クレイとその後
何とか続きが書けました。
あれから1週間ほど経過した。
街の防御を突破し、アレイヤすら敵わなかったバルガスを単騎で、しかも無傷で討伐した事で、9等級から1等級という訳の分からない出世を遂げてしまった。
「凄いですよ!前代未聞の最弱判定の9等級冒険者から1等級冒険者へ一気に昇進だなんて!クレイちゃん、これまた前代未聞ですね!」
とはニナの弁である。
何でもアレイヤは冒険者ギルドに所属している訳ではないが、もし所属してたら間違いなく1等級だと言われていたらしい。
神剣について周囲からは「武器を出したり消したりできる魔法武器の使い手」という事になっている。
身体の頑丈さについては特に言及されていない、噴水を破壊する程の衝撃に耐えているはずなのだが……。
まぁ、根掘り葉掘りされるよりはマシだ。
人々からの変な噂という悩みの種が増えた。
強力なモンスターを屠る、突然現れた1等級女性冒険者。
噂が噂を呼び、一部では「オークを超える巨漢の持ち主」だの「主食が鋼鉄」だの「牢屋の格子すら素手で捻じ曲げる」だの言われ放題だ。
いや、最後の格子を曲げるやつは出来るかもしれないが。
妙な追及が無いのはそういった噂のおかげで、自分がその噂の人だと認識されていないのかもしれない。
何はともあれ、1級冒険者となっていつもとは違う依頼が来ている。
「ある地域に突然強力なモンスターが渡ってきた、急ぎ討伐して欲しい」とか
「子供が珍しい病気を抱えている、特効薬の材料に凶暴なモンスター達が住まう地域に咲く花の蜜が必要だ、採ってきて欲しい」とか
「用心棒募集。強く、美しく、若い女性冒険者限定。用心棒としての成果と教育次第で愛人への昇格あり」とか
「あの一件での濡れ透けを見逃した、後生だから目の前で水を被って欲しい」とか
等々……後半二つは検討する必要すらない、丁重にお断りしよう。
アレイヤはあれ程の目に遭いながらも元気にやっている。
腕を吊るした布を首から下げ、その布が鎧を付けていない胸の谷間に食い込み、なんとも目のやりばに困る。
かなり良いポーションを使ったらしく、それだけで完治は叶わなかったが、いずれ元通りになるらしい。
「上は好き放題されちゃったけど、下は何事も無かったわ!でもしばらくは生臭いモノは勘弁したいかな?あ、私がアイツに何をされたのかはお父様にはナイショにしておいてね?」
との事だ。
何と図太い精神力だろう。
『紅の爪』の面々は全員死亡した。
クルトとしての思い出が無くなったと思うと何となく寂しい気もするが、バルガスに放った最後の一撃は今までのとの決別といえるのではなかろうか。
この先は神々の武器を身体とする少女クレイとして生きていく。
……ちゃんと女の子らしい事、覚えた方が良いのかなぁ?
※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※
派手さは無いが丁寧なつくり、静かな気品を感じさせる馬車が経由地であるベメルボアへと向かうために街道を進む。
馬車の両脇には馬に乗った護衛が1人ずつ。
中では身分の高さが伺えるドレスを着た気品あふれる少女と、緊張した面持ちで剣を抱えたポニーテルの少女が隣り合って座っていた。
「緊張するには早くありませんか?」
気品ある少女がポニーテールの少女の顔を覗き込みながら声を掛けた。
「は、はい、気を付けます!」
「リラックスして下さい、それでは貴女の仕事に支障が出ちゃいますよ?」
「そう言われましても、まさかこの私にこの様な大役を……」
「大丈夫ですか?流石に2カ月の間、その状態を続けるつもりじゃないですよね?私は末席の人間です、そう思って気楽に……ね?」
「そんな事言われても困りますよ……王女様……」
これにて第1部終了という事で、よろしくお願いします。




