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旧作(2016〜2024完結)「TOKIの神秘録」望月と闇の物語  作者: ごぼうかえる
本編「TOKIの神秘録」望月と闇の世界
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望月の世界18

凍夜から逃れサヨは宇宙空間を走る。

「そうだった!あたし、『K』だったんじゃん!!進むー!進むー!……狼夜ちん大丈夫?」

宇宙空間を進むサヨの横を血やら吐瀉物やらを吐き散らしている狼夜がいた。


なぜ狼夜がいるのか聞こうと思ったが聞ける状態ではなかったのでサヨは聞かなかった。

まあおそらく、逢夜と持ち場を上手く交換できたのだろう。

今の狼夜はとても苦しそうだ。

とてもじゃないが話しかけられる状態ではない。


千夜が背中を擦っている。サヨが動くとごぼうも千夜も狼夜も一緒についてくるのでサヨが歩みを止めなければ動き続ける。


なので千夜は狼夜の背中を擦り続けられた。


「精神的にやられてる中、私達を助けた……。狼夜はお父様に『攻撃』をした……」

千夜は自身の体の震えを押さえながらつぶやく。

術にかかり縛られている一族は凍夜には従わなくてはいけない。


「それが……」

「うっ……」

狼夜は再び血を吐いた。


「し、しっかりしろ……狼夜!」

「……てかさ、千夜達がかかったって術はなんなわけ?」

狼夜の身体を心配しつつサヨは千夜に尋ねた。


「……もう解けているはずだった。だが、死んで魂だけになり未来も過去もめちゃくちゃな弐に来て過去に受けた術が作動している……私達はお父様に近づくと精神だけが術を受けた当時の精神に戻ってしまうらしい。術は五車(ごしゃ)の術内にある恐車(きょうしゃ)の術という。私達は何十にも強くこれをかけられていた」


「恐車の術……それ、どうにかして解けないかな?」

サヨは解決を求めずに千夜に尋ねた。

きっと解けるならばもう解いてるはずだからだ。


「……どうにかして今の精神を保てれば破れるかもしれんが……さっきの更夜を見たか?あれは更夜が五歳くらいの時によく似ている。お父様からの拷問に泣き叫びながら耐えている時の更夜だった。あの子はな、すごく優しかったんだ。かわいがっていた猫がいてな、その猫がお父様に見つかって更夜の目の前で長い虐待の末に殺されて……その時にずっと……先程のような言葉を発していたんだ」


「……ほんとに酷いやつだね……あいつ、あたしなんか……悲しくて……なんだか震えてきた……。こんなに怒りを覚えたことなんていままでないのに……狼夜も千夜も従ったキッカケがあるんだね……?」

サヨの言葉に二人は小さく頷いた。


「……私は単に……拷問が怖かったのだ。だから従った。……顔を殴られるのが嫌だったんだ」

「そりゃ、女の子は皆嫌だよ!」

「……私は熱した鉄で叩かれるのが一番嫌いだった。四歳の時にそれで尻を叩かれ傷になった。一応、女だからな……必死で傷を治そうとした。だが父は他の所にもできるぞと次は背中でもいくかと笑っていた……それを見た私は抵抗することをやめ……忠誠を誓った」

「……」

サヨは聞いていて恐怖に襲われた。本当に人間なのか……。


冷や汗が流れ、唾を飲み込むので精一杯だった。


……私は……この人達になにを言った?

サヨは最初に言った言葉を思い出し震えた。


……奪い返せばいい……逆らえばいい……

……大人なのに父親にも逆らえないのか……

そんな言葉を並べていたんじゃないか?

サヨが五歳の時は兄とゲームの取り合いをして喧嘩し、父親によく慰められていた。


……私がそんなくだらないことで泣いていた時期に彼らは死んだ方が楽だと思えるほどの暴行を受け泣いていた……。

あの刀神が言っていた言葉も思い出す。


……四歳であの男に殺されているんだぞ!

生前の記憶が甦るとアニキは四歳に戻る。たぶん、怖かったんだ。親父が怖くて怖くてしかたなかったんだ……


「……そうだよね……四歳で殺されたってことは……」

……殺されるほどの暴行を受けたんだ……


四歳の子供が。

たった四年しか生きていない子供が。


サヨは震えた。

言葉の意味と状況がはっきり一致した。


信じられない……。


最初に見たあの血にまみれた記憶が彼らが耐えてきた証拠なのだ。


「信じられないよ……」

「……サヨ、私達の世界に戻ろう。『K』達にハッキングできた理由も探らねばならん」

千夜はサヨの背中も擦るとそう言った。


……彼らは私が発したふざけた言葉を微笑んで流してくれた……。


……いままで凍夜が裁かれなかった理由はあの時代、妻も子供も「主人」の所有物だったからだ。

主人が何をしても良かった時代だったからだ。

日本の闇はずっと昔からすぐ隣にあった。


「ねぇ……一度拠点には戻るけど……聞きたいことがある」

サヨは静かに真っ直ぐに尋ねた。


「なんだ?」

「……お母さんは何をしてるの?」

「……」

「ねぇ」

千夜が黙り込んだのでサヨが先を急かした。


「……私達を産んでから死んだよ……。元々、お父様の妻になる女は皆孤児だった。農村でも武家でも女は沢山いらないんだ。生活が苦しい農村や武家もそうだが男が生まれるまで子を産んだりする。それで生まれたいらない女児は捨てるんだ。子捨てと言うんだがな。その女児を拾って人数を増やすためだけに孕ませるだけ孕ませて後は……」

「もういい!!もういいよ!!クソ!!イライラする!!」

サヨは怒鳴った。自分で聞いておいて耳を塞いだ。


胸くそ悪い。


「あいつ……マジふざけんな……。ふざけんじゃねーよ……。今度会ったら……」


「サヨ、落ち着け……。お前は一回現世に帰った方がいい。平和な生活に一時戻り、もう一度……私達を助けてくれるのならば戻ってきてくれ」

千夜は復讐の方面に行っているサヨを必死で止めた。


彼女は「大将」であるが平和を願う「K」なのだ。

厄に当てられてはいけない。


「……言わなければ良かった……」

千夜の一言にサヨは黙り込んだ。


「……ごめんなさい」

サヨはいつもの元気はなく千夜に頭を下げてあやまった。


「私ってさ……なんでいつも無神経なんだろう……」

目に涙を浮かばせたサヨの頭を千夜は優しく撫でた。


「お前はいい子だ……。巻き込んでしまってすまなかったな……」

「私は……おにぃを助けなくちゃいけないんだ……。でも……パパに……パパに会いたい」

サヨは千夜に身体を預けて泣いた。


「やはり……一度、深夜(しんや)の元へ帰るか?」

「え……名前を……」

「親族だからな」

サヨは千夜に撫でられていたら気分が落ち着いてきた。


「……そっかー。先祖なんだもんねー。私達の神様みたいなもんだ!……落ち着いたよ。現世には帰らない。本格的に考えて動いてやる!おにぃを助けなきゃダメなんだ!」

サヨが凛とした表情で千夜を見据えた。

千夜は目を見開くと優しく微笑んだ。

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