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神々の世界25

雷夜が消えてから、何かに浸る暇もなく、トケイは無表情で猫夜に足を振り上げた。猫夜は顔を手で覆い、座り込んでいる。


「待て!トケイ!」

いち早く気がついたのは更夜。


……猫夜に攻撃をするつもりか!


機械のようなトケイは更夜よりも動きが速かった。誰も反応ができない中、更夜にだけは振り下ろされるトケイの足が見えていた。


「……システム破壊……K……破壊します」

無表情で無感情で無機質な声音が響く。


「待て!!」

更夜が必死に手を伸ばした時、猫夜の側にうなだれていた三人組の人形のひとりが猫夜をかばった。


衝撃が辺りを震わせ、砂が勢いよく舞い上がる。まるで爆弾が落とされたかのような衝撃だ。

かばった人形はボロボロになりながら叫んだ。


「ムーン!リンネィ!はやく!」

「シャインしっかり!……くっ!リンネィ、空間転移でござい!」

ムーンだと思われる人形の、叫びに近い声がリンネィだと思われる黒髪の少女人形を動かす。


三人組はトケイを三角形に囲むと必死に空間転移を発動させた。トケイはまわりの砂を巻き込みながら跡形もなく消えていった。


三人組の人形は続いて猫夜を空間転移させる。猫夜は三人組の人形と共に世界から離脱した。


「逃げた……」

メグがつぶやき、更夜とミノさんは目を伏せる。


「猫夜の心理状態はけっこう……」

ミノさんが暗い顔をしながら言葉を途中で切った。


「……同時に……凍夜を憎んでいることもわかった。苦しめられた彼女は凍夜に先に消えられるのが嫌だった。同じ苦しみを与えたいとも思っていると」

メグは気味悪い赤い空を見上げる。


「……猫夜が一番……厄介か」

「ええ……」

心なしかメグの背中に寂しさがただよっていた。


「女や子供は痛めつければ言うことを聞く……。そういう考えの時代があったのは知ってる。女や子供にもちゃんと心があって、貫きたい正義がある。だから対等に声を聞いてほしい。男女の平等とはそういうことでしょう。でも、あの男はそんなこと、聞く耳を持たない。あの男が妻達に殺されたと聞いた時、当たり前だと思った。私は神で平和を願うKなのに、酷い殺され方すればいいのにって思ってしまった」


「……メグ」

ミノさんと更夜はなんと言えばいいかわからずに黙った。


「中立なんて……無理。関係ない私にだってあの男が憎いという感情がある。あなた達親族が、どれだけ虐げられて苦しかったか想像ができない。私は平和を願う者なのに……あの男には酷い死に方をしてほしいと思っている」


メグはついに耐えきれなくなり、どうしようもない感情から涙が(あふ)れ始めた。


「神でも感情を抑えるのは難しいのか……。とりあえず、猫夜の魂年齢を戻させる。凍夜の酷さはここで考えても仕方あるまい」

更夜はメグに軽く言葉をかけると、顔色を変えずにメグが落ち着くのを待っていた。


「おい、更夜……、メグにもっと優しくしてやれよ……。おたくらを考えて泣いているんだぞ!」

ミノさんが見かねて声をかけるが、更夜は何も言わずに泣いているメグを見ていた。


「この娘は今、ひとりで感情を出している。今まで出せなかったものを出しているのだ。だから、邪魔をしてはいかん」

「……」

ミノさんは更夜の言葉に目を見開いたが、慌てて口を閉じた。


「この優しい女神は俺達のために月神などの他の神に頼ることなく、助けに来てくれた。俺達の呪縛を傷つきながらも断ち切ってくれた。そしてこれからも協力してくれると言う。とても嬉しかった。だから待つ。俺が先に行ってしまったら戦闘が不馴れなあなたと、優しい女神が傷ついてしまうから。……だから今は彼女が落ち着くまで待つのだ」


ミノさんは更夜に、自分の気持ちを話させてしまったことを後悔した。


「……気持ちを察せなくて悪りぃな」

「かまわん……」

ミノさんと更夜は感情を落ち着かせようとしているメグを黙って見ていた。


※※


かき乱された。

私の心。

私は昔からおかしい人間だったから。

元になんて……戻れないのよ……。


猫夜は氷の刃が突き立つ自分の世界を、理由もなく歩き回っていた。

その横を心配そうに三人組の人形が一緒についてきている。猫夜は三人組の人形を見ながら思う。


……でも。

彼らは私を救うと言った。

どうせ、彼らとはまたぶつかる。

その時に……考えよう。

私は心が成長していない子供なのだから。

彼らが負けたら、私はお父様と共に消えるつもりだ。


でも、生きるという選択肢も与えられた。

新しい選択肢を……与えてくれてありがとう。

私はお父様の元へ帰るわ。

次に会ったらまた、敵だわよ。

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