決戦開始!
隧道の門番2人を倒し、山賊団「山黒爺」の仲間を招き入れた首領のシナドは、武器を持たぬまま1人で奥宇奈谷への道を走り抜けた。
そしてすぐに、もう一つの関門である吊り橋へとたどり着いた。
そこでは、やはり吊り橋の手前と奥に一人ずつ、槍を構えた見張りがいた。
シナドは、隧道の時と同じく、野犬に襲われて必死に逃げてきたこと、そこを隧道の門番に助けられ、通してもらったことを告げた。
しかし、手前側の門番は、
「それはおかしな話だ。ここは、村の外の者は、許可証を持たないのならば通すことはできない。だから、そのような非常時には隧道の門番が一人は付き添ってここまで来る取り決めになっているのだ」
と説明し、頑なに吊り橋の通行を拒んだ。
奥宇奈谷の用心深さが生かされた形だった。シナドは商人のふりをして、隧道の門番の一人に案内してもらうこともできたが、そうすると仲間を引き入れることができなかったのだ。
埒があかないと考えたシナドは、門番を投げ飛ばし、腹に強烈な付きを放って気絶させ、そして飛ぶように吊り橋を渡り始めた。
その様子を見ていた村側の門番は、慌ててピィー、と仲間を呼ぶために呼子を吹いた。
シナドは舌打ちし、一気に門番に詰め寄り、槍を構え直す暇も与えぬまま殴り飛ばし、そしてやはり鳩尾に正拳突きを放った。
苦悶の表情で崩れ落ちる門番。
しかし、門番が吹いた呼子により、潜入がバレてしまったのは明らかだった。
「……まあいい。元より戦に来たのだ……野郎ども、気合いを入れろ! この村を落としたら、女どもはてめえ等の好きにして構わねえ。蓄えられてるお宝も盗り放題だ!」
その言葉に、後から続いて、こっそり様子を見守っていた十数の手下達は沸き上がり、歓声をあげて吊り橋を渡り始めた。
さらに、後発隊の三十人以上が、次々と後から続いて侵入していた。
村内では、呼子の音を聞いた男達が、一斉に起き上がり、武具を装着し始めた。
数百年に渡り平穏を保っていた奥宇奈谷の住人達だが、平家の落ち武者の末裔と言うこともあり、常に戦の準備を整えていたのだ。
とはいえ、奥宇奈谷の主力の猛者達は、山黒爺の罠にはまり、偽の山賊団拠点襲撃にかり出されていた。
残った戦力は、多くはない。
全て、首領であるシナドの計算通りだった。
嫌な予感を抱えて待機していた、奥宇奈谷の狩人集のリーダー、ハグレ(本名・睦月)は、それが当たってしまったことに舌打ちした。
しかし、ある程度予想していたことであり、そのために自分はこの村に留まっていたのだ。
表向きは、シナド達との最初の対決時、負傷した足が完治していないから、という理由で奥宇奈谷に留まっていた。
しかし実際は、彼の右腕であるクロウの、本心であろう、読み取った心の声……
『足の状態など関係なく、お前はこの奥宇奈谷に残れ』
それを知って、なにかあると踏んでいたのだ。
そして今、この早朝に何者か……おそらくは、盗賊団「山黒爺」の侵入が現実のものとなった。やはり、クロウは、何かしら事情を抱えていたかもしれないが、信じるに値する男だったのだ。
とはいえ、現状厳しいものがある。
呼子の音はすぐに聞こえなくなった……それは多分、危機が遠のいたのではなく、より深刻になったことを意味する。
どれだけの数の人間が侵入したかは分からないが、残っている奥宇奈谷の戦える人間の数は、多くない。
それでも、地の利はこちらにある。
奥宇奈谷は、自分の手で守り抜く……己の命に代えても。
正直、まだ負傷した足の状態は万全ではない。
それでも、これまで鍛錬してきた己が肉体は、戦いになりさえすれば動いてくれるはずだ。
睦月は誰よりも早く装備を調え、実家である長老の屋敷を飛び出していったのだった。





