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幻惑の貴公子ロベルト

思っていたより時間がかかってしまいました。

「何あの娘、護衛?メイド?」

「凄い格好……」

「でも可愛い!お人形さんみたい!」

「……可憐だ」


リーナに渡されたメイド服を着て校舎に向かっているが、目立っている。

自然と姿勢が小さくなる。


「あの、リーナ様……この服、目立ってます……」

「クレイさん、自信を持って下さい!皆さんクレイさんの可愛さに目を奪われているんですよ!その内快感になります!」

「なりません!なりたくないです!」


※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※


リーナの護衛として授業に付き添う。

リーナは優秀な生徒だ。

座学、魔法学でも他の生徒にしっかり付いてきている。

分野によっては他の生徒よりも優秀な程だ。


現在木製の剣を使用した一対一の模擬戦をしている。

戦闘の方はそこそこと言ったところだろうか。

今回は相手が悪いようで、何とか相手の攻撃を防いではいるが、勝ち目は無さそうだ。

相手の方は確か、ロベルトと言っただろうか。


「きゃッ!」


押し切られたリーナが尻もちをついた。

が、ロベルトは攻撃の手を止めない。

それでも攻撃を防いでいたリーナだったが、ついに剣を弾かれしまう。

それでも尚、ロベルトは剣を振り上げる。

あの木剣にはある程度負傷をさせない魔法がかけられている様だが、それでもやり過ぎだ。


リーナが落とした木剣を拾い、振り下ろされた木剣とリーナの間に滑り込ませる。

カンッ、と小気味良い音が周囲に響く。


「いつの間に?」

「今の見えた?」


模擬戦を見学していた生徒達がクレイを見て騒ぎ出す。


「まだ模擬戦の途中だ、邪魔をしないでもらおうか」

「既に決着はついています、もう十分でしょう」

「王族の出涸(でか)らしの付き人、しかも小娘の分際が俺に指図する気か」


学校の敷地内に入ってからというもの、リーナに対して嫌な視線や態度を取る人が居たのは知っていた。

リーナ本人も「私よりも立場が強い貴族も居る」とは言っていたが、まさかここまでとは。


「どうしても付き人らしく振る舞いたいのなら……そうだな、お前が身代わりになれ」

「ボクが貴方と戦えと?」

「そうだ」


教官に「この行為を許すのか?」という視線を送るが、教官は目を反らした。

思っていた以上にこの学校はリーナにとって過ごしにくい所になりそうだ。


「分かりました、貴方との模擬戦を受けます」

「愚かな小娘だ、地べたを這って許しを()えば良かったものを」

「クレイさん……」

「今はリーナ様の護衛ですから、気にしないで下さい」


リーナを後ろに下がらせ、ロベルトと対峙する。


「ロベルト様があのメイドと戦うのか!?」

「ロベルトさんと戦うなんて、あの娘じゃ荷が勝ちすぎる」

「可哀想に……理不尽だとは思うけど、彼の言う通り許しを請う方が良いのに」


ロベルトは周囲の評価に更なる自信を付けたのか、笑みを浮かべる。


「無力なら無力らしく足掻いてみろ!」


ロベルトが先手を打つ。

生徒達の間で高い評価を得ているだけあり、速く鋭い一撃だ。

しかし強力なモンスター達と戦い、経験値(ちから)を得てきたクレイにとっては「人間にしては」の領域を出ていない。

一撃、その次も、事も無げに弾かれる。

木剣と木剣がぶつかる音だけが虚しく響き続ける。


「なんだと……!は、ハッ!やるじゃないか!少し見くびっていたようだな、ならこれはどうだ?」


ロベルトが剣を掲げ魔法を放ち、周囲へ広がっていく。

これは……幻惑魔法か。

複数の分身を見せる魔法だ。


「出たぞ!ロベルトさんの幻惑魔法だ!」

「1人だけじゃなく、周囲の人間にまで影響を与えるなんて……!」


周囲の反応からして、やはりロベルトが複数に分裂している()()()


「どうだ?これが"幻惑の貴公子"と呼ばれる所以(ゆえん)だ」

「ん?え?」


曖昧な返事をしたクレイをロベルトは「困惑している」と判断し、勝利を確信した。


「さぁ、お前如きにこの魔法を使わせた罪をどう償ってもらおうか……」


ロベルトがクレイの周囲を歩き始める。


「たくさんのロベルト様が動き始めた……!」

「ど、どれが本物なんだ……!?」

「こ、混乱してきた……」

(クレイさんがこの魔法を覚えて私に使えば天国の完成なのでは!?)


……何故だろう、リーナが不穏な事を考えている気がする。


ロベルトの幻惑が動き始め、本物のロベルトがその中に紛れたようだ、()()

ロベルトが歩き、クレイの視線がそれを追う。


「……む?」


クレイの視線が自分から離れない事に気が付いたロベルトが逆方向に歩き始める。

それでもクレイの視線は離れない。


――偶然だ、あの小娘は確実に効果の範囲内に居る。


ロベルトが痺れを切らしてクレイへ斬りかかる。

幻惑に頼った斬りかかり。

クレイにとっては隙だらけの攻撃だ。


「ほいッ!」


目にも留まらぬ斬撃でロベルトの木剣を弾き飛ばす。

武器を失ったロベルトの喉元に木剣の先端を添える。


「ぐッ……」

「ボクの勝ち、ですね?」


ロベルトが腕を下し、悔しさに拳を握る。


「お前の……勝ちだ……」

リーナはもうちょっとマトモなキャラでした。

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