拓也の回想 その21 ~ 投網 ~
奥宇奈谷の狩人集、剣士、松丸藩士を加えた山賊団討伐隊約三十人は、奴らが潜む廃村の側まで来て、立ち往生していた。
上空に雲がかかり、月も星も出ていない……この状態では、暗すぎてなかなか奴らのねぐらまで進めない。
一応、俺が現代から暗視ゴーグルを数台持ち込んでいたが、それでは数が足りない。
小隊の隊長数人のみに渡しているが、それは状況を隊員に伝えるためのものだし、白兵戦となったときにそれを付けたままで戦うのは不安が残る。
村の側までは、LED製のぼんやりと小さな明かりを灯して近づけたものの、それ以上の接近は気づかれることを防ぐためにも避けたい。
どんな罠を仕掛けているかわからない村の中に入るには大きな不安となっていた。
様子を見ること、約半刻 (約一時間)。
わずかにだが雲が薄くなり、ぼんやりと月光が透けて見えるぐらいになってきた。
これぐらいあれば、LEDの明かりがなくとも、目の良いこの時代の者ならば行動することができる。
俺は、事前に設置していたある仕掛けを起動させた。
ブオオオン、というホラ貝を吹くような音色を大音響で響かせ、ついで大勢の男達の、「うおおおおぉぅ」という突撃するときのかけ声を連続で再生させた。
それらは某国営放送の大河ドラマから戦国時代合戦シーンの音声を拝借したのだが、大容量バッテリーと高品質のスピーカーにより迫力の重低音で再現させることに成功した。
流石にこれには驚いたのだろう、廃村内のいくつかの家屋から、数人が飛び出してくる様子が見えた。
それを観察しているのは、上空に待機させていた多目的汎用型スーパードローン「オーエドオスプレイ・アルファプラス」だ。
このセンスのない名付け親はもちろん帝都大学准教授の叔父なのだが、性能は一級品だ。
赤外線カメラのクリアな映像により、この暗さでもはっきりと人のいる位置が見て取れる。
三人ほどが固まって、周囲を警戒しているのが見える。
その直上にドローンを移動させ、仕掛けられたギミックを発動させる。
ポンッ! という音と共に、細い金属製ワイヤーで作成された投網が放出され、空中で半径十メートルほどにまで広がり、哀れな盗賊達の上に降り注いだ。
「うわあ、なんだっ……うぐっ!」
「ぐぎゃ!」
「ひいぃ!」
短い悲鳴が三つ響いた。
投網の周囲に取り付けられた数個のLEDは、通電中を示す赤色に光っている。
数秒後、捕らわれた男達が完全に戦意を喪失したであろう頃合いを見計らって、百万ボルトに及ぶ高圧電流は解除され、LEDは安全を示す緑色に変化した。
悲鳴を聞きつけた数人が、その方向に駆け寄る。
そして緑色に不気味に光る物体、うめき、苦しんでいる仲間達を見て戦慄する。
その彼らにも、魔の網が降り注ぐ。
「ぎゃっ!」
「ふばっ!」
「がはっ!」
「ごふっ!」
「うばっ!」
またしても短い悲鳴が響く。
不運にも、先ほどの分と二重に網が覆い被さった箇所にいた者は、二度目の通電を喰らった。
逆に運良く難を逃れた者達は、それがおぞましき妖術によるものだと認識する。
「ひっ……ひいいぃ、妖術だっ!」
「これは、例の阿東藩の仙人かっ!?」
投網には小型のマイクもセットされていて、周囲の音を拾う。
まだ二セット使っただけなのに、既に山賊団達はパニック状態だ。
「そうだ……おまえ達は全員、捕える。おとなしく武器を捨てろ!」
マイクと同じく投網にセットされている小型のスピーカーから、俺の声を発生させる。
当然、思いっきり不気味にボイスチェンジさせられるシロモノだ。
「うっ……うわああぁ!」
元々大した腕もない山賊団、情けない声を出して逃げ惑う。
こちらとしては、固まって集団で移動してくれた方がありがたかったのだが、三つぐらいのグループに別れて逃走してしまった。
取り急ぎ、狩人集に無線で連絡を取り、身動きできていなくなっている山賊の捕獲に向かってもらう。
そこにもう元気な敵はいないことが分かっているので、緑の光が見える場所に行って、網に絡まっている男を捕縛して下さい、と伝えた。
この、声だけ遠くの仲間に伝える無線技術も、彼らからすればものすごく不思議な道具に思えただろうが、俺がいろいろ現代の便利な道具を見せていたので、もう大して驚かなくなってしまっていた。
そして彼らが装備している武器は、短刀と、昔ながらの「さすまた」だ。
そのさすまた、金属の突起がいくつも出ている。べつにこれは、殴りつけたときのダメージを大きくする、というために存在しているのではなく、単純に、犯人を押さえつけた後に、その部分を掴まれ、暴れられるのを防ぐためだ。
こうして、あっけなく五、六人の盗賊は捕えられた。
しかし、まだまだ山賊は多数いるはず。
俺は気を引き締めたのだった。





