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神々の世界2

現世に戻ったアヤは実りの神、ミノさんと共に考えていた。

考えていたのは主にアヤだが。


「彼らはお父さんに逆らえない……。術がかかっていると言っていたわ」

「……ほー……神とかも従ってんのか?その男に」

ミノさんがてきとうに相づちを打つ。


「神も神みたいなものも従ってるわ……。霊ももちろん……。術を解く何かを見つけないときっと勝てないわ。月神のところに行ってる場合じゃないわよね……。誰にでもなりすませる奴がまさか現世にも出てこれるとなると……。あの家族が何とかしたいのはわかるけれど……もっとまわりを固めないと……」

アヤは眉を寄せて唸る。


「じゃあ、おたくがなんとか固めればいいじゃねぇか?で、月神にも関与しないよう頼めば?」

「簡単に言わないでよ……」


「俺が思うに……元々人間なら歴史の検索ができるヒメを使って原因究明するとか神なら神々の歴史を検索できるナオに頼むとかなー」

ミノさんがぼんやり発した言葉にアヤは反応した。


「それよ!!それだわ!ミノらしからぬグッドなアイディアだわ。あの家族達の過去の検索をしてもらって何がそんなに縛るのか調べましょう。いいわね?今すぐ呼ぶわよ!私の部屋に。月が出ている内に原因を究明して月神の所に行くの!」


霊史直之神(れいしなおのかみ)ナオと流史記姫神(りゅうしきひめのかみ)ヒメは共に歴史神だがそれぞれ記憶しているものが違う。

ナオは神の歴史のバックアップをヒメは人間の歴史のバックアップをとっている神だ。


色々あってアヤとは関係がある。


「らしからぬって……なんか失礼な声が聞こえたが……地味に神脈が広いおたくに頼めばなんでもできそうだなー……」

ミノさんはため息をついた。

アヤはさっそくスマートフォンでふたりを呼び出した。


ふたりはすぐに来た。弐の世界の凍夜とやらはもうすでに一部の神々からは有名なようだ。

アヤは健の妻に神を部屋にあげることをあやまると自室へ向かった。

健の妻、かおりさんは優しく頷いてくれた。


本当に優しい人である。


「それで……」

自室にちゃぶ台を置き四人は座る。赤い髪をウェーブさせている凛とした瞳の少女ナオは袴を揺らし居住まいを正した。


「あの男は……オオマガツミに気に入られています。オオマガツミはああいう人が大好きです。実態はありませんがデータとして対象の人間などに入り込むようです」

「オオマガツミ……」

ナオの言葉にアヤは唸った。


「アヤ!この男は怖いのじゃ……。ワシは関わりとぅないぞい……」

奈良時代の貴族のような格好をしている幼い少女に見える神、ヒメが顔を曇らせてアヤに言い寄ってきた。

目はくりくりと大きくパッチリで見た目はかわいい幼女だ。


「……ヒメ、あなたには強いバックがいるのだから平気よ。凍夜の過去の歴史を聞かせて」

アヤはヒメに真剣な眼差しを送る。


「うう……わかったわい。あの人間は初めから人として壊れておる。得意とする忍術は五車の術の内、恐車の術。親族にはすべてこれがかかっている。女は暴力で、男は戦略で壊せば自分のものになると思っている。しかもそれを実験のように行う。自分が死する時ですら実験のように結論立てて納得して死んでいったわい」

ヒメは軽くぶるっと震えながら答えた。


「ずいぶんやべー奴だな……。関わったら皆不幸になりそうだ」

ミノさんも体を震わせた。

それに関わった人々がかわいそうだとも思った。


「だから皆不幸になっているのじゃよ。幼い子供を拷問するのは従わせるためと……すぐに壊れないか興味で見ているだけじゃ……」


「子供を拷問!?まるで信じられねーな……」

「……拷問で脱落した子供は母親もろとも谷底に突き落とすらしいぞい。……こんな話をして気持ち悪くならないかの?ワシは……」

ヒメが泣きそうになっているのでミノさんは慌てて頭を撫でた。


「五車の術を解くには?」

アヤは凍夜に対し怒りがこみ上げていたが冷静に尋ねる。


「我に返り、助けてくれる誰かがいることに気がつくことじゃな」

「……無理だわね……彼らは自分達でなんとかしようとし、仲間は自分が守るものと考えているわ」

アヤの言葉にナオも頷く。


「その通りです。神になった彼らを見ると助けがいらなそうな雰囲気です」

「じゃあ、次は敵の方で望月猫夜についてよ」

アヤに問われてヒメとナオは目を閉じた。望月猫夜のデータをそれぞれ検索をしている。

ヒメが最初に目を開けた。


「えー……彼女は百六年生きた人間で数々の虐待に耐え兼ね十二、三歳辺りで凍夜の元から逃走。凍夜の術にかかったのは七歳。当時四歳の望月狼夜が、反抗して逃げようとした猫夜の代わりに仕置きを受け死亡。母親代わりで狼夜を可愛がっていた猫夜は狼夜を殺されたことに悲しみ、怯え、服従した……それから……変化の術を極め、対象の人の外見データを纏うことでその人にまるまるなりきれる幻術を習得。逃走し、村で薬売りとして働く。村医者となりやがて信仰を得るようになったというわけじゃな。人間の歴史はここまでじゃ」

ヒメはアヤが出したお茶を軽く飲んだ。


「では……神になってからの歴史は私が答えましょうか。彼女は亡くなってから信仰を得て神になり村人が建てた社に住み始めました。厄除け、縁結び……なんでもやっていたようですね。最終的には村がなくなり、神格を持ったまま弐の世界に入り込み海神(わたつみ)のメグに……うん?ここから先は読めませんね……」

ナオは戸惑っていたがアヤにはわかった。


ここから先は「K」になったのだ。一般の神々は「K」の存在を知らない。

「そう、ありがとう」

アヤはヒメとナオ両方にそれぞれお礼を言うと再び口を開けた。


「……わだつみのメグ?誰よ。それ……」


「日本近海の海に住んでいる海神ですよ。海神と言えば龍神の神格を持っているものですが……龍神ではない珍しい神です。名前はワタツメグミ之神。イザナギ、イザナミの息子であるワダツミの派系のようです。『ツクヨミ様』とも仲がよろしいようで……静かなる夜の世界、弐や生命の源である海と深い関わりがあるとか。ツクヨミ様が夜や海原を守護していた時期がありましたが今は彼女達が見守っているようです」

ナオは丁寧に答えてくれた。


「月に行く前に……そのメグって神に会ってみたいわね。なにか望月猫夜に関するものを持っていないかしら?ツクヨミ様を知っているのならもしかするとオオマガツミを抑えたりする方法を知っているかもしれないわ」

アヤは希望に満ちた顔をミノさんに向けた。


ミノさんはこくこくと舟を漕いでいた。眠い時間に重なったようだ。


「……もう……まあ、いいわ。今日は月には行かないで少し休みましょ……。ああ、ヒメ、ナオ……ありがとう。色々わかったわ。色々と遅くにごめんなさい」


アヤがミノさんから目をそらしてヒメとナオを見る。

二人は微笑み頷いていた。

「なにかあったら言ってください。助太刀しますから」

「ワシもできることならやるぞい」

「ありがとう」

アヤも優しく笑みを返した。


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