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旧作(2016〜2024完結)「TOKIの神秘録」望月と闇の物語  作者: ごぼうかえる
本編「TOKIの神秘録」望月と闇の世界
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望月の世界12

アヤ達が元の拠点に戻るとなんだか慌ただしかった。

サヨがなんだか怪我をしており、見知らぬ男が千夜に新しい包帯を巻かれている最中だった。


「な、何があったのかしら……」

「……憐夜が拐われた事とは無関係のようだね」

不安げなアヤに鈴が冷静に答えた。


「お姉様、戻りました」

更夜が戸惑いながら千夜に話しかけた。


「ああ、おかえり。こちらは少ししくじった。憐夜が連れ去られてしまった。やや感情的になった逢夜が追いかけて出ていってしまい、トケイまでも見つからない。サヨはお父様に接触してしまい、軽い怪我、それをかばった異母兄弟の狼夜は重い怪我だ」

千夜は状況を淡々と説明し、全く焦りを見せなかった。


「……困りましたね」

更夜も調子を合わせる。


しかし、サヨが父に接触したことは動揺した。逢夜が同行していたはずだが……。


……やはり難しかったですか……。

……お兄様。


更夜は心で逢夜を労った。


「一番困ったのはお父様の配下で『K』である狼夜の姉、望月猫夜だ。そいつが憐夜を拐ったのだが一緒にいた逢夜が気がつかなかったらしい。変化を得意とする唯一の抜け忍だそうだ」


「……そうですか……」

「なーんか……他人事だなあ……」

鈴が納得いかない顔で首を傾げた。


「鈴、最後まで聞け。私はお前達にもわかりやすく説明している」

「……うん」

千夜に鈴は小さく頷いた。


「その猫夜は『K』の世界で行われる競技大会に出場するようだ。望月家は隠れるのを止め、世界を支配する方向にいっている」


「……さっき、メメちゃんとかいうクマのぬいぐるみが言ってたわね」

鈴の言葉に千夜は頷くと先を続けた。


「驚くかもしれないが、大将であるサヨは『K』だ。そこで私、『Kの使い』はサヨの下に付き、その大会に出る事にした」

「えー!?」

鈴もアヤもあっさりと流された言葉に目を見開いた。


「まあまあ聞け。……で、私達が動くにあたって少しばかりか不安があってだな……」


「……ふ、不安……」


「ああ、弐の世界がおそらく大きく乱れるかもしれぬ。そうすると、弐を表面から監視している月神らから何を言われるかわからぬ。もうすでに生きた魂が二つも入ったのだ。月神、そして他のKが邪魔をしてくることも頭に入れなければならない。これは私達が解決するべき問題。私達が向き合わなければならない問題だ。月神や他のKが父に接触するのは困る。私達に残る唯一の鎖が父だ。私達一族はその鎖をなくしたい。だから他の者に介入されたくない」


「そんなこと言ったって……千夜達は父親を前にするとなにもできなくなるんでしょ?だったら月神やKを頼った方が……」

鈴は恐る恐る千夜に尋ねた。


「……これは私達が鎖を外す良い機会なのだ……。いけないことだとはわかっている。生きた魂を入れてしまったことも罪悪感を覚えている」

千夜一同の決意は固いようだ。更夜は無言で頷き、狼夜はうつむいている。


「だからアヤは狼夜の怪我が治ったら狼夜を連れて月神を説得してきてほしいのだ。これはアヤにしか頼めん。狼夜は霊だが高天原や月神が住む霊的月などならば侵入できるようだ。元々、高天原西に住む西の剣王軍に腕を買われ、刀まで授けられた仲だそうだ。一緒に連れてってくれ」


「……私が月神を説得?自信ないけれど……それよりも……私はあなた達からすると部外者だけれど……いいのかしら?」

アヤは眉を寄せて千夜に尋ねた。


「アヤは我々を理解し、手伝ってくれる故に信頼している。父を私達自身で止めたい。……理解してくれるか?」

千夜の問いかけにアヤは頷いた。

気持ちはわからなくもない。


「わかったわ。良い方向に行くように努力してみるから」

「ありがとう」

アヤの返答に千夜はにこやかな笑みを向けた。

そこへ更夜が話に入ってきた。


「……そういえば先程、話の途中で割り込めず言わなかったのですが、その猫夜と思われる者が鈴に扮して憐夜を連れ去る部分を見ました。見分けがつきませんでした。……それに気がついたかでトケイが高速で追いかけていきましたが『Kの使い』が空間転移を使い、消えてしまいました。それから私達は父の配下にいると思われる異母兄弟とも接触しました。父にはまだまだ仲間がいるようです」


「だろうな……」

千夜は小さくため息をついた。


「あ、あのー……」

話が一段落したタイミングで狼夜が恐る恐る言葉を口にした。


「ん?どうした?」

「剣王から借りた私の刀がおりませぬ……」

狼夜の言葉に今度はサヨが即答した。


「あー、凍夜に持ってかれちったよ!」

「なんだって!!あれは大切な相棒だ!なんとか取り返さないと!」

狼夜はサヨに掴みかかった。


「ちょ、ちょいまち!!しょうがないじゃん!持ってかれちゃったんだから!」


「まあまあ落ち着け……。お父様に触れずに刀を奪い返す術を考えてみよう……。とりあえず今は落ち着いて傷を癒せ。そしてアヤと共に月神の元へ行ってくれ」


「あ、あの……は、はい……」

狼夜は何かを言おうとして口をつぐんだ。


千夜と狼夜の会話を聞きつつ、アヤはいけないことに足を踏み入れてしまったと感じた。


彼らは凍夜を攻撃するであろう月神達と戦う気でいる。


月神達はツクヨミ神の神力を持っているから狼夜と自分がどうこうできる問題ではない。

本当に望月家だけで凍夜を抑えられると思っているのか。


彼らがどれだけ強くても凍夜の前では赤子だ。

もしそれに月神が気がついていたら月神達はアヤ達をさっさと倒して「K」達と協力し、あっという間に凍夜を抹消するに決まっている。


「お前の考えていることはわかるぞ。アヤ」

ふと更夜がアヤにささやいた。

アヤはビクッと体を震わせた。


「……驚かせるつもりはなかった。すまない」

「あ……ええ……大丈夫」

あやまってきた更夜にアヤはかろうじて返事をした。


「月神や『K』に悟られぬよう父に接触するのは避けているのだ。俺達は周りから崩していく。今のところ『K』は俺達に任せている状態だ」


「そ、そうなの……。でもそれは悟られていないからでしょう?」


「そうだ。……『K』である猫夜とかいう女もお父様に従っていると言うことを他の『K』に悟られずに動いている可能性もある。もしかするとかなり深刻な状況なのかもしれぬ……」


「深刻でしょうね。月神にとっては。早く他の『K』に情報を提供してあなた達抜きで凍夜を倒そうとするはずよね。ただ、月神は弐の外側から異変を見つけるのが仕事だから弐の世界には入れない。頼るところはやっぱり『K』だけど弐に入れないから不特定多数の『K』にコンタクトが取れない」

アヤは言葉を選びながら更夜に答えた。


「聡明なおなごだな。そういうことだ」

更夜は頷き、千夜が先を続けた。


「万が一、『K』と接触されると迷惑なのでアヤに説得に行ってほしいのだ。本来霊は弐から出られない。壱……現世で縁結びの神になっている逢夜は現世に行けるので逢夜と行ってほしかったのだが逢夜は憐夜を追って出ていってしまった。そこで現在、タケミカヅチ……高天原西の権力者、西の剣王に引き抜かれた霊の狼夜に同行を頼んだ。彼は高天原や霊的な場所なら壱の世界でも存在できるらしい」


「そもそも……なんで狼夜さんは弐から出られるようになったのかしら?私は何度か会ったけれど西の剣王は怖いのよ。何を考えてるかわからないから……。ハッキリした理由がないと不安よね」

アヤは狼夜に目を向けた。

狼夜は首を傾げて眉を寄せた。


「……剣王は凍夜様を知っているぜ……。ちー坊は凍夜様を抑えるために剣王が派遣した刀神なんだ。俺はたまたまその刀神を扱える霊だったから剣王から刀神を渡されて『凍夜を倒してくれ』と頼まれた」

狼夜はそこで言葉を切り、今度は千夜達に目を向けた。


「あ、あの……ごめんなさい。本当は……あの……先程はああ言ったんですけど……残念ですが……私はちー坊……刀神がいないと高天原や霊的空間には行けません。刀神は逆に私がいないと弐を渡れません。現在はサヨの発言より凍夜様が刀を所持してしまっています」


「そうだったのか。だから先程、何かを言いたそうだったのか。素直に言って良いのだぞ。できぬものはできぬのだから」

千夜は怯える狼夜に優しく言った。

狼夜は本当の事が言えて安堵したようだ。


「では、やはり逢夜お兄様を呼ぶしかありませんね……」

更夜は冷静に千夜にそう言った。


「そうだな」

千夜も焦ることなく答えた。


「待って!じゃあさ、さっきの話だとあの凍夜野郎が高天原とか霊的空間とかいうのに行けちゃうんじゃね?刀神を持ってるし」

サヨの言葉に一同は目を見開いた。


「そうだな……。かなりまずいな……」


「サヨ、さっさと『K』の世界に行き、競技に参加しよう。それで逢夜を呼び止めて元気になった狼夜と持ち場を交換、逢夜は速やかにこちらに戻り、アヤと共に月神の元へ行く。それがいい」

千夜はすぐに計画を変え、更夜は簡潔にこれからすべきことの説明をはじめた。


「では確認しましょう。アヤと狼夜は逢夜お兄様がこちらに来るまで待機。逢夜お兄様が来たら狼夜は逢夜お兄様がしていた仕事を行う。アヤは逢夜お兄様と月神に接触する。千夜お姉様はサヨと競技に参加。俺や鈴は周りの脅威を払う仕事につき、サヨ達を見守る」


「オッケー!やるなら頂点目指しがんばるんば!おー!!」

更夜の説明にサヨは元気に返事をした。


「あなたはほんと、頼りになるのかならないのかわからないわね」

アヤの言葉に一同は軽く頷いたが特に何も言わなかった。

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