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旧作(2016〜2024完結)「TOKIの神秘録」望月と闇の物語  作者: ごぼうかえる
本編「TOKIの神秘録」望月と闇の世界
132/208

望月の世界8

一方、アヤ達の方は慎重に動いていた。

「仲間がいるかどうかってどうやって調べるのよ?」

「……お父様とは関係ない所で噂を拾う。さりげなく……な」

アヤの質問に更夜は静かに答えた。


「私がいるから大丈夫だわよ!アヤ」

鈴は「専門だ!」とやる気に満ちていたがある意味不安材料でもあった。


「まあ、そこでだな……」

更夜はある一つの世界の前で止まった。


「ん?」

「ここは家族で楽しめるエンタメ施設の世界だ」

「……家族で楽しめるエンタメ施設??」

更夜の言葉に鈴とアヤは同時に声をあげた。


「どういうこと?」

「俺達は家族になり侵入する。アヤは母、俺は父、それで子供が……」

「私!?」

鈴が驚きの声をあげた。


「あなたしかいないでしょ……」

「魂年齢上げて大人になれるわよ!私!」

鈴はむきになって叫んだが更夜は頭を抱えた。


「大人になれたとしても性格が落ち着いていないだろう……」

「はあ……仕方ないわね。だったらメチャクチャ子供になってやるわよ」

鈴はすぐに開き直った。


「嫌な予感がするのだけど……」

「なんとかする。行くぞ」

ため息ばかりついているアヤを更夜は引っ張り、世界へ入り込んで行った。

世界に入り込むとまず目に入ったのは青い空と天守閣だった。


「……?」

アヤは状況が飲み込めず眉を寄せた。エンタメ施設……なのか?

「あの天守閣がエンタメ施設のようだ」

更夜はいつの間にかハイカラさんのような帽子を被っていた。


「そ、そうなの……?えーと……それ……変装……なわけ?」

アヤが尋ねた。


「ここは着物で楽しむ所だ。そのまますぎる故に帽子を持ってきた」

「私はね、赤い着物になってみたわよ」

となりにいた鈴は真っ黒の忍び装束から真っ赤な着物になっていた。良いところの娘気取りで金の刺繍がひかえめにされている。


「え……じゃあ私も着物にならないといけないじゃないの」

「日本の神は正装が着物でしょ?霊的着物に着替えなさいよ」

鈴に言われ、アヤは頷いた。


神々の正装は着物だ。どの神も正装の個性豊かな着物を最低一枚は持っている。データが着物に変わるため、軽くて動きやすいので正装を愛用している神も多い。


アヤは手を横に広げた。電子データの数字が飛び出しアヤの周りを回る。数字はやがてアヤの体に巻き付くと白い光となり消えた。

電子データがすべて消えた時、アヤは橙色の鮮やかな着物に変わっていた。


「きれいー!やっぱ現世の神は違うねー」

「そ、そうかしら?」

感動を口にした鈴にアヤははにかんで答えた。


「では向かうぞ」

更夜は一言そう言うとガラリと雰囲気を変えた。楽しそうに笑う家族のようになった。


アヤは戸惑ったが彼が演技を始めたことに気がついた。しかし、自分はどうしたらいいかわからない。


「そのままでよい」

「……わかったわ」

更夜の言葉にアヤはとりあえず素直に頷いておいた。


しばらく歩くと開放的な日本庭園が現れ、天守閣の周りがレジャー施設に変わった。ジェットコースターや観覧車がある。


これはどこかの生きている人間が想像した心の世界である。この人からすると夢の中なので変わった世界観を持った人のようだ。


「……変わってる……」

「普通は部外者の……しかも生きた魂は入れないが、この世界は常にエキストラを募集中だ。いつでも人が多くなくてはいけない。故に生きている魂も肉体のない面識のない者も普通に入れる」

「へぇ……」

更夜の説明にアヤは圧倒されながら頷いた。


「ちなみにここの世界の創設者は心の世界……つまりここでレジャー施設の経営者になりたくて良いように妄想してるっぽい。しかも、人気の施設に妄想中だから遊んでくれるエキストラの魂を募集中みたいよ」

鈴が小声でアヤに耳打ちした。


「……弐の世界はやっぱり不思議だわね……」

アヤは目を丸くしながら辺りを見回す。よく見ると確かに人が多い。子連れもかなりいる。着物がルールなので皆着物だ。


ちなみに魂年齢は変えられるので子供は本当に子供なのかわからない。

そもそも死んだら年齢なんかない。


「じゃあ……どこに……行く?」

アヤが緊張しながら更夜に尋ねた。


「いつも通りにしゃべりなさい。いつも通りでよい……。……ん?」

更夜がアヤに演技で微笑んだ刹那、眉毛をピクリと上げた。


「……更夜……?」

鈴が小声で様子が変わった更夜を見上げた。


「……望月がいた。鈴、目立つな……」

更夜の言葉に鈴は一瞬顔を引き締めたがさりげなく演技を始めた。


「……おとっちゃん、次はあれ、乗りたい」

「あれかー、怖いんじゃないかな?」

鈴は一回転するジェットコースターを指差し、更夜にねだった。更夜は微笑みながら頭をかく。


「……すごいわね……」

アヤは小さく感心した。演技をしているのに本当の親子のようだ。


「でも私は……」

「おかっちゃん、先にアイス食べたい。あそこの売店のじゃなきゃやだよ」

鈴がアヤのつぶやきに被せて声を発した。


「あ、アイス?あ、あれね……」

アヤは戸惑いながら売店のアイスクリームを見つけた。

売店はかなりの列ができている。


……鈴、本当にアイスが食べたいのかしら?かなり並んで……。


アヤはそこまで考えて気がついた。更夜が望月がいると言っていた。

……つまり、敵か味方かわからない同族が売店の近くにいるということ。


「すーちゃん!お腹壊すからダメ」

「なーんでよー!アイス食べたい!」

しかし、更夜は列に並ぼうとはせずに鈴を止めていた。鈴は疑問でいっぱいの顔をしていた。


今の裏会話はこうだ。


『情報源の親族が売店の近くにいる。なるべく近づいて会話を聞き出そう』


『やめろ。近寄るな。お前の発言で注目を浴びてしまった……。やつらはこちらを見て警戒してしまったぞ』


アヤには望月の忍者がどこにいるかわからないが更夜は気がついているようだ。つまり、向こうも気がついている可能性があった。


『本当は全然関係のない人から情報を聞き出したかったのだがいきなり望月家に出会ってしまったな。鈴、あれには近づくな』

更夜は口パクで鈴に目線を合わせて言った。遠目で見るとぐずる子供をあやしている父親に見える。


「わ、わかった。諦める。アイスはいいや」

鈴がつぶやいた刹那、ゾクゾクする気配だけがアヤ達を回った。


「……ちっ。早いな……」

更夜は舌打ちをしつつ、鈴とアヤの手を引き、売店から遠ざかろうとした。しかし、気味悪い気配は周りを包んでいた。


『囲まれた。三人だ……』

『もう逃げられない……』

更夜と鈴はアヤをかばい、辺りを睨み付けた。

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