神々の世界19
明夜達を全く知らないアヤ達は明夜達が逃げている事も知らずに、どこかの黒い砂漠の世界に隠れていた。
猫夜に『排除』され、行き着いた先がこの砂漠だった。だんだんと黒い砂漠の世界が多くなってきたように思える。かなり危険だ。
「……猫夜に弾かれた。やられるとは思っていたが」
メグが頭を抱えて唸る。
「もう拠点の世界も安全ではないな。どうする?」
更夜は不気味な赤い空を睨んでからアヤ達に尋ねた。
「千夜さんと狼夜さんを探してみる?」
アヤがそんな発言をした刹那、再び猫夜が現れた。落ち着いている暇もない。
「猫夜だ!」
サヨが叫び、一同はとりあえず構える。
「……お父様はいないわよ。いるのは私と……」
猫夜はそこで言葉を切ると何もない所に目配せをした。
「私の親族」
目配せをした辺りから、三人の男女が現れた。
「あなた達は……」
三人を見て声を上げたのは更夜とアヤだった。
「誰だよ。アヤ」
ミノさんは完全についていけず、アヤを怯えた表情で見据えた。
「わからないけど、少し前に襲われたわ」
髪型が尖っている男、総髪な男、そしてポニーテールの女、感情もなく突然にあの遊園地で襲ってきた三人組だ。アヤ達には名乗っていないが確か、竜夜、雷夜、華夜だった。
「……凍夜の代わりに来たか。ということは今、凍夜になにか問題が起きている……」
更夜の口角がわずかに上がった。
これは彼が見せる駆け引きの顔である。
「……」
三人は顔色を変えない。
「ふふ……意味ないわよ。この子達はすでに厄神に落ちているから」
猫夜は微笑むと突然に彼らに指示を飛ばした。
「……華夜、あんたは逢夜と現代神アヤを、雷夜はキツネ耳とサヨを、竜夜はメグと更夜を」
猫夜の指示は的確だった。特に女の華夜と女に手を出せない逢夜は非常に相性が悪い。そしてKではない逢夜とアヤを残すことでアヤはこの世界から動けない。
「……分散か。そうはさせねーよ」
逢夜が仲間を一ヶ所に集めようとした刹那、例の三人組の人形が現れた。三人組の人形はすばやく飛んでミノさんとサヨを世界外へ転移させた。転移の輪がなくなる前に雷夜が輪に飛び込み、三人同時に消えた。
「……ちっ!」
わかりやすい逢夜の舌打ちが聞こえ、アヤの仲間を呼ぶ声がし、態勢が崩れた時に竜夜が飛んで来た。
先に刀を抜いた更夜は顔を曇らせつつ、相手方の刀を受けた。更夜からすると避けることはできなかった。避けるとおそらくあの三人組の人形が更夜を飛ばすはずだからだ。
だが、更夜にはわかっていた。受けると逃げられないことを。
「メグ!全員連れて逃げっ……」
更夜の言葉は途中で切れ、いつの間にか足元にいた三人組の人形に『逢夜』と『アヤ』が転移させられ消えた。追うように華夜が転移の輪に飛び込んで行く。
「ちっ……」
今度は更夜の舌打ちが響く。更夜は読み間違いをしていたようだ。
次は更夜とメグが飛ばされると思い、飛ばされる前に『K』であるメグを使い、皆を逃がす予定だったのだ。
「もう、決めていたの?作戦を」
メグは顔色を変えずに猫夜を見据える。
「じゃないと勝てないでしょ。……竜夜、お父様に助力を」
猫夜の言葉に竜夜は素直に従い、砂漠の世界から消えていった。
「……彼は私達を排除するんじゃなかったの?」
メグの問いに猫夜は心底おかしそうに笑った。
「そんなわけないじゃない。更夜お兄様は私を斬れない。ならば……決まってるでしょ……」
猫夜の気が殺気に変わった。
「なるほど」
メグはそうつぶやくと自分のドール、セカイを出現させた。
猫夜も三人組のドール、ムーン、シャイン、リンネィを手元に戻らせる。子供のままごとのようにも見えるが、この人形達はそんなに優しいものではない。
「……更夜、もう仕方がない。戦うしかない。ここで猫夜に勝てれば凍夜に勝てる可能性が高まる」
「……わかっている。生け捕りにせねばならぬのが難しそうだが……」
メグの言葉に更夜は頭を抱えた。彼らは霊なので死んだらこの世界に入れなくなるだけだ。更夜としては散々傷ついてきた猫夜に刀を向けたくはなかったが、なにもしなければやられてしまうので戦う覚悟を決めた。
※※
世界から排除されたミノさんとサヨは、移動したのかわからないくらい、同じ雰囲気の世界に飛ばされていた。
黒い砂漠に赤い空の世界だ。
ただ、違う世界にたどり着いたことはわかった。皆がおらず、代わりに癖っ毛の青年雷夜がいたからだ。
「おい……なんかやべぇよな……」
「やばいってもんじゃないっしょ……。うちらが最弱なんじゃね?」
ミノさんの言葉にサヨが力なく答えた。
「俺、あいつにたぶん勝てない。気持ち悪ぃんだよ。感情がないのが……」
「……じゃあ、逃げる?あたし、あんたを連れて『K』として世界から離脱できるけど……どうする?」
サヨは雷夜の動きを注視しながらミノさんに問いかけた。
「そんなこと、させてくれないみたいだぜ!」
「え?」
ミノさんが素早くサヨを押した。サヨは背中から倒れ、倒れたサヨをさらにミノさんが引っ張った。
「痛い!何すんの!」
「み、見ろ!」
ミノさんが震えた声で前を見るように促した。サヨは慌てて前方をうかがった。目の前には無数の針が刺さっており、その針はサヨの足元まで刺さっていた。
「ひっ……」
「バカ!立て!」
サヨはミノさんに無理やり引っ張られ再び砂漠の砂に顔を埋めた。
「な、何!?全然わかんないんだけど!!」
「俺もわからねぇ!勘なんだよ!全部!」
ミノさんが叫ぶ中、サヨは再び顔を上げる。先程までサヨがいた場所には小刀が刺さっていた。
「……っ!」
サヨは慌てて立ち上がり走った。サヨがいた場所に高く砂塵が舞った。
……くそ!爆弾投げてきやがった!!
サヨは悪態をつきながら冷や汗を拭い走る。
「サヨ!カエル出せ!」
ミノさんが叫び、サヨはパニックになった頭でごぼうをとりあえず呼んだ。
「ご、ごぼうちゃっ……ん!」
ごぼうが跳びながら現れた刹那、飛び込んできた雷夜の刃を受け、すぐに靄のように消えた。
「う……そ……速すぎる」
「サヨ!」
ミノさんが再びサヨを引っ張り乱暴に叩きつけた。雷夜の蹴りがサヨの髪をかすめていく。
「いったい!」
「わりぃ!」
ミノさんは強引にサヨを掴み、今度は投げ飛ばした。
サヨの頬すれすれを雷夜の拳が通りすぎる。
「ひっ……」
通りすぎる拳を見つつ、サヨは再び砂に顔を埋めた。
「……これは命をかけて逃げるしかない」
勝ち目のない戦いをするよりサヨ達は逃げる方向で頭を働かせた。
「よし……ミノさん、あたしについてきて」
「サヨ!!」
言った側からミノさんに後ろ襟を掴まれ投げ飛ばされた。サヨは砂の山にまた埋もれる。雷夜は無表情で小刀を突き立てていた。
「ついてきてって、バカ言うな!俺だって反応できない!」
ミノさんの怒りの声を聞きながらサヨは突然に閃いた。
「ああ、そうか……。あたしは『K』だ。やれる」
「は?」
戸惑いを見せるミノさんの手をサヨは素早く握り、叫んだ。
「逃げるのやめた!……入る!弐の世界の管理者権限システムにアクセス!『介入』!!……だったっけ?」
間抜けなサヨの言葉を最後にサヨとミノさんは雷夜の中に入り込んで行った。
「……っ!?」
突然に向かってきたサヨとミノさんに一瞬だけ止まった雷夜が我に返った時には、もうサヨ達はいなかった。




