貴族の子ルニスと緊急事態②
クレイがルニスの事を「ルニスさん」と呼ぶか「ルニス君」と呼ぶかで悩みましたが、「ルニス君」と呼ぶ事にしました。
前回一度だけ「ルニスさん」と呼ぶトコロがあったので「ルニス君」に修整しました。
「うおッ何だ!?」
「速ぇ!何だありゃあ?」
「えッ!?人!?子供!?」
ワッカ平原へ向けて街を駆ける。
周囲が騒がしいが今は緊急事態だ、とりあえず無視することにした。
ワッカ平原は街のすぐ南だ。
子供の足でも問題無くたどり着く事ができる。
最初にギルド内でルニスを探し回っていた分出遅れている。
恐らくワッカ平原へ向かう前にルニスを見つけ出す事はできないかもしれない。
「急がないと……!」
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ワッカ平原に着いたが、ルニスは見当たらない。
生きているゴブリンが居る様子も無い。
「荒れてるな……」
ニナが言っていたゴブリン討伐の跡だろう。
この依頼を受けた街の兵士や冒険者達は随分と派手にやったようだ。
「これじゃあルニス君の痕跡を探すのは無理かな……あれは……?」
景色に違和感……地面が少し盛り上がっている。
ワッカ平原は元案内役として良く知っている、あそこは盛り上がった地形ではなかったはずだ。
盛り上がった場所を調べると、盛り上がりあがった地面の横に小さな穴とその横に上着が落ちていた。
綺麗に畳まれた上品な上着だ……落ちている、というよりは置いて行ったと言った方が正しいだろう。
この服には見覚えがある……ルニスだ。
「この穴の中に?」
この穴は伏せれば潜り込めそうだ、恐らく上着を汚さないように脱いだのだろう。
穴をのぞき込むと、大人が立って歩ける程の通路になってる。
壁のいたる所に光る鉱石が露出していた。
この鉱石はダンジョンでしか光らない不思議な石だ。
つまり、この穴は――
「ダンジョン!?こんな入口の出現の仕方をするのか!?」
恐らく地面からダンジョンの入り口がせり上がってきたが、途中で止まったのだろう。
だとしたら予想以上にマズい、ルニスがダンジョンに入ったとなればゴブリンどころの騒ぎではなくなるかもしれない。
「モンスターとは戦うなって言われたど、ダンジョンに入ったなんて……ニナさんには話せないかな……」
伏せて穴へ潜り込む。
「ルニス君、無事でいてね……」
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ダンジョンの中を進んでいくが、ルニスもモンスターも見当たらない。
平原で大量発生したゴブリンはここのダンジョンのモンスターだったのだろう。
「階層に居るモンスターが丸々外に出るなんて……」
有り得ない。
このダンジョンは何かが起きている。
「こ、来い!フレズガルド家の者としてお前なんかに……!」
ルニスだ。
声のした先へ向かうと、開けた空間でルニスがオークと対峙していた。
「2階層でオーク!?」
通常オークはもっと下の階層に出現するモンスターだ。
少なくとも、ゴブリンの居る階層のすぐ下に居るモンスターではない。
ルニスの元へ駆け寄り、オークの間に割って入る。
「ルニス君!」
「君は……ギルドに居た子供!」
「クレイです、それとボクの方が年上です」
「何をしに来た!」
「貴方を連れ戻しに来ました、心配する人が居るんです」
「僕は強くないと……強くならないと……!」
次の瞬間、後方、クレイ達が来た方向からから細長い影が地面から飛び出した。
「ッ!危ない!」
ルニスを突き飛ばし、クレイも回避する。
が、少し遅れてしまい、細長い影がクレイの右手に触れた。
――吸い付いて離れない。
「うわッ!」
影がクレイを上へと引き上げる。
更に地面から同じような細長いものが次々と地面から飛び出し、クレイの四肢にズルリズルリと巻き付いていく。
「何コレ!?……触手!?」
地面が大きく盛り上がり、触手の本体が現れた。
オークよりもはるかに大きい。
「クレイ!」
ルニスは触手に捕らわれてはいないようだ。
「ルニス君!離れて!大丈夫だから!」
「でも!」
「離れて!」
「あ、足に力が……」
腰が抜けてしまったらしい。
「……ッ、どうにかコレを振り払わないと!」
次回は触手君が少しだけ頑張ります。
少しだけ。




