仙人の仕掛け
「やはりな……最初っからまともにやり合う覚悟みたいなものが見えなかったし、妙に芝居臭くあっさりと引いたから、なにかあるんじゃないかと思っていたが……こんな小細工をしていたか……」
盗賊団の若き首領・シナドは、そう言うと手下の小男を呼び寄せた。
さらに後ろの者が持っていたイノシシの毛皮を使って、小道のマキビシを払い除けろ、と指示。その通りに小男が実行すると、マキビシは簡単に小道から脇へと払われてしまった。
もちろん、それをさせまいと奥宇奈谷の村人が立ち向かおうとするのだが、シナドに剣を向けられ、睨まれただけでそれ以上進めなかった。
「ひ、引けっ!」
再度、奥宇奈谷側の先頭の若者が号令を掛けると、皆一斉に退却を始めた。
マキビシがなくなり、進めるようにはなった山賊達だったが、七、八人が足の裏を痛めて走れない状態だ。
また、まだ除き切れていないマキビシや、他にも何か仕掛けがあるのではないかと疑う者もいて、追う勢いはかなりそがれていた。
それでも、奥宇奈谷には美女が揃っているという噂を耳にしていた山賊達の何人かは、その欲望の方が勝り、全力で追い始めた。
しかし、それも小道に藁が点在するように敷かれ、水が蒔かれている奇妙な地点まで来ると、そこを進むことは躊躇した。
両脇は急な斜面で、片方は下り、足を踏み外せば数十メートル転げ落ちる。反対側は登りで、両手を使わなければ上がれないぐらいだ。
小道の部分だけ、人が二人ほど並んで歩ける幅があり、それが三十メートルほど続いている。
マキビシも、少しだけ蒔かれているようだが、注意して進めば踏むことはなさそうだ。
しかし、そのマキビシ以外にも、藁の間に細い金属の糸が幾重にも絡まっているのが見て取れた。
先陣に続いてシナドたちが追いついたが、その奇妙な地点に違和感を覚える。
しかし、ここを超えなければ奥宇奈谷の村にはたどり着けない。
念のため、シナドが手下の一人に、そこを通り抜けてみろ、と指示を出す。
若干気弱そうなその男は、ややビクビクしながら、マキビシを避けて、その藁の上を進んでいき、特に何事もなく反対側にたどり着いた。
それに気を良くしたのか、順々に、十人ほどが敷かれた藁の上を進んでいったが、突然叫び声を上げて、その場所で跳ね、飛び上がり、そして転げ回った。
体を仰け反らせ、硬直させる者もいた。
大声を上げながら元の場所に戻ってきた男は、
「急に、槍で刺されたみてえな痛みが走った! 俺の足、どうにかなっちまったんじゃねえか!?」
と、息も絶え絶えに言葉を漏らした。
しかし、見たところそれほど大きな外傷はない。ただ、少し赤く腫れているだけだった。
後の者達も、気を失っている二人を除き、その場所を渡りきるか、帰ってきていたが、とてもそれ以上動けるような状態ではなかった。
彼等の言動が理解できないシナドは、自分も片足を藁の敷かれたその場所に置いてみた。
刹那、切り裂かれたような痛みを覚え、すぐに足を引き抜いた。
一瞬ぐらつき、その足下を確認したが、大きなケガは負っていない。
痛みだけを与える未知の仕掛け……仙術であることは明らかだった。
前田拓也が持ち込んだ防衛用の仕掛け……大容量のバッテリーと遠隔操作できる高電圧発生装置、細いワイヤー、そして藁と水を組み合わせた、いわば大型スタンガンの仕組みで、殺傷能力は高くないものの、相手の戦意を喪失させるにはうってつけの仕掛けだった。
さらに、山賊達が攻めあぐねて敷き藁の手前で留まっていたところに、登り斜面の上方から、突然無数の、人間の頭ほどもある丸い岩が転がり落ちてきた。
「うわあああぁ!」
「ひいいいぃ!」
山賊達の絶叫がこだまする。
彼等は、人気がないと油断していた。
しかしこのような場合に備え、前田拓也により、あらかじめ遠隔操作で発動する仕掛けが用意されていたのだ。





