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壊された世界1

凍夜(とうや)から逃げたルルと憐夜(れんや)は夜の世界をひたすらに走っていた。この世界は赤い空に砂漠ではなく、明け方になりかけている空に木々が乱立する森の世界だった。


「……はあはあ……なんか同じとこをグルグル回っている気がするよ……」

ルルが憐夜に不安な表情を向ける。


「薄暗いからよくわからないわね……」

憐夜は困惑していた。

ルルが現世の神であることを知っているため、逃げられるのが「Kの使い」であり、霊である自分だけなのはわかりきっていた。


憐夜は「Kの使い」であって「K」ではない。おまけに「特殊なKの使い」でもないため、ルルを連れて世界から離脱するのは不可能だった。


つまり、憐夜と明夜以外、この世界内をずっと逃げ回らなければならない。


気がつくと黒い人影がたくさん現れていた。人影はゆっくり不気味に揺れながらルル達の方へと迫ってきている。


「それから、なんなの?こいつら!」

憐夜は半泣きで後退りをしつつ、叫んだ。


「これは……厄だよ。黒く染まった負の人間の感情だよ。人型をしているから人間の。私は厄除け神だからわかるの。憐夜、私の後ろに……」

ルルは憐夜を後ろに回すと、手を前にかざした。


ルルが手を前にかざした刹那、まわりの黒い人影が弾けるように消えていった。


「なに!?」

「……厄を浄化したの」

憐夜の驚きの声にルルは冷静に答えた。


「すごい……」

「とにかく、逃げよう!」

ルルが憐夜の手を引いて逃げようとした時、憐夜の「待って!」という声が響いた。


「……!?どうしたの?」


「言わなきゃいけないことがあるの……あのね……」

憐夜が先程考えていた内容を口にしようとした刹那、銀髪の、やたらと髪がトゲのように立つ男が音もなく現れた。


「……っ!えーと……誰だっけ……」

「さっき会った……」

憐夜とルルが蒼白のまま、名前を思い出そうとしていると、横から鋭い声がかかった。


「竜夜!!待て!」

茂みから出てきたのは明夜(めいや)俊也(しゅんや)だった。


「明夜さんと……」

「あー、えっと俊也です」

憐夜とルルが混乱していたので、俊也はとりあえず自己紹介だけをした。


「俊也さん……」

「出会って早々に竜夜がいるとは」

明夜は眉を寄せつつ、憐夜とルルを背に回し、折れた刀を構えた。

竜夜の瞳には何も映っておらず、ただこちらを睨み付けていた。


「竜夜、見逃してくれない?」

明夜が頬に汗をつたわせながら尋ねる。


「……見逃しはしない。お前らはお父様を裏切った」

竜夜は睨み付けながら、憎しみの感情がこもる声で言った。


「戦ったら勝てないんだ。だから見逃してくれ」

明夜はさらに言葉を重ねる。


「見逃せるわけないだろ。裏切り者」

竜夜はさらに鋭い視線でこちらを見据えていた。


「まずいな……どうする?あ!俊也、盾になってくれ」

「え!?」

明夜は俊也を引っ張ると、一番前に押し出してからゆっくり後ろに退いた。


「ち、ちょっと!僕に死ねと!?」

「違う違う。今、君が望月家の一番上。凍夜は君を殺さない。だから安全なんだ。逆に」

「ああ……漫画とかで女の子の盾になるってこういう気持ち……」

俊也は怯えながら明夜に引っ張られていく。

確かに竜夜は襲ってこなかった。


「竜夜、何してるの?さっさとやっつけなさいよ」

ふと、少女の声が明夜達の後ろから響く。


「……?」

恐る恐る後ろを振り返ると、銀髪の少女、猫夜(びょうや)がいた。


「げ……」

明夜が顔色を青くした時、猫夜は憐夜(れんや)を呼び寄せた。


「憐夜、何してるの?契約を結んだでしょう?こちらで手伝ってちょうだい」

「や、やだ」

憐夜は首を横に振り、否定。

「やだ?それは通らないわよ。契約を結んだんだから」

「なんなの?その、モノを扱うみたいな契約!」

憐夜は猫夜に怒りをぶつける。


「あなたは『Kの使い』なんだから契約を結んだら従うのが当たり前でしょう?」


「当たり前じゃないよ。私達は人形じゃない。使いは様々だけれどね、人間は特に個々がある。だから、従わなくてもいい。平和を願う『K』が服従なんてさせないよ。普通」

憐夜の言葉に猫夜は眉を上げた。


「あなたを見てるとイライラする。あれだけお父様に壊されて……まだ歯向かうの?」


「歯向かう?違うよ。普通のことを言ったのよ。ねぇ、自分はできない選択だから悔しいの?そうなの?」


憐夜の挑戦的な目付きに猫夜の怒りは頂点に達した。言われたくない事を沢山の人がいる前で言われた、父に殴られ叩かれて泣いていた憐夜から、そんなことを言われたのはかなり屈辱だった。


「お父様にお仕置きしてもらいましょうか?鞭じゃすまないわよ。憐夜」

猫夜の凍りつく発言に憐夜は体を震わせたが頭を横に振り、息を吐く。


「大丈夫。皆が守ってくれる……。私はひとりじゃない。お兄様もお姉様も仲間もいる。だから……あなたには屈しない」

「……っ」

憐夜の真っ直ぐな目に猫夜は言葉を失った。


「……どうして……なんで?あなた……お父様に殴られただけて泣き叫んで土下座してたじゃない!みっともなく、『ごめんなさい、許してください』って……」


「そうだったわね。でも、今は違うわ。怖い気持ちはあるけれど、仲間が沢山いるから平気」

憐夜は呼吸を整えて猫夜を睨み付けた。


「このっ……お父様に捕まってしまえ!竜夜!なにしてんのよ!さっさとやれ!!」

猫夜が荒々しく竜夜に命令する。


「お父様の命令に反してしまうだろ。お前こそ、当主を殺せばどうなるかわかるよなあ?」

「……ちっ。わかったわよ」

竜夜の発言に猫夜は酷く冷たい顔をし、ゆっくり憐夜達の場所へ歩いてきた。


明夜達は猫夜の能力を知らない。なぜ、丸腰のまま敵である彼らの方へ歩いてくるのかわからなかった。


気がつくと猫夜がいなかった。


「……?どこいった?」

明夜が焦った声を上げた刹那、前にいた俊也から殺気を感じた。

明夜はなんだかわからないまま、慌てて俊也を離し、後ろに後退した。


「いっつっ……」

後退した直後、明夜に鋭い痛みが襲う。肩先から生温かいものが手首に流れ落ちてきた。


「血!?斬られた!」

明夜は肩先を押さえて動揺した顔を俊也に向ける。


俊也は

「竜夜、崩したよ」

と微笑んでいた。


「……猫夜だわ!その俊也さんは猫夜!!」

憐夜が叫び、ルルと明夜は慌てて俊也から離れる。

すると、いつの間にか小刀を持った竜夜が明夜の目の前にいて、(ふところ)に入ってきた。


「……まずい!」

明夜が折れた刀で竜夜の小刀を弾く。

その時、突然明夜達は動けなくなった。


「な、なんだ!?」

「影縫いだよ。明夜。竜夜が影縫いの術をかけた」

俊也に扮した猫夜が勝ち誇った顔で笑った。


「うう……動けない!」

ルルも金縛りにあったかのように動けなくなった。


「……皆!」

憐夜だけはなぜかかからなかった。よくみると憐夜の足元に、もうひとりの俊也が呻きながら横たわっていた。おそらく、こちらが本物で竜夜は俊也がいるために、憐夜の影に針を投げて縫い付ける事ができなかったのだろう。


「憐夜!ひとりで逃げて!」

「みんなは?」

「いいから!!」

ルルの叫びに憐夜は慌てて世界から離脱を始める。彼女は「Kの使い」であり、霊なため、自由に離脱できる。


ここで移動できないのはルルと俊也だ。彼らは現世を生きる者達であるため、「K」か彼らを連れていける特殊な「Kの使い」でなければ離脱できない。


ルルはそこまではもちろんわかってはいなかったが、憐夜を助けるべく、そう言った。憐夜が捕まれば先程の猫夜の恨みにより、酷い暴行を受けそうだったからだ。


「追いなさい。なにしても構わないから連れ戻して」

猫夜は怒りを押し殺した声で三人組の人形を出すと、命じた。

三人組の人形は小さく頷くと離脱した憐夜を追って去っていった。


※※


一方で拘束した鈴を抱えて弐の世界をさ迷っていた千夜(せんや)狼夜(ろうや)の前に、突然にトケイが出現した。先程、猫夜の人形が飛ばしたトケイがここに現れたようだ。


「……っ!」

別の世界に身を隠す予定だった二人は慌てて立ち止まる。

トケイは鈴を見つけると足についているウィングを回して襲いかかってきた。


「なんだ!?」

狼夜が戸惑いの声を上げる中、千夜は狼夜を掴み、素早く方向転換して逃げ始めた。


「……時神弐現代神(ときかみにげんだいしん)鈴が排除すべき者になっているようだ。とにかく、逃げるぞ」

千夜は感覚を研ぎ澄ませてトケイからの攻撃を間一髪で避けながら進む。


トケイはしつこく千夜達を追い回していた。正確に言えば鈴を。


「狼夜、どこかの世界に一度落ちるぞ」

「はい」

狼夜が千夜に返事をした刹那、千夜が眉を寄せた。


「どうしました?」

「更夜の気配がする」

「では、そちらに……」

千夜の一言に狼夜が答えようとした刹那、トケイの切り裂くような回し蹴りが飛んできた。


「速いっ……」

狼夜は千夜を守り、トケイの足を受け流す。


「……お姉様、更夜お兄様がいるのなら鈴を連れて逃げてください。こいつは俺がいったん抑えます」

トケイは千夜が抱えている鈴目がけて攻撃を加えるが、狼夜が必死で受け流した。


狼夜は防御ではなく、受け流す術を持っているらしい。今もトケイの回し蹴りを手で撫でるように受け流し、回転がついたトケイは止まれずに上に舞い上がっていた。


「狼夜、頼んだ」

千夜は鈴を抱え直すと一直線に更夜(こうや)達がいる世界へと落ちていった。

トケイが追おうとするが、狼夜に体の軌道を変えられ、勢いで横に飛ばされた。


「少し柔術まがいのをやっていたんだ。……ちっ」

舌打ちした狼夜の顔が歪み、頬に切り傷が現れる。狼夜はつたう生温かい血で斬られたと気がついた。


「風圧で頬を切りやがった……こいつ」

狼夜の睨みも効かず、トケイはいなくなった鈴の気配を探している。


「俺は眼中にねぇのかよ」

狼夜はトケイを好戦的な表情で見据え、意識の集中を始めた。

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