城主殺害 前編
あれからそんなに時間は経っていなかったと思う。城主が殺された。夜中だった。殿は正室でもなく側室でもない女と寝ていたらしい。その女も共に殺されていた。次の日になるまで誰も気がついていなかった。
そしてその日から更夜が消えた。
城は大混乱だった。殿の死を悲しむ暇もなく、次に頭になるものを決めていた。候補として選ばれたのは元服したての城主の息子だった。この混乱の中ではまともな指揮ができるとも思えずこの国はもう終わりかとそう思った。あちらこちらの国が武器を取り、この国の国取りがはじまった。
現城主は盛んな時期、若い発想が抜けず、父親の仇を打ちたいと憎しみを込めた目で俺に更夜を殺せと命じてきた。俺は何度も更夜を探しても意味がないと言った。しかし、この男はきかなかった。
「栄次、更夜を殺せ。お前が首を持って来なければ町の娘十人を殺す。」
この男からそう言われた時、俺は心底驚いた。何の関係もない娘を更夜のために十人も殺すのかと。
狂っている……。そう思った。
この男は今、冷静な判断ができていない。ひどく動揺し、何をしたらいいかわかっていない。
こういう男は何をするかわからない。俺はとりあえず了承した。
「お前に五人つける。お前が逃げたらすぐにわかるぞ。」
「……。」
これが俺と主の最初で最後の会話だった。
俺は監視をされながら旅に出た。更夜に対する情報はまるでなかったため、一度、国の外に出る事にした。俺はそこそこ有名になっていたらしく、蛇が出たと何度も殺されかけた。まあ、ここは敵国、襲われてもしょうがないのだが。
だが人は一人も殺していない。俺が持つ、この霊的な刀は人を斬っても殺せない。時間が戻り、その人間の傷はなくなる。ただ、一瞬だけくる痛みに耐えられず失神するだけだ。
本気で更夜を探しているわけではなかった。もう少しであの城主の命運は尽きる。そうしたら、こそこそついてくる五人を解放して俺も自由になる。そう思っていた。
だが運命は残酷だ。俺は更夜を見つけてしまった。ある山道を歩いていた時だった。山の中腹あたりに自然でできたのか草原が広がっていた。草原はそこだけで他は深い森で覆われている。その草原の真ん中に見覚えのある銀の髪が揺れていた。




