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クレイと『紅の爪』

クレイと『紅の爪』が本格的に接点を持ち始める回です。

『紅の爪』の面々は焦っていた。

クルトを捨てて以降、依頼の成功率がガクッと下がり、ギルド内での評価が落ちに落ちている。

更に「2等級にもなってラセンリンゴを生で食べる素人」と一部で囁かれる始末だ。


流石の彼らも「自分達には案内役が必要」と認識を改めた。


ーーが、『紅の爪』へ加入する案内役が見つからない。


案内役はどこかのパーティーに所属しているのが基本だ。

既に座る席が存在している以上、わざわざ他のパーティーに移る必要が無い。

上位に居ながらフリーの案内役などそうそう居るものではないのだ。

駆け出しならフリーの案内役が居るだろう。

だがそれでは2等級の依頼に参加するのは無理がある。


自分達が知識と技術を身に着けたり、未熟な案内役に合わせた依頼を受けて成長を見守るような余裕は『紅の爪』には無い。

そんな事をしていれば2等級には居られない。


結局、解決策を思い付く事ができず、せめて現状維持の為に依頼をこなす事にしたが……。


「この依頼を受けられないってどういう事だ!」

「バルガスさん、『紅の爪』の評価が改められまして、改善が見られない限り、この依頼を任せる訳にはいかないのです」


受付嬢から『紅の爪』の実力がギルド内で疑問視されている事を告げられた。

降格の最終通告と言ってもいい。


まずい、早急に『紅の爪(おれたち)』に相応しい案内役を見つけなければ。


受付で焦るバルガスの視界に()()()()()()()()()()()()が映った。

どうやら採取依頼の報告に来たようだ。


噂は聞いている。

ギルド始まって以来の最弱判定の冒険者。

しかし、その判定をものともせずに採取依頼だけではあるが、上位の案内役の様な土地勘で次々に依頼を達成させ、着々と評価を上げてきている。

それに加え、隠れファンが居るという話も信じられる程の容姿をしている。


まだまだ新米ではあるものの、将来有望な冒険者ーー良いじゃないか、『紅の爪』に相応しい。


※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※


何やら()()()()()()冒険者が受付嬢とモメている。

わめき声を聞く限り、どうやら『紅の爪』の評価が下がり、望み通りの依頼が受けられなくなったらしい。

もう自分には関係無い、とりあえず無視だ。


「ニナさん、依頼の品です」

「流石クレイちゃん、早いですね!数の確認をしますから、待っていて下さいね」


ニナが袋の中身を確認し始めたとき、隣から声をかけられた。


「よぉ、精が出るじゃねぇか」


バルガスだ。

バルガスは納品袋を押し退けて受付へ寄りかかった。

落ちそうになった袋をニナが慌てて支える。

随分と失礼な男になったな。

ーーいや、前からそうだったかもしれない。


「俺は『紅の爪』のリーダーやってるバルガスだ」


存じております。

ずいっとバルガスが寄ってくる。

寄った分だけ、下がる。


「……まぁ、そう警戒すんなって、イイ話があるんだ、俺のパーティーに入れよ」

「……」

「以前クルトって案内役が居たんだがな、罠に掛かって死んじまいやかってよ、全く使えない奴だった」


その「使えない案内役」と言われた人が目の前に居るのだが。


「どうだ?優しくするぜ?」

「お断りします」


死人に口無しとばかりに言いたい放題言われた上に、自分を殺そうとした『紅の爪』に加入する?

冗談ではない。


「ボクはまだどこかのパーティーに所属する気はありません」

「駆け出しが俺の誘いを断るってのか」

「バルガスさん、今は依頼報告の処理中ですので」

「あ゛あ゛?」


バルガスがニナを黙らせようと大きな態度に出ている。

他の冒険者の依頼報告を妨害し、受付嬢への威嚇。

もうこれ一発殴っても許されるのではなかろうか。


「なーにやってんの?」


最近やたら聞き慣れた声と共に、後ろから抱きつかれた。


「テメェ、俺の会話を邪魔すん……あ、アレイヤ……!」

「何この人」

「『紅の爪』のリーダー、バルガスだそうです」

「へぇそう」


心底興味が無いといった感じだ。


「まだ用あるの?私クレイちゃんに用事あるんだけど」


バルガスはアレイヤの事を知っているようで、冷や汗をかき、徐々に勢いを失っていく。


「クソッ!い、今は諦めてやる!よく考えておくんだな!」


そう言ってバルガスは去っていった。


「何なのアレ」

「勧誘しているつもりだった様ですよ」

「ふ〜ん」


そう言いつつアレイヤはクレイに頬ずりを始めた。


「またですか?」

「何だか病みつきになっちゃって、ん〜この感触!」


流石にもう慣れてしまった。

まだちょっとドキドキするけど。


「依頼が終わったのなら、お姉さんと食事でもどう?私のオゴリで」

「自分の食事代は自分で払います」

「よし、決まりね!」


※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※


「クソッ!クソッ!クソッ!」

「ちょっと落ち着きましょう?」

「何か良い方法があるはずよ」

「まだ何か手はあるはずだ」


リリタ達がバルガスをなだめるが、それでもバルガスの焦りや苛立ちはなかなか消えない。


もし加入を渋るようなら、力ずくで加入させるつもりだった。

いくら冒険者として着実に実績を挙げているといっても、所詮は「最弱判定」、2等級冒険者の前では無力だ。

後は弱みを握り、弱みが無いなら作り、逆らったり逃げられない様にする。


だがまさか()()アレイヤと知り合いだったとは。

もしも彼女に密告(タレコミ)でもされたら、どうなるか分かったものではない。


だがこの程度では諦めない、俺達は1等級冒険者になるんだ。

その為に何としても小娘(クレイ)を手に入れる。

そう、どんな手を使っても。

本当は「影が薄過ぎる」という理由で『紅の爪』のルタールをなんやかんや理由付けて殺す話を挟む予定でした。

ルタール、(いまのところ)生存。

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