拓也の回想 その17 ~いっそのこと~
奥宇奈谷村、長老の屋敷の客間。時刻は昼前。
俺と睦月は、二人だけで話している。
「如月と皐月、か……俺が川上村をもっと早く訪れていれば……」
俺は今でもそのことを悔やんでいた。
「いや、それを言うなら俺の方だ。護衛として付いていたはずなのに、実の妹といとこの三人を守れなかったわけだからな……だが、過ぎたことを言っても仕方がない。これからどうするか、だ。一番ひどい目に遭ったのはいとこの弥生だが、あの性格だし、仕事柄、男って言うのがどういう生き物なのか十分分かっていた。そういう道を選んだのもあいつだ。一人で立ち直ることができるだろうし、その期間も早いだろう。問題は如月と皐月だ……まだ男を知らない二人が、その男どもに弥生が乱暴される様子を見てしまったんだ……あれほど男を恐れるようになるのも無理はない」
睦月が唇を噛む。
それに対して、俺はかける言葉すら見つからない。
「……拓也殿……俺は最初、あんたのことが嫌いだった」
唐突に睦月がそんなことを言い出したので、ちょっと驚いた。
「阿東藩の仙人と噂されるあんたは、その前評判通り、崖崩れをものともせず奥宇奈谷にたどり着いた。そして仙術を用い、奥宇奈谷に簡単に行き来できるよう、隧道を完成させた。そのことには素直に驚いたし、凄いと思う。感謝もしている。しかし、だ……村のしきたりとはいえ、如月と皐月の、一夜限りの夫となる権利を得た……そこがどうしても嫌だった」
……なるほど、それはそうだろう、睦月にとっては可愛い妹たちだ。見ず知らずの男にそういうことをされるのは納得できないに違いない。俺にも妹がいるからよく分かる。
「……しかし、あんたは『自分には嫁がいるから』と、二人に手を出すことはなかった。危険を冒してこの村に来る者の多くが、それが目的だったにも関わらず、あんたは最初っからこの村を助けることしか考えていなかった……逆に、女に全く興味がないのか、とも考えた。けれど、阿東藩に行ったとき、美女ばっかり6人も嫁にしていることを知り、そうでもないとわかった」
「ははっ……たしかにそれだけ見ると女好きに思われてもしかたないな……」
俺は苦笑いを浮かべた。
「……つまりあんたは、いい加減な気持ちで女を抱くのが嫌なんだ。そうだろう?」
……なんか、睦月は、俺以上に俺のことを理解しているような気がしてきた。
「……ああ、そうなのかもしれない。さすが、人の心を見通せるだけのことはあるな……」
「やっぱり、そういうくそ真面目な奴なんだな……俺もなんとなくそういう雰囲気は察していたから、あんたのことを嫌いだと思う気持ちは消えていた。如月、皐月も手を出されることはなさそうだ、と……けど、今考えると、手を出されていた方が良かったのかもしれない」
「……どういうことだ?」
「おそらく、あんたはあの二人になら、優しく接していたことだろう……そうすれば、あの乱暴していた盗賊達が非道なだけであって、すべての男達がそういう訳じゃないと分かったはずだ」
「……」
俺はただ、心が痛むのを感じた。
俺が手を出していればどうだったか、はともかく、その二人が極度の男性恐怖症になっていることは確かだ。
睦月が言うとおり、俺に限らず優しい男と経験していれば、そうはならなかったかもしれない。
「……今、あんたの仙術で阿東藩に預けているあの二人……この状況だ、当分帰ってくることはできないだろうし、帰ってきたとしても、村のしきたりに従って、旅をしてきた男に一夜だけ身を差し出す、なんてことはできないだろう」
「……たしかに、それは無理だろうな……」
「まあ、俺からしたらそれでもいいと思っていたが、いつまでもそのままでは、あの二人には誰も婿入りしてくれないだろうし、村を抜け出したとしても、嫁になることもできないだろう」
「……いや、時間が経って、男嫌いが和らげば……」
「そんなもの、いつになるか分からない……そこで考えたんだが……いっそ、あの二人を、あんたの嫁にしてくれないか?」
「……へっ?」
思いもよらない睦月の言葉に、つい間の抜けた声を上げてしまった。





