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旧作(2016〜2024完結)「TOKIの神秘録」望月と闇の物語  作者: ごぼうかえる
本編「TOKIの神秘録」望月と闇の世界
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望月の世界11

更夜達時神が住む世界。

白い花畑が揺れている。

ここにポツンとある一軒家の中、サヨは布団の上でゴロゴロしていた。


怪我をしていたので「休め」と言われ障子扉の一室に押し込められたままだ。


「はーあ……もうだいじょーぶなんですけどぉ」

「サヨちゃん、サヨちゃんは大将なんだね!」

サヨのとなりにいたカエルのぬいぐるみ、ごぼうちゃんは目を輝かせてサヨに飛び付いた。


「大将って……そんな……おおげさな……。まあ、でもおにいを助けるためにガンガンいくっきゃないっしょ!いえー!!やっぱあたし、大将!いえー!!」

「おおー!!」


「うるせーよ!!」


サヨとごぼうちゃんが盛り上がってると障子扉の隣の部屋から狼夜が顔を出した。

あちらこちら傷だらけで包帯が巻かれている。


「あー!あんた、狼夜!怯え症の腰抜け!」

「うるせーんだよ!後半は余計なんだよ!!」

狼夜はサヨを睨み付け叫んだ。


「しかし、あんたも大変だねー。つらたんたんだったんだねー」

「お前に言われたくねーよ」

「わけわかめなんだけど!?心配してんのに!!」

狼夜とサヨは馬が合わないらしい。


「……クソ!お前が余計な事しなきゃあ、こんな怪我しなくてもすんだのによ!」


「助けに行ったじゃん!だいたいうちのごぼうちゃんが助けなきゃどうなってたと思ってんだ!」

「あ、あの……」

ヒートアップした二人の会話にごぼうちゃんがオドオドとあっちへフラフラ、こっちへフラフラしていた。


「おい、狼夜、安静にしていろと言ったはずだが……」

あまりにうるさかったため長女の千夜が呆れた顔で部屋に入ってきた。慌てふためくごぼうちゃんを抱っこする。


ごぼうちゃんは緊張で顔が強張っていた。


「お、お姉様!申し訳ございません……」

「あーあー、またこの堅苦しい会話をせねばならぬのか……」

畳にひれ伏している狼夜に千夜は頭を抱えた。

以前、更夜達兄弟にも堅苦しくするなと注意したばかりだ。


「狼夜、普通に話せ……。お前は父に縛られ過ぎている。もちろん、私達も彼を前にすると操り人形だがそれ以外ならば関係ない」

「は、はあ……」

「サヨを見ろ。子孫はこんなにも自由だ」

千夜はサヨの自由さが気に入っているようだった。


「マインドコントロールは怖いねー!ガクブルだわ」

サヨはわざとらしく体を震わせていた。


「……まあ……それは置いといてですね……。お姉様にお伝えしたいことがありまして……」

「なんだ?」

「その前に一つ。お姉様もお父様に逆らうおつもりでしたか?」

「つもりだ。あれは悪霊になっている。お前は探りが下手だな。『も』をつけたらお前が逆らっていることがバレバレだ。私が敵だったらどうする?」

「……申し訳ございません……。なにせ忍になったばかりで死去したので……」

狼夜は額を畳に擦り付ける勢いでひれ伏している。千夜を怖がっているのか。


「まあ、そうよな……。すまぬ。……で、話したい事とは?」

千夜があやまったことに狼夜は驚いていたが気を取り直して口を開いた。


「実はお父様の負の感情、厄が四方八方に人影のように出現していまして健全なる者の世界を犯しております」


「ほう」


「その中で望月の忍や黒い影が多く入り込んでいる世界がありまして……」


「……ふむ」


「それが『K』と呼ばれる、神でも人間でも霊でもないデータを持つ弐の世界の監視者達が賞品をかけて競技をしている世界でして……」

「……Kか……」

千夜はサヨを横目で見た。


「あたし、わからんちんー!」

サヨが微笑みながらこちらを見ていたので千夜は視線を戻した。


「……で……先は?」


「名声を高めようとわたくしの姉がそれにエントリーしております……。つまり姉はお父様についているようで……。望月家は隠れるのをやめ、Kに勝ち、名声をあげて弐を支配しようとしています。とはいえ、それを指揮しているのはお父様で皆は呪縛により離れられなくなっている模様です」


「……お前の話だと……お前の姉は『K』ということか?」


「はい。そうらしいです。はじめは現世の人間に長寿の神として魂を祭られたみたいですが、村を守る神様から戦を望まない神様に変わり、そこから争いを好まないKになった模様です。あ、姉は唯一の抜け忍でして現世では百十六年生きておりました。ある村にたどり着き、そこで百年近く村の守り神のような扱いだったため、死んでからも神様として村を守ってくれる……ということに現世の人間はしたようです。現在は村がないため姉は『K』として弐におります。有名な神であったわけではなく、無名の土地神に近かったのだろうと今は思います」


「なるほど……望月は色々と伝説があるな……。我が兄弟もそれぞれ、時神やら縁結びの神やらKやらで……」


「そうなのですか……」

「ちなみに……私と末の妹は『Kの使い』だ。訳あってな」

千夜が渋い顔になった。


「どうしました?」

狼夜はうかがうように千夜を見上げた。


「お前の姉が『K』ならば契約を結んでいない私達『Kの使い』の元へ契約を結びにやってくるかもしれぬ。サヨも『K』でサヨにはカエルのぬいぐるみが使いとして契約を結んでいる……そうか!」

千夜は閃いた顔で手を叩いた。


「な、なんでしょうか?」

狼夜が戸惑う中、千夜はサヨに笑みを向けた。


「なっ……なに?」

「サヨ、私と憐夜をお前の配下にしろ。今すぐにだ」

「は、はい?むりむりむり!だいたいどーやればいーかわかんないし!」

サヨは後退りをしながらごぼうちゃんをさりげなく千夜から回収した。


「……サヨ、名前を言って契約を結びますと言えばいいんだよ。相手も承諾してるし」

ごぼうちゃんはサヨに抱っこされながら何度も頷いていた。


「ええー……」


「大事なことだ。狼夜の姉が関わる前に早く契約してくれ。ちなみに憐夜もな。憐夜は脅されれば誰の使いにもなってしまいそうだ……」


「わ、わかったよ……。えーと……じゃあ、望月千夜と契約します」

サヨが動揺しながら口にした言葉は目に見える電子数字となり千夜を覆って弾けてから消えた。


「よし、これでお前の使いになったぞ。後は憐夜だが……ん?」

千夜の顔が曇った。


「なに?憐夜ちゃん呼んできてよ。まちぽよー」

「……憐夜の……気配がない……」

「えっ?」

目を見開いたサヨに千夜の顔色が青くなった。


「お姉様! 」

突然に逢夜が音もなく部屋に入ってきた。


「逢夜!憐夜を見ていなかったのか!」

千夜の慌てた声が響く。


「申し訳ございませぬ!目の前で遊んでいた憐夜が偽物でした……。高度な術を使う者で気がつきませんでした」

逢夜は額に汗をかきながら悔しそうに目を閉じた。


猫夜(びょうや)お姉様だ……」

狼夜の小さな一言で千夜と逢夜は狼夜を睨み付けた。


「誰だ……そいつは……」

「先程お話ししたわたくしの姉です。人に成りすます術を主におこない、唯一誰にも気がつかれず抜け忍になりました……」

狼夜はあまりの圧に怯えながら答えた。


「なるほど……やはり憐夜を狙ったか……。憐夜をさらえば私達が来るし、憐夜を脅し自分の使いにできれば私達も始末できて一石二鳥か……。しかし……その『K』の世界に我々を誘導しているようにも見えるな」

「ところで……逢夜お兄様の罰は……」

千夜が緊迫な空気を出していると狼夜が千夜に当たり前のように尋ねた。


「……狼夜、そういう時代は終わったのだよ」

千夜はきょとんとしている狼夜にそう言った。


「でー……憐夜がどこいっちゃったかは謎?いろんなこと、おこるなーもう……」

サヨが呆れた顔で首を傾げた。


「優先は『K』の世界か。先程の話によれば名声のために『K』の競技に参加するとか」

「相手はお父様も俺も気がつかなかった、変装、変声、変相、変体の術を同時に使うやり手だ。誰に成り済ましているかわからないぞ……」

逢夜は本当に悔しそうにつぶやいた。


「とにかく、冷静に計画を立てるぞ。サヨの使い、ごぼうはまだまだ魂を受け取ったばかりで動きが鈍い。反対に私は魂年齢は五百歳を越える。いい機会だから『K』の世界でこぼうを使って競技に参加しろ。私はまずそうな時だけ使え」

千夜の言葉にサヨは目を見開いた。


「ちょっ……私がその世界に乗り込むの!?」

「お前は我々の大将であり、『K』だ。お前は守るから安心しろ」

千夜は真面目に頷いた。


「マジかー……」

「俺はお前が競技に参加できるよう裏で動く」

逢夜はすぐに消えていった。


「ちょっ……」


「たく……逢夜のやつ、動揺しおって……だからあいつは心が一番弱いのだよ……。落ち着いて行動できるか不安だな……。もうひと組が帰ってきたら更夜をつけるか……」

「あ、あの……わたくしは……」

狼夜は冷や汗をかきながら千夜の言葉を待った。


「ああ……お前は休んでいろ。傷が癒えてから手伝ってもらう。別の事も頼みたいしな。アヤが帰ってきたら曖昧な弐の世界に正確な時間ができる。鈴達弐の時神が帰ればこの世界は曖昧になるがアヤがいるため傷の癒えがある程度コントロールできるだろう。鈴達だけだとこの世界だけ勝手に何百年とか進んだり一日の感覚が十年になったりとバラバラだ。ギャンブルになる故、時間はあまり気持ち的に経ってはほしくない。アヤが帰ってきたらここにいてもらおう。サヨはこちらへ」


千夜は目を細めると動揺することなくサヨを導いた。


※※


レジャー施設の世界を後にしたアヤ達は再びクマのぬいぐるみのメメちゃんに会った。

「ああ、Kの使いか。再びアヤを運んでくれ」

更夜の言葉にメメちゃんは頷いた。


「あのー、そういえば……なんだけど」

少しだけ進んでからメメちゃんは迷ったように口を開いた。


「どうしたの?」

鈴が我先に尋ねた。


「あ……実は……現在、現世で生活しているKの夢の世界でK同士の運動会みたいなのが行われるんだけど不穏な影が入り込んでいるんだ。皆は何も知らない。Kの使い達はセカイさんっていう弐の世界を守る総括みたいなKの使いのドールさんから聞いてるんだ。知らないかな?魔女帽子被っていてマントと赤いドレスの……」

「……知らないわね……」

アヤは即答したが更夜と鈴は眉を寄せていた。


「更夜さんと鈴は知ってるの?」


「……これは思ったよりも大事だな……。セカイは名の通り弐の世界を半分操れるような人形だ。どこぞの少女神が作った人形らしいのだが……ああ、その少女神がKなためセカイはKの使いなんだ」


「……神が作った人形なわけ!?誰かしら……女の子の神……知り合いかしら?」


「さあな……。まあ、誰かは知らぬが日本の弐に住むドールなので日本の神だろうがな。つまり高天原にいる誰かか、神話とは関係ない土着神か。とにかく、セカイが動いている時はろくなことがない」


「で、セカイはその競技に参加するわけ?それとも中止?」

鈴がメメちゃんに小声で尋ねた。


「いや、様子みるとか。ちなみに僕もあやちゃんと出るよ!ゲームみたいだから楽しいんだ!」

「呑気な返答だわね……」

アヤは楽観的な感じに頭を抱えた。


「まあ、Kは争いを好まない楽観的なタイプが多いからね。平和を願うシステムだからさ」

「そうなのね……」

「もうすぐ着くな……」

アヤがメメちゃんに相づちを打った刹那、更夜が拠点到着を伝えた。


本当にわからない世界だ。ネガフィルムのような帯は毎回形を変えるため、行き道とは全く違う。霊にしかわからないのだろう。霊は他の世界へ遊びに行っていても自分達が住んでいる世界に帰ることができる。


「ほんと不思議だわ」

「……待て……」

進もうとしたメメちゃんとアヤを更夜は止めた。


「な、何?」

アヤ達は更夜が見ている先を同じように目で追った。


「え?」

そこには信じられない光景があった。

鈴が憐夜を連れて高速で動いていた。


「はあ?私がいるわ??」

鈴は飛んでる自分を見て動揺して叫んだ。


「……お前、本物だよな……」

「そうだよ。てか憐夜は本物?」

「わからん……なんだあれは……」

三人が疑って慎重になっている数秒でトケイが勢いよく通りすぎた。ウィングを回して必死に鈴と憐夜を追いかける。


「憐夜が拐われたか……なぜ……」

更夜達が動こうとした刹那、突然ワープしたみたいに鈴も憐夜もトケイもいなくなった。

まるで幻だ。


三人の戸惑いはさらに大きくなる。


「なんだ?消えたぞ……」

「あれは……ムーン、シャイン、リンネィだ!!」

メメちゃんが戸惑いの中、突然叫んだ。


「?」


「Kの使いのドール達だよ!特殊能力で瞬間移動ができるんだ。あのウィングのお兄さんは瞬間移動に巻き込まれて消えたみたいだね」

状況が飲み込めない三人にメメちゃんは一生懸命に語った。


「なんだ……つまり、あれが憐夜だったとすると……偽物の鈴がKで憐夜を拐い、慌てたトケイが追いかけたという構図になるのか?」


「わからないけど、とりあえず……落ち着いて戻りましょう。千夜さん達が何か知ってるかも」

アヤの言葉に一同は頷いた。

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