暗殺少女と蒼眼の鷹 三話
屋敷内はきれいに掃除されていた。軋む音がする木の廊下を歩きながら物の場所を確認する。
ここは廊下の両側に障子で仕切られた部屋が多数ある。これのうち、どれかが蛇と鷹の部屋。
まずは内部調査からやっていかなければならないね。
少し歩いた所で気配がした。私は振り返りたいところを堪えて気がつかないふりをする。
「あなたが新入り?」
声をかけてきたのは女だ。振り返るときれいな着物を着ているきつい顔の女が立っていた。
「え……えっと……。私はどうすればよろしいでしょうか……。」
私はわざと戸惑った声をあげる。演技には自信がある。私は何度もこういう潜入をして人を殺してきた。もう今更、なんとも思わないけど。
「こっちにきなさい。」
女は冷徹な笑みをこちらに向けている。
……ああ、なるほど。この女はいやがらせ、もしくはいじめの達人だね。
私はわかっていたがあえて従い女の元へ向かう。
女は私の手を引いて歩き出した。手を握る力の強さ、引っ張り方でこの女が今、どういう気持ちなのかなんとなくわかった。
単純に遊び道具が来たとしか思っていないね。
私は呆れたが顔には出さずに従う。
女は男達が住んでいる部屋から少し離れた部屋の前で止まった。中から女の声がする。
ここは女部屋らしい。
女が障子をそっと開ける。
「ねぇ、見て。こーんなみすぼらしい子が入ってきたわ。」
女がひどい言葉で私を紹介する。女部屋には沢山の女がいた。座る場所がないくらいだ。そして化粧や香の匂いだろうか、艶やかな匂いがする。
……夜は男の部屋に行っているから寝る部屋がなくてもいいのかな。
私がそんなくだらない事を考えた時、女達の過激ないじめは始まっていた。
「ねぇ、あなた、男に対するご奉仕の仕方知っている?」
女の内の一人が私に詰め寄ってくる。いやらしい笑みを浮かべて化粧の濃い顔で近づいてくる。
「知りません……。お姉さま。」
「障子戸をいきなり開けてね、お水を盃に入れてあげるのよ。それでね……。」
……この女は私に恥をかかせるつもりだね。男の奉仕の仕方はある程度知っている。
無茶苦茶言ってるけどなかなかおもしろいよ。お姉さん。
「そうなのですか。参考にいたします。」
私は無邪気な笑みを女に向ける。女は満足そうに頷いた。
「あ、そうだ。ねぇ、この子、今日、栄次様付きにしてみない?」
「あはは! それいい!」
一人の女の意見に他の女達は笑いと共に騒ぎ出した。
……栄次様?
「じゃあ、あんた、今日栄次様ね。」
女は急にそっけなくそして冷たい目で私に命令をした。




