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旧作(2016〜2024完結)「TOKIの神秘録」望月と闇の物語  作者: ごぼうかえる
オムニバス5「春に散る花」(更夜の過去)
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春に散る花 一話

 俺が殺した少女、鈴と死後の世界で共に生活するようになった。鈴は俺のような人でなしになぜか、心を開き、白い花が咲きほこるこの屋敷でいつも笑顔でいる。

 「更夜(こうや)ー! あれ? また仏頂面してる」

 「そんな顔をしているか? 俺にはわからん」

 俺は畳の一室でゆっくり茶を飲む。いままで、こんな風にのんびり過ごしてきていない故、時間が進むのが、やたらと遅い。

 気がつくと鈴が隣で茶を入れて飲んでいた。

 「はあー。……あんたさ、いつも暗い顔してるけど、そろそろ笑ってみたら? あ、怖い笑いの方じゃないやつね」

 鈴は俺の演技顔を怖いと言う。

 まあ、そうだろう。

 自分の方が上だと知らしめる時に、使うようにしている故に、鈴に使った時もおそらく怖かったはずだ。人の心理につけこみ、底知れぬ恐怖を味あわせるのも忍の得意技だ。

 「すまん。もうあなたにあの顔はせん。本当は、鈴を殺したくなかったのだ。酷いこともな」

 「更夜、また顔が沈んでるよ。違うこと考えよっか」

 俺は最近、突然感情が隠せなくなった。鈴に見抜かれるほど、顔が沈んでいたか。

 やや人に近づいた気がする。

 「そうだな。あなたが怖がる顔をもう見たくないのだ。あなたは……そうだな、笑っていた方がかわいいぞ」

 「……!」

 鈴は俺の言葉に顔を真っ赤にして下を向いた。

 本当にかわいい子だ。

 まるで……

 いや、やめよう。

 鈴は鈴だからな。

 「あ、あのさ、そういえばー、白い花畑、ずっとあるね! やっぱこの世界好きだわ」

 鈴が照れ隠しにそんなことを言うので、俺もそれに乗る。

 「ああ、あの花畑は、時神過去神(ときかみかこしん)栄次(えいじ)の力作だ」

 「しかしさー、死んだ後にさ、宇宙みたいに沢山世界があるとは思わなかったわよね! しかも、現世で生活してる人らの心の世界が具現化してるなんて、誰が考える?」

 鈴が笑い、俺もつられて笑ってしまった。

 「確かにな。ここは、時神未来神(ときかみみらいしん)プラズマの世界だという。それで、過去神栄次が未来神プラズマの世界を装飾し、俺達が住みやすくしたと。風呂とか、家とか、花畑とかな。俺を現世で殺したのが神というのも、なんかの運命か。栄次が時神だったとは知らなかった。どうりで化物じみた強さだと」

 珍しく俺が楽しそうに語ったからか、鈴が目を見開いていた。

 「あんたさ、いつもそういう感じにしなさいよ」

 「すまんな。まだ感情を自然に出せんのだ」

 「私達は、なんだかんだで現世の時神のおかげで死後の世界の……こちらの世界の時神になっちゃったわけだから、忍じゃないのよ。自然に笑えばいいのー」

 「ああ。俺の心にある後悔がすべて消えれば、笑えるようになるかな」

 鈴に意味深な言葉を発してしまい、慌てて俺は口をつぐんだ。

 「後悔? 私を殺した他になんかあるの?」

 鈴はこういう所が鋭い。

 俺にはまだ、このことを話す勇気はない。口に出せるほど傷が癒えていないのだ。

 「まさか、女……」

 「……さあな」

 鈴は本当に鋭い。

 俺はてきとうにはぐらかした。

 すると、鈴は少し悲しそうに立ち上がった。

 「ゆのみ、片付けてくる」

 「……」

 俺は鈴の感情に気づかぬほど鈍感でも若くもない。

 だが、俺は鈴を娘と重ねている。俺は父親だった故に。

 娘がいたんだ。

 妻もな。

 

 

 

 

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