ギリアン、クレイを欲する
書き出しの数行を書くだけで数時間かかりました。
びっくりです。
「見ろ、あの娘だ。すげぇ可愛いのにやるな」
「流石リーナ様の護衛ね」
「あの肌の色、異国の方かしら」
「もう少し、もう少しで見えそうな……」
「何やってるんだよ、お前」
翌日には「大胆なメイド服を着た少女がロベルトを負かした」と話題になっていた。
ロベルトは学校内でもそれなりの実力があったらしい。
目立つにしても、もっとまともな格好が良かった。
正面の男子生徒に目が留まる。
その生徒にというよりはその周囲だ。
一人の生徒に付き添う護衛は一人だけのはずなのだが、彼は3人の連れている。
全員女性だ。
他の生徒の護衛を一緒に数えてしまったのだと思ったが、彼女たちは明らかに彼の後ろを歩いている。
その生徒がこちらを見つけると、こちらに向かって歩き始めた。
「おはようございます、リーナ様」
「おはようございます……ええと」
「私の名前はギリアン、お見知りおきを……そして君が」
ギリアンがこちらを向く。
なんだろうか、彼の視線はあまり良いものではない。
「クレイでしたね、朝から話題になっていましたよ」
「この学校でこういった形で目立つのはあまり……」
「確かに、特にその見た目ではね」
ギリアンがクレイの全身を眺める。
彼の言う見た目とは服の事なのか、それともクレイ自身の事なのか。
「それにしても、噂以上に良い……欲しいな」
ギリアンが誰にも聞こえない声で小さく呟く。
「気に入った、クレイ、お前が欲しい。リーナ様、この少女を頂けないでしょうか」
「え?」
「は?」
いきなりの要望にクレイとリーナは呆気に取られてしまう。
当たり前だが「欲しい」と言われてリーナは手放すつもりは無いし、クレイも鞍替えするつもりはない。
「その要望には応えられません」
リーナは当然断る。
だがギリアンは思わぬ提案をしてきた。
「では決闘を申し込みます」
ギリアンはクレイを求めて決闘を申し込んできた。
「決闘!?そんな!本気なのですか!?」
「そんなの受ける訳が……」
ギリアンの「決闘」の言葉で周りの生徒が騒ぎ出した。
要求が通らなかったから、決闘で押し通します。
そんなものが通る訳がない。
「できません……」
「リーナ様?」
「決闘は拒否できないんです」
「そんな!?」
「命を賭けた行為、だからこそそれだけの強制力があるんです」
命を懸けて決闘を申し込まれた以上受けなければならない、それが貴族同士の流儀らしい。
無茶苦茶な流儀だ。
「ですが、リーナ様が決闘なんて……!」
リーナの命を守らねばならないのに、護衛対象が決闘に出るなんて言語道断だ。
「ではクレイが代理で決闘に参加するのを認めましょう」
「……分かりました。リーナ様に危険が及ばないのなら、ボクが決闘に出ます」
「フフフ、よろしい、決まりですね」
こちらの都合を無視した決闘。
それでも受けなければならない以上、自分が決闘に出た方が良い。
だが、その前に確認したい事がある。
「2つ、聞きたい事があります」
「なんです?」
「後ろの3人、その内2人は決闘で手に入れましたね?」
「そうです、決闘で手に入れたからこそ2人余分に連れて歩けるのです。ご安心下さい元の持ち主は五体満足で生きてますよ。私は"ソードブレイカー"なので。貴女の事も無傷で手に入れて見せます」
「そうですか……それではもう1つ。こちら側が勝っても何も無しというのは不公平では?ボクが勝ったらその2人を解放して下さい」
「ハハハハッ!なるほど、確かに!ではそうしましょう」
ギリアンはあっさり受け入れた。
ソードブレイカーである事に相当自信があるらしい。
「ですが、こちらは2人差し出し、そちらは1人差し出す……割に合いません。そうですね……ではこちらが勝利したら貴女には皆の前で宣言してもらいましょう"この身はギリアン様の所有物になりました"とね、それで手を打ちましょう」
ギリアンが今までの中で一番嫌な視線を自分に向けてきた。
今自分は彼の頭の中でどうなっているのだろうか……。
「決闘は明日の昼、くれぐれも宜しくお願いしますね」
クレイがこれまでの戦いに敗北したIF話という企画を一瞬思いつきましたが、今までの流れ的にどう考えてもスケベ待った無しなので、ボツになりました。




