神々の世界20
サヨとミノさんは真っ白な空間に浮かんでいた。
「……なんかおかしくない!?」
「そりゃあな……。あのメグとかいう奴が言うには、時神がいなけりゃあ、俺の力を使ってもこいつの過去には飛べねーよ」
ミノさんが地面を指差しながらサヨに言い放った。おそらく、ミノさんは雷夜を指差して「こいつ」と言ったのだろう。
「……そっかあ……、じゃあどうすんの!?どうしよ?過去に戻って呪縛を解いてあげようとしたんだけどー」
「……『離脱』で出りゃあいいんじゃないか?出た瞬間にやられそうな気もするが」
戸惑うサヨをなだめてミノさんは提案した。
「いや……、ここがあの男の心の中ならきっと……」
サヨが先を続けようとした時、前から雷夜がよろよろと歩いてきていた。足に鎖を巻いていて瞳にはわずかに人間性が見えていた。
「あの男がいる……。ほら、いた。自由になれないようにか、わからないけど……足かせしてるんだね」
「……見つけたけどどうすんだ……」
「さあ?どうしよ?」
サヨとミノさんはお互いを見合い、首を傾げた。
※※
サヨとミノさんが、雷夜の内部の世界に入り込んでいる時、アヤと逢夜は華夜と対峙していた。
「なめられたもんだな……」
逢夜は軽く笑った。
「……本当に辛そうね」
アヤは逢夜の顔色が悪いことに気がついていた。彼のは空元気である。
「……お前にはわかるのか」
「……ええ」
短く会話はするものの華夜は襲ってこない。
「向こうも出方をうかがっているようだが……」
「そうね……。もしかすると何かの時間稼ぎの可能性があるわ。私はこの世界から出られないから」
アヤがそう答えた時、華夜は逢夜に襲いかかってきた。突然にだった。
「きたな」
逢夜は華夜の拳を軽く受け流す。
かかとおとしを受け止め、回し蹴りを受け止め、突き上げを避ける。
「速いがやはり軽いぜ」
逢夜はそんなことを言ってるが、まるで反撃をしない。華夜はアヤを視界にも入れておらず、完璧に戦力として見ていなかった。
「……速すぎて何も……見えないわ」
なにか手助けをと思ったがアヤには二人が何をしているのかわからない。
華夜は受け流してばかりの逢夜の懐に入り込んだ。手には光るものが。
「おっと……」
逢夜が慌てて飛び退くと、華夜が小刀を構えているのが見えた。表情はない。
「いつの間に」
逢夜は軽く笑うが余裕はなさそうだ。昔、末の妹である抜け忍、憐夜を始末してから逢夜は女に攻撃を加えるのがトラウマになった。
このままでは進展がなく、疲労ばかり溜まる。
「……あの子を捕まえればいいのよね……」
アヤはなんとかして華夜を捕まえる策を考え始めた。華夜は逢夜が距離を取ったのを見ると、アヤに一撃を放ってきた。重たい刃の輝きがアヤの腹を狙う。
アヤは咄嗟に時間停止をした。
「はあ……はあ……」
アヤの身体中から汗が吹き出し、体が震え出した。刃はアヤを狙う一歩手前で止まっている。
「危なかった……」
アヤは慌てて離れ、どうすればいいか動揺する頭で考えた。
……そうだわ。攻撃ができないなら攻撃をしなければいいのよ。逢夜さん。
あの子を攻撃しないで捕まえるのよ。捕まえればいいのよ。
アヤはこれをどうやって華夜に悟られずに逢夜に伝えられるかを考え始めた。
※※
再び猫夜と対峙しているメグ達に戻る。あれからすぐにサヨ達が戦おうとしていた雷夜が猫夜の元へ戻ってきた。
「……?」
「サヨとミノさんは……」
雷夜が戻ってきた事により、更夜とメグに不安がよぎる。
そんな二人を余所に猫夜はため息をつくと、雷夜に向かい小さくつぶやいた。
「……弐の世界、管理者権限システムにアクセス『排除』」
「……?」
メグ達が眉を寄せていると、雷夜からサヨとミノさんが乱暴に吐き出されてきた。
「……な!」
メグの驚きの声が響いた後、猫夜がため息をついて頭を抱えた。
「サヨは『K』だったわね……。『介入』で中に入ったのでしょう」
「……あ、あれ?」
「……外に出てるな?」
サヨとミノさんは戸惑いの声を上げていた。辺りを見回すとメグと更夜、そして雷夜と猫夜がいた。
高速で頭を回転させたサヨは慌ててごぼうを出し、ミノさんを引っ張ってメグの後ろに隠れた。
「なんだ?さっぱりわからねぇよ」
「雷夜が猫夜の所に戻って、猫夜がうちらを『排除』で外に出したんじゃね?もう一度飛ばされないようにしないと、あたしらじゃ、あいつに勝てないっしょ」
サヨはセカイと対峙している三人組の人形を睨み付け、ごぼうも行くように促した。
「戻ってきたのは幸運か。あなた達は三人組の人形を拘束してくれ。俺は奴等を止める」
更夜はそう言うと刀を構えつつ、猫夜、雷夜に攻撃を仕掛け始めた。
「……み、ミノさん、あんたはあっち行きなよ!」
「ああ!?俺が行ったって邪魔になるだけだろ!」
サヨが戸惑うミノさんを更夜方面に押し付ける。
「待って……」
サヨとミノさんが醜い会話をしている中、メグは小さく二人を止めた。
「……?」
「サヨ、あなたは世界から出て……。あなただけは自由にしておきたい」
メグはセカイを操り、三人組のドールの相手をしながらささやくように言った。
「……千夜と狼夜を探して合流しておいてほしい。凍夜が近づいてきたら逃げて。たぶん、追加でトケイも来る」
「……そんな、うちひとりで!?この世界、よく知らないんですけど!!」
「いいから……早く。猫夜は誰にでもなれる。成りすませる人数が多いと面倒」
メグは更夜を見るよう促した。サヨが目線を上げると猫夜は雷夜となり、更夜を翻弄していた。
「じゃ、じゃあ俺も一緒に……」
ミノさんが怯えた声でメグを見るがメグは首を横に振った。
「あなたはここに。更夜の手助けを……」
「だから俺じゃあ何にも……」
「……あなたは人間の魂の色がわかる。偽物かどうかの判別がつくはずでしょう。あなたは猫夜を戸惑わせたんじゃなかったの」
「……そういうことか」
ミノさんは頭を抱えつつ納得したがサヨは未だに戸惑っていた。
「サヨ、とにかく早く行って。あなたならできる」
「……うう……もう!どうなっても知らないから!!」
サヨは捨て台詞のようなものを吐くと、ごぼうを連れて空へと舞い上がった。
サヨが逃げる中、雷夜がサヨを追い始めた。戦っていた更夜は猫夜かどうかわからずに一瞬立ち止まってしまう。雷夜は二人いた。
「……サヨを追っている雷夜はどっち?」
「……猫夜だ」
メグが冷静に尋ね、ミノさんは迷いなく答えた。
それを聞いた更夜は自分の前に佇む雷夜に集中し、飛んでいった方……雷夜になっている猫夜を無視した。猫夜がサヨを追いかけても意味はない。猫夜の人形はセカイと戦っており、戦力の雷夜は更夜と戦っている。生身の猫夜はサヨの使いであるごぼうには勝てない。
「……ちっ」
猫夜は自分の使いのドールを置いておけずにサヨを追うのをあきらめた。
「……猫夜、もう凍夜に従うのはやめて」
メグは猫夜に鋭く言うが猫夜はこちらを睨み付けているだけだった。




