暗殺少女と蒼眼の鷹 最終話
「皆さんがこの子を殺せぬというのならば私が殺しましょう。この子はいくら拷問してもおそらく何も吐かない。」
更夜は冷たい瞳で私を見る。私は更夜を睨みつけた。こいつだけは殺してやりたい。
今の私は怒りと後悔と屈辱でいっぱいだった。知らずに溢れ出る私の殺気にまわりの男達が恐怖して距離をとる。栄次は諦めたように目を閉じていた。
更夜が遠ざかる男達を避け、私に近づいてきた。腰に差している刀を抜いた後、私に目線を合わせるようにしゃがんだ。顔を近づけ、私の耳にそっとささやく。
「忍に思いやりや同情の心はない。お前に同情したら俺がお前に殺される。忍は隙を見せた方が負けだ。お前は今も俺を殺したいんだろう? 殺したくてたまらないんだろう? 普通の子供はな、そんな冷酷に……そして簡単に人を殺す事はできないんだ。まったく騙す事と殺す事を最優先に考える子供というのは悲しいな。お前の素直な笑顔が一度見たかったものだ。嘘で塗り固められたものではなくて……な。」
更夜の声が最後だけふと柔らかく優しくなった。更夜の仮面の下を見たような気がした。だがそれは一瞬で消えた。すぐに私から離れるとまた冷酷な瞳で刀を振りかぶった。
……おかしい……更夜がこんなに隙を見せるはずがない。
私は更夜の刀の振りかぶり方が隙だらけに見えた。このままだと死にきれないと思い、左手に仕込んでおいたクナイで手の縄を切り、そのクナイを一か八かで更夜に投げつけた。クナイはまっすぐに飛び、更夜の右目に深々と刺さった。
「ふむ。ここまで抵抗するとはな……。見事だ。」
更夜はまったく怯まず、そのまま刀を振り下ろし……私を斬り殺した。
私が最後に見たのは自分の身体からあふれ出る真っ赤な血とせつなさと悲しみを含んだ蒼い鷹の左目。
……隙を見せた方が負け。彼はそう言った。最後の最期、彼は私に大きな隙を見せた。私に殺してみろと言ったようなものだ。それに気がついた私はわざと目を狙った。最後まで更夜の思い通りになるのは嫌だったからだ。少しだけだが彼に復讐できた気がした。




