クレイと『紅の爪』
クレイと『紅の爪』が本格的に接点を持ち始める回です。
『紅の爪』の面々は焦っていた。
クルトを捨てて以降、依頼の成功率がガクッと下がり、ギルド内での評価が落ちに落ちている。
更に「2等級にもなってラセンリンゴを生で食べる素人」と一部で囁かれる始末だ。
流石の彼らも「自分達には案内役が必要」と認識を改めた。
ーーが、『紅の爪』へ加入する案内役が見つからない。
案内役はどこかのパーティーに所属しているのが基本だ。
既に座る席が存在している以上、わざわざ他のパーティーに移る必要が無い。
上位に居ながらフリーの案内役などそうそう居るものではないのだ。
駆け出しならフリーの案内役が居るだろう。
だがそれでは2等級の依頼に参加するのは無理がある。
自分達が知識と技術を身に着けたり、未熟な案内役に合わせた依頼を受けて成長を見守るような余裕は『紅の爪』には無い。
そんな事をしていれば2等級には居られない。
結局、解決策を思い付く事ができず、せめて現状維持の為に依頼をこなす事にしたが……。
「この依頼を受けられないってどういう事だ!」
「バルガスさん、『紅の爪』の評価が改められまして、改善が見られない限り、この依頼を任せる訳にはいかないのです」
受付嬢から『紅の爪』の実力がギルド内で疑問視されている事を告げられた。
降格の最終通告と言ってもいい。
まずい、早急に『紅の爪』に相応しい案内役を見つけなければ。
受付で焦るバルガスの視界に褐色の肌をした銀髪の少女が映った。
どうやら採取依頼の報告に来たようだ。
噂は聞いている。
ギルド始まって以来の最弱判定の冒険者。
しかし、その判定をものともせずに採取依頼だけではあるが、上位の案内役の様な土地勘で次々に依頼を達成させ、着々と評価を上げてきている。
それに加え、隠れファンが居るという話も信じられる程の容姿をしている。
まだまだ新米ではあるものの、将来有望な冒険者ーー良いじゃないか、『紅の爪』に相応しい。
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何やら見覚えのある冒険者が受付嬢とモメている。
わめき声を聞く限り、どうやら『紅の爪』の評価が下がり、望み通りの依頼が受けられなくなったらしい。
もう自分には関係無い、とりあえず無視だ。
「ニナさん、依頼の品です」
「流石クレイちゃん、早いですね!数の確認をしますから、待っていて下さいね」
ニナが袋の中身を確認し始めたとき、隣から声をかけられた。
「よぉ、精が出るじゃねぇか」
バルガスだ。
バルガスは納品袋を押し退けて受付へ寄りかかった。
落ちそうになった袋をニナが慌てて支える。
随分と失礼な男になったな。
ーーいや、前からそうだったかもしれない。
「俺は『紅の爪』のリーダーやってるバルガスだ」
存じております。
ずいっとバルガスが寄ってくる。
寄った分だけ、下がる。
「……まぁ、そう警戒すんなって、イイ話があるんだ、俺のパーティーに入れよ」
「……」
「以前クルトって案内役が居たんだがな、罠に掛かって死んじまいやかってよ、全く使えない奴だった」
その「使えない案内役」と言われた人が目の前に居るのだが。
「どうだ?優しくするぜ?」
「お断りします」
死人に口無しとばかりに言いたい放題言われた上に、自分を殺そうとした『紅の爪』に加入する?
冗談ではない。
「ボクはまだどこかのパーティーに所属する気はありません」
「駆け出しが俺の誘いを断るってのか」
「バルガスさん、今は依頼報告の処理中ですので」
「あ゛あ゛?」
バルガスがニナを黙らせようと大きな態度に出ている。
他の冒険者の依頼報告を妨害し、受付嬢への威嚇。
もうこれ一発殴っても許されるのではなかろうか。
「なーにやってんの?」
最近やたら聞き慣れた声と共に、後ろから抱きつかれた。
「テメェ、俺の会話を邪魔すん……あ、アレイヤ……!」
「何この人」
「『紅の爪』のリーダー、バルガスだそうです」
「へぇそう」
心底興味が無いといった感じだ。
「まだ用あるの?私クレイちゃんに用事あるんだけど」
バルガスはアレイヤの事を知っているようで、冷や汗をかき、徐々に勢いを失っていく。
「クソッ!い、今は諦めてやる!よく考えておくんだな!」
そう言ってバルガスは去っていった。
「何なのアレ」
「勧誘しているつもりだった様ですよ」
「ふ〜ん」
そう言いつつアレイヤはクレイに頬ずりを始めた。
「またですか?」
「何だか病みつきになっちゃって、ん〜この感触!」
流石にもう慣れてしまった。
まだちょっとドキドキするけど。
「依頼が終わったのなら、お姉さんと食事でもどう?私のオゴリで」
「自分の食事代は自分で払います」
「よし、決まりね!」
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「クソッ!クソッ!クソッ!」
「ちょっと落ち着きましょう?」
「何か良い方法があるはずよ」
「まだ何か手はあるはずだ」
リリタ達がバルガスをなだめるが、それでもバルガスの焦りや苛立ちはなかなか消えない。
もし加入を渋るようなら、力ずくで加入させるつもりだった。
いくら冒険者として着実に実績を挙げているといっても、所詮は「最弱判定」、2等級冒険者の前では無力だ。
後は弱みを握り、弱みが無いなら作り、逆らったり逃げられない様にする。
だがまさかあのアレイヤと知り合いだったとは。
もしも彼女に密告でもされたら、どうなるか分かったものではない。
だがこの程度では諦めない、俺達は1等級冒険者になるんだ。
その為に何としても小娘を手に入れる。
そう、どんな手を使っても。
本当は「影が薄過ぎる」という理由で『紅の爪』のルタールをなんやかんや理由付けて殺す話を挟む予定でした。
ルタール、(いまのところ)生存。




