束の間の安息
それから三日後の夜。
如月は前田邸へと案内されていた。
かなり緊張していたが、優や凛といった嫁たちは気を使ってくれたおかげで、次第に打ち解けていった。
あらかじめに決めていた通り、二人だけで風呂に入る。
彼女と混浴するのはこれで二回目だ。
ただ、前回よりかなり痩せているように見えた。
それでも十代特有の透き通るような綺麗な肌、形の良い綺麗な胸は十分魅力的に俺の目に映った。
彼女は献身的に俺の背中を洗ってくれた。
一夜限りの夫となってくれる相手に、そのように接するように故郷で指導されてきたのだ。
しかし、彼女は義務感だけではなく、本当に心から望んでそのようにしてくれているようだった。
風呂から上がり俺は浴衣を、彼女は襦袢を纏って2人だけで離れの特別な部屋に入る。
布団が敷かれており、枕が2つ並べて置かれている。
彼女は笑顔を見せ、躊躇なく襦袢を脱ぎ、そのまま床に入った。
俺は苦笑しながら自分も裸になって彼女の隣に入った。
そして彼女と肩が触れ合せて、そこで初めて彼女が震えていることに気づいた。
さらに、小さな LEDライトが灯されているだけで薄暗いが、彼女が涙を流していることを悟った。
彼女は怯えているのだ。これから行われる行為に、というよりは、フラッシュバックした過去の心の傷に。
その様子に、俺はこの夜は何もしないことを告げた。
彼女は一瞬目を見開いたが、それが自分のせいであることに気づいた。
如月はまた涙を流して俺に抱きついてきた。
頼られている、と俺は思った。それだけで十分満足に思えた。
けれど、彼女の方はそうではなく、申し訳ないと何度も俺に謝ってきた。
ここで俺は今日だけではなく、何日かかっても如月と一つになりたいということを告げた。
その提案にまたも目を見開いて驚いていた彼女だが、それで安心したのか、俺に抱きついたまま眠ってしまった。
相当気を張っていたのだろう。今まであまり眠れていなかったのかもしれない。
安心したように、すやすやと寝息を立てる彼女に俺は見入ってしまった。
二日目も、まだ怯えは消えていないようで、俺は如月の心の傷を少しでも癒そうと、くだらない雑談や阿東藩、そして仙界や妹のことなどを話した。
心が読める彼女は、俺が気を使ってそうしていることに気づいていただろう。そして俺が彼女に謝罪の言葉なんか求めていないことも。
結局、彼女と一つになるまでに、三日かかってしまった。
この日流した涙は、やっと務めを果たすことができたという安堵、そしてずっと前から憧れていた俺と一つになることができたという喜びの涙だと彼女は語った。
そしてこの夜は、お互い全裸で抱き合ったまま心地よい眠りについたのだった。
翌朝、如月は奥宇奈谷へ帰ることを、俺の嫁たちに告げた。
前日までの不安そうな、申し訳なさそうな彼女の表情から一転していたことに、前夜行為が無事行われたことを皆悟ったようだった。
複雑な心境だったはずなのだが、皆、おめでとうと彼女を祝福した。
泣き虫な彼女はまたも涙を流しながら、そして少し赤くなりながら皆にお礼を言っていた。
「それで拓也さん、皐月ちゃんのことはどうするおつもりですか?」
凛のその一言に全員の注目が俺に集まる。
しかし、如月の妹の皐月はまだ10代前半だ。さすがに早すぎる。
答えに窮する俺を見て、みんなから苦笑が漏れた。
「心に傷を負っているのは皐月も同じです。もし拓也さんが構わないなら、皐月の初めての相手になってもらえたら嬉しいです」
それも如月の本音だろう。
他の嫁たちからも異論は出ない。しかし、それは数年後の話だ。
ただ、その約束を取り付けることで、皐月も心の傷が少しでも癒えるのなら、それはそれで構わないのだろう、とも思った。
さらに三日が過ぎた。
如月と皐月は、仲良くなった女子寮の仲間たちに別れが近いことを告げ、故郷へ帰る準備ができていた。
途中までは優と共に時空間移動することができる。
とはいえ、その瞬間をあまり人に見せるものではない。
俺と優、そして如月、皐月の四人で女子寮を旅立つことにした。
みな笑顔で見送ってくれるし、また来てね、という人も、彼女たちの故郷をいつか訪れるという人もいた。
そして一度、前田邸に戻り、姉妹一人ずつ時空間移動を発動。
着いた先は川上村。
彼女たちのいとこ、弥生の住み込む宿があった場所だ。
盗賊達の襲撃に会い半壊滅状態だが、やがて復興を遂げることだろう。
弥生はこの宿を営んでいた夫婦とともに別の場所に住んでいる。
彼女との再会は果たせなかったが、その代わり姉妹の兄、睦月とその仲間が迎えに来ていた。
彼には俺と如月が一夜の契りをかわしたことは報告済みだった。
この時彼はただ一言、世話になったとだけ俺に告げていた。
彼もまた複雑な思いだったかもしれないが、兄として俺に頼んだことでもあった。
そして俺の役目はここまでだった。彼女の故郷までの護衛は睦月達が務める。
今度こそ、俺と如月のしばしの別れだった。
最後に挨拶を交わそうとしたとき、如月は軽く自分のお腹をさすった。
その仕草に思わずドキッとしてしまう。
いくら何でも、この期間で妊娠などしてるかどうかわかるわけはない。
また、ただ一夜だけの関係でそうなる確率は低いだろう。
それでもありえない話ではない。
如月がいたずらっぽく笑うのを見て、少しからかわれたのだと気づく。
だが、それもすぐ真剣な表情になった。
「拓也さん、もし私が身籠っていたならば、私、いえ、村のみんなで大切に育てますね。奥宇奈谷を救った、仙人様の子供なんですから」
俺はそんな大げたなもんじゃないと否定しようとしたが、彼女の強い眼差しに、ただ頷いた。
「私との約束も忘れないでね」
妹である皐月の眼差しも真剣だ。
俺もそれに笑顔で答えた。
こうして幻の桃源郷を巡る一連の旅と戦いは終わった。
俺と優は、頷きあって、時空間移動装置「ラプター」を起動させた。
阿東藩の我が家にて、束の間の安息を謳歌するために――。
※様々な事情があり、「幻の桃源郷」の章だけで四年半以上もかかってしまいましたが、ようやく完結させることができました。
※「身売りっ娘」自体もまた一旦完結となりますが、また拓也は厄介ごとに巻き込まれるかも知れません。そのときは、また続きを書いていくことができれば、と考えています。気長にお待ちいただけましたら幸いです。
※思えば2013年から10年以上にわたって、途中で休載を挟みながら連載を続け、書籍化まで果たせた本作は私にとってかけがえのない作品となりました。応援していただいた全ての方々に感謝致します。ありがとうございましたm(_ _)m。





