実地研修③
今回のクレイの衣服についての記載を忘れていたので、②を少し追記しました。
3階層に入り、再び通路を進んでいく。
魔光石――だっただろうか――が辺りを薄暗く照らし、多少うねった通路だ。
しばらく歩き、扉が見えた。
年期のある木製の扉、派手ではないが、かなりしっかりした作りだ。
教師がドアノブに手をかける。
「こういう事を言うのは不謹慎かもしれませんが……面白いものが見れますよ」
そう言って開けた先は、木製の壁に覆われた部屋だった。
そこには空になった棚、隅に寄せられた机や椅子、魔法の陣を書くためであろう板が数枚壁に立てかけられている。
どれも使われている様子は無く、ホコリまみれだ。
そんな部屋の様子に一人の生徒が気付いた。
「ここって……教室……ですか?」
「そうです、ここは取り壊された旧校舎地下1階の魔法実習室の1つです」
――地下1階?しかしここは……
「でもここはダンジョンの3階層目ですよ!?」
「そこがダンジョンの不思議なところなのです。ダンジョンが地表とこの教室の間に発生し、ダンジョンの持つ空間の歪みが本来地下1階分の距離がここまで広げている……と考えらています」
それは初耳だ。
今までダンジョンに対しては攻略(主に経路)に思考を巡らせることはあっても、ダンジョンそのものに対して疑問を抱くことは無かった。
ダンジョンに入ってから、ここまでそこそこの距離を移動してきたが、ダンジョンの外から見れば地下1階分の距離しかなかった、という事になる。
もしかすると自分の剣のあった部屋も……。
「何故ダンジョンが発生するのか?これらについては『神が人間に与えた試練』や『悪魔がこの世界に侵攻した際、世界にかけた呪い』等、様々な説が唱えらており――」
他に一通りの説明を終えた教師がポンと手を叩く。
「はい、このダンジョンはここで終点です。元来た道を戻り、ダンジョンを出れば終わりです。もう一息ですから頑張りましょう」
ここで終わりなのか。
教室内を見渡すと確かにこの先に続く道は無い様だ。
興味深いところがあったダンジョンではあったが、そこまで深いダンジョンではなかったらしい。
「は?え?終わり?」
今まで珍しく大人しかったアレイヤが驚きの声をあげた。
「リハビリになりそうだから来たのに!一匹も!モンスターが!居ないじゃない!」
「いや、モンスターは居ないって……」
ダンジョンに入る前、妙にウキウキしてたのはそういう事だったのか。
「ダンジョン」という単語だけ聞いて、ダンジョンに入る=モンスターと戦える――そういう認識でここまで来たようだ。
「くーっ!こんなことなら無理矢理にでも……」
――突然、空気が重くなった。
開いたままの教室のドアからだ。
「アレイヤさん」
「えぇ、何故かは分からないけど……これは出てるわね」
アレイヤも気が付いているようだ。
……こういう事には敏感らしい。
「あの、クレイちゃん……一体何が……」
「リーナ様、ボクの後ろに」
「他の生徒も教師の後ろに居なさい、それとそこの冒険者!アンタ達は前に!」
周囲の人々は訳が分からないという表情をしているが、アレイヤからの指示ということで大人しく従っていく。
「ギャギャ!」
ドアの陰から子供位の影が独特な声をあげながら跳び込んできた。
「ふッ!」
アレイヤが素早く反応し、斬る。
「ギュェッ……」
襲撃者は首を落され、跳び込んだ勢いで後ろの教師や生徒たちの方へ転がっていく。
コツンと教室の壁に当たり止まった首は、ゴブリンのものだった。
「うわぁっ!」
「ひぃっ!」
「ゴブリン!?モンスター!?どうして!?」
今まで一度も娘のダンジョンに現れることの無かったモンスター。
悲鳴をあげる生徒の隣で教師が驚きの声をあげる。
クレイにも原因は分からないが……
「ダンジョンが動き始めた」
またしばらくお待ち下さい。




