」
サヨの不気味な笑みを見つつ、逢夜は顔をひきつらせた。
「男のが優しいんだよね。あたし、知ってる。とりあえず、下の世界に隠れよ?」
サヨは逢夜に満面の笑みを向け、頷いた。
「調子狂うぜ……。憐夜、すぐ下の世界に隠れるぞ」
「はい。お兄様」
憐夜は複雑な笑みを向けつつ、逢夜に頷いた。




