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第21話 カーバンクル

 それから二日。

 アーヴァインは未だにヴェントに逗留してるけれども、実は内緒でここまで来ちゃったらしく護衛っぽい人に怒られてからは宿屋に籠って書類仕事をしている。


 ご飯時に真っ青な顔でやってきて、たくさん食べてちょっと話してまた宿屋に戻ってるんだけど、幽鬼みたいでちょっと怖い。

 

 ご飯以外は外出さえ許してもらえないらしく、ドルツさんたちが代わりに手紙を出しに行ったり必要なものを買いに行ったりしているらしい。


「初めての友達だからって無理して会いに来なくても良いのになぁ」


 まぁ直接言うのは可哀想なのでやめておく。時々回復魔法を掛けてあげてるので何とか頑張ってもらおう。四六時中かければ薄いスープを一日一食でも生きてられるのは私で実証済みだし。


「ンマー……悩んじゃってる顔してるわネ。恋? 恋かしらぁ?」

「そんなんじゃないですー」


 私の前にいるのはミス・テールマンさんだ。可愛らしいフリフリのドレスを身にまとっていて、だけど野太い低音ボイスと丁寧に剃られた青髭のせいで性別不詳な洋服屋さん。

 とはいえ、私とノノがいるのは”フリル&レディ”ではなく、冒険者ギルドの応接室だ。


「ごめんなさいねぇ……繋ぎとはいえ《《ギルド長代理》》なんて押し付けられちゃったせいで」

「いえいえ。可愛い洋服もたくさんいただいてますし」


 私たちは、ギルド長代理をしているミス・テールマンさんに呼ばれたのだ。

 内容は魔物の討伐依頼。

 私たちは冒険者ギルドには登録してないんだけれど、顔見知りのミス・テールマンさんに頼まれてしまったのでとりあえず話を聞きに来たのだ。


「ごめんなさいねェ……ドルツちゃんとフェミナちゃんは皇太子殿下のパシリで忙しいし、アタシも動くわけにはいかなくてネ」


 なんとミス・テールマンさん、元A級冒険者だった。お店を開くのに必要なお金は溜まったから、って理由で引退宣言していただけで、別に今も冒険者ではあるらしいんだけど、ユザークさんがギルド長を辞めて、後任が決まるまで代理を要請されたらしい。

 頼みに来た冒険者ギルド本部の職員が好みのタイプだったから引き受けちゃった♡と言っていた。


「危ないってことはないと思うわァ。失敗しても違約金は取らないから、無理のない範囲でやってくれれば良いのよォ」

「カーバンクル、ですか」

「すばしっこい魔物ね。逃げられちゃって討伐が難しいからCランク扱いなだけで、戦闘力はほぼないわヨ?」


『肯定:種族名【カーバンクル】にはほとんど攻撃力がありません。光属性と闇属性の魔法が多少使えるため、幻術とすばやい動きで逃げ回る魔物です。知能が高くいたずら好きなので畑を荒らしたり民家にいたずらすることが多いです』


 なるほど。


「ちなみに依頼元は錬金術ギルドの職員ヨ。薬草畑や保管庫を荒らされたと憤慨してたワ」

「れんきんじゅつぎるど」

「冒険者とか商人と違って試験有りの資格制だから人が少ないとこヨ。薬草とか鉱物を調べてニヤニヤしてる奴らが多いのよォ」


 それってすごく変な人達なのでは……?


「研究熱心だけど初心(うぶ)で奥手なシャイボーイばっかりなのヨォ。ホントはアタシが行きたいくらい♡」

「……ちょっとその依頼は不安が残りますね」

「あらぁ? マリィちゃんが心配ならノノちゃんが守ってあげれば良いのよ♡」


 そ・れ・と・も、と変に言葉を強調してノノを覗き込むミス・テールマンさん。


「守れる自信がないのかしらぁ?」


 上目遣いになろうとして屈みこんだ拍子に、二の腕とか背中とかがバツンッて破けてた。鋼のような肉体とショッキングピンクの下着が露わになる。


「きゃっ♡ イタズラな筋肉♡」

「……お嬢様のことはたとえ魔王級の魔物が来ようと守ります。とりあえずお嬢様の精神にダメージが入る前に服を着てください」

「男の子だけじゃなくて女の子まで見惚れて理性がトんじゃう肉体美ってコト!?」

「良いから早く服着てください!」

「ンもぅ……恥ずかしがりなのねエ……!」


 えっと、会話できてる……?

 意味が分かってないの、私だけなのかな。ちょっと仲間外れみたいで寂しい気もするけど、なぜだかほっとする気もする。

 どっちが良かったのかは判断できないけど、蒸し返すのも微妙だから黙ってよう。


「まぁ、襲ってくる度胸もないようなシャイボーイだからそんなに心配しなくても平気よォ」




 というわけで街はずれに建っている錬金術ギルドの建物までやってきた。


「”魔物寄せ”から街を救った聖女様ですか……依頼を受けてくださってありがとうございます」


 依頼人は瓶底みたいな眼鏡をかけたぼさぼさ頭の男の人で、依頼書を渡したり詳しいことを聞いたりしても地面の方を見ながらボソボソ喋る系の人だった。

 シャイっていうか、おしゃべり苦手なのかな?


「馬鹿な冒険者が量も考えずに魔物寄せを使ったそうで……街を滅亡から救ってくださってありがとうございます」

「いえいえ……って、量?」

「ええ。本来なら魔物避けは耳かき一杯分を撒けば辺りの魔物がやってくるものです。ところが捕まった冒険者の話を聞いたところ、瓶いっぱい分は使ったとか。この地域の魔物を全部呼び寄せる気かって話ですよ……そもそも低級の魔物なんて濃度が高すぎて発狂してたんじゃないですかね。用法も用量も分からない馬鹿が勢い任せで使うから魔物寄せは規制品なんですよ。僕もあれを手に入れて研究のために使いたいんですが——」


 話し始めたら止まらない系の人だった。

 好きなことになると早口になる人っているよね。私もノノのことなら永遠に喋れる自信あるよ!

 多分体力的に寝落ちするけど!

 でも最近はどんどん体力もついてきたし、食べられるご飯の量も増えてるからね。

 お胸も心なしかふっくらしてきた気がするし。

 このままたくさん食べれてたくさん歩ける健康体を目指すんだ!


「あ、失礼しました。つい話過ぎました」

「いえ。それで、依頼は?」

「あそこの倉庫です。……カーバンクルは捕獲して森に逃がすでも、討伐して素材を売るでも構いません」

「逃がす? わざわざ?」

「逃げ足が速いことから、旅人なんかは幸運の魔物って呼んるんですよ。魔物や夜盗に遭った時に無事に逃げ出せますようにって。まぁ実際はただの魔物なので加護やなんかはあるはずもないんですが、カーバンクルは人懐こいというか舐めてるというか、いざとなったら逃げれる自信があるのか旅人に餌をもらったりもするらしくてにんきがあるんです。まぁもっとも倉庫にいた個体は間違いなく僕を小ばかにして笑ってたので——」

「ストップ、ストップ」

「あ、すみません。こちらです」


 なんか洪水みたいに話されて何にも頭に入ってこなかったけれど、さっそくカーバンクルの捕獲に取り掛かろうと思う。いやだって殺さなくていいならそっちの方が良いよね。


 案内されたのは倉庫というよりも真四角な家だった。

 トイレもお風呂もついてない、二階建ての大きな家。この中に錬金術のための道具や素材、今までに作ったものが仕舞われてるらしいんだけども、とにかく広い。


 中をちらりと覗けば倉庫というよりもゴミ箱みたいな……とにかく雑多にものが詰め込まれている感じだ。ギリギリ人が通れるだけのスペースは確保してあるけれど、部屋も通路も関係なくぎっしりものが詰まっている。

 場所によってしゃがんだり、四つん這いにならないと通れない場所もあるらしい。


「カーバンクルってどのくらいの大きさだっけ?」

『回答:基本的に種族名【カーバンクル】は人のすねくらいの体高をしています。ぬいぐるみのような見た目をしていることも、人気の要因の一つです』


 なるほど。

 ……えっ、これ見つけられる……?


『可能:結界魔法を使って倉庫内を分断し、各部屋を光属性魔法で消し飛ばしていけば逃げられることなく討伐可能です』

「全然ダメだよ!?」

 



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