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身売りっ娘 俺がまとめて面倒見ますっ!  作者: エール
第18章 幻の桃源郷

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拓也の回想 その11 ~開戦宣言!~

 如月と皐月の二人は、この日、前田邸の客間に泊まった。

 嫁たちは、


「このまましばらくここで寝泊まりしても構わない」


 と言ったのだが、二人とも、


「町でなにかお手伝いすることがあれば、ぜひさせてください!」


 と懇願してきたので、当初の予定通り、しばらく女子寮で住み、俺の直営店の仕事をしてもらうことになった。


 早朝から全員で二時間ほど歩き、町へ。

 女子寮のメンバーも、一度会ったことのある二人なので、問題なく受け入れてくれた。


 山賊団「山黒爺」もここまでは来れない。

 とりあえず、二人の身は安全なので、混乱する川上村まで、今度は俺だけが時空間移動した。


 狩人衆が集まる寺へ行くと、真っ先に睦月が駆け寄ってきた。


「拓也殿、二人の様子はどうだった?」


「ああ、二人とも大丈夫だ。俺の店の仕事を手伝ってくれるっていうことだし、しばらく預けていても問題ないだろう」


「そうか……恩に着る。これで一つ心配事が減ったが……こっちではもっとやっかいなことになった。昨日の晩、また別の村が山黒爺に襲われた」


「……また?」


「ああ。しかも今度は、まだ八つにも満たない女の子が攫われたらしい」


 ズクン、と鼓動が高まり、そして怒りがこみ上げてきた。


「……やはりな……あんたは、女、子供といった立場の弱い者が被害にからむと、逆上するようだな……」


「……その村は近いのか?」


 俺は睦月の言葉に対しては肯定も否定もせず、ただ冷静に現状を確認した……つもりだった。


「落ち着け、一人で向かおうとするならそれは無茶だ。それにどのみち、奴らはもうその村にはいない。突然襲来し、奪い取り、去って行く。その手口を知っているだろう?」


 血気盛んなはずの睦月に、逆に落ち着くようなだめられ、自分自身が冷静でないことに気づいて、一つ大きく深呼吸した。

 狩人衆拠点となっているこの寺に俺が現れたこと、そしてめずらしく怒っている様子であることに、他の男たちも集まってきた。


「……山黒爺、特にシナドの一派は、今、どういうわけか調子に乗っている。はっきり言ってやりたい放題だ。俺たちだって腹を立てている。けれど、本来、俺たちからすればその村も……もっと言えばこの川上村だって、『よその事』だ。奥宇奈谷に住む俺たちからすれば、関係ないことだ。だからもし、あんたがその女の子を助けに行くっていうなら、それは協力できない」


 睦月の、冷たく突き放すような言葉に、若干の怒りと失望を覚えたが、言っていることは正論だ。彼らに、奥宇奈谷以外の事に首を突っ込む義務も義理もない。


「……わかった。だったら、俺一人でその女の子を助けに行く」


「まあ、待て。話を最後まで聞け……女の子を助ける、っていうのには手を貸せないが、『山黒爺を倒す』っていうならば、俺たちは協力するぜ。奴らの拠点も、幾つか心当たりがあるしな」


 睦月が、不敵な笑みを浮かべながらそう話した。

 彼の右腕のクロウも、周りの男たちも似たような表情だ。


「山賊団を……倒す?」


「ああ、そうだ。阿東藩では、海賊団をたった一人で滅ぼしたんだろう?」


「いや、それはかなり大げさだ。仲間がいた。本当の意味で海賊団を倒したというのならば、その仲間たちの活躍のおかげだ。俺はただ、仙界の技を使って、きっかけを作っただけにすぎない」


「……それで十分だ。その仙界の技、とやらが欲しい。仲間というならば、俺たちが仲間だ」


 睦月はそう言って、後ろを振り向く。

 五人の狩人衆が、笑みを浮かべて力強く頷いた。


「……いや、けれど、本気で山賊団を潰すつもりなら、もっと人数が必要だ。奴ら、全部で三百人もいるんだろう?」


 真顔で俺がそう話すと、一斉に笑いが漏れた。


「三百、はちょっと大げさだ。山黒爺全部合わせても、せいぜい百ってところだ。まあ、尾ひれが付くのは仕方ねえが……それに、とりあえずの的は、最近暴れまわっているシナドの一派だ。これだけなら、三十ってところだ」


「三十、か……それでも、こっちは俺と睦月……つまりハグレを合わせて七人だけで、しかも攻め込んでいくっていうのは数が足りない。藩士様たちが協力してくれればいいんだが……」


 と、この会話を少し離れたところでこっそり聞いていた藩士に目を向けるが、彼はその目を反らせた。


「そいつは、無理だ。あのお人たちは、藩主の命令がなければ動かない。動けない。正式に山賊討伐の命を受けて、それなりの武将が指揮をとるならいざ知らず、俺たちの言うとおりに動くなんて思えねえ。ましてや、他藩の、しかも商人であるあんたの命なんか聞いちゃくれねえんだろう?」


 クロウが、その藩士の言葉を代弁するようにそう言った。


「……そうだな。藩士様たちにも立場がある。無理はお願いできないな。だったら俺たちだけで、もっと人数と準備を揃えて、不意打ちをかけなければいけない」


 この頃になると、俺も冷静になっていた。

 冷静になった上で、ふつふつと、怒りと熱い思いがこみ上げてきているのを感じていた。


「……拓也殿も、本気で覚悟を決めてくれているようだな」


 そんな俺に対して、睦月はますます不敵な笑みを深めていた。


「……これ以上、被害が出るのを防ぎたいと思っているだけだ。それと、そのさらわれたって言う女の子のことも気になる。とりあえず、さっき言っていた奴らの拠点っていうのを、教えてくれないか?」


「なんだと? まさか……一人で乗り込むつもりか」


「乗り込むっていっても、無策で突っ込んでいくわけじゃないさ。奴らと戦うつもりもない。ただ、こそっと潜入して、あわよくばその子供を助け出したいんだ。仙術をつかえば、こっそりとなら実現できるかもしれない」


 数え年で八つと言えば、満年齢だと七歳か六歳だ。

 この時代、平均的に現代と比べて小柄だったから、体重が二十キロ以下、つまり俺と共に時空間移動できる可能性は高い。


 ということは、何らかの方法でその子供と接触することができたならば、一緒に現代へと瞬間移動することが可能なのだ。


 睦月が、俺の顔をまじまじと見つめる。


「……なるほど、本気でそうできると思っているようだな……無謀だからやめておけって言うつもりだったが、あんたがどれほどの仙術使いなのか、未だ底が見えない。だが、まだ具体的にどうするかは決めかねてるっていう顔つきだな」


 睦月は、如月と同じく、ある程度人の心が読める。

 彼の言うとおり、俺は「やれる」という自信はあるが、じゃあ、具体的にどうすればその女の子を助け出せるかの妙案は思いつかないでいた。


 というか、いくつか存在するという山賊団の拠点を、実際に見てみないと作戦すら立てられない状況だ。


「……ちょっと時間が必要だ。実際にその拠点の様子を見てみたいっていうのもあるし……何日かかけて準備しなければならない。奴らと戦う場合だって、同じだ。準備もいるし、段取りも考えないといけない」


「ほう……戦うことにもやる気を出し始めたようだな……」


 睦月が、さらに煽るように言葉をかけてくる。


「……俺は、戦いは嫌いだ。けど、親しくなった者が危害を加えられた、これからも加えられるかもしれない……そういう話なら別だ。その危険をなくすために、仙界の道具だって使う。ただ、相手の命を奪うような事まではしない。それが、俺が決めている戦いの決まり事だ。甘いと言われるかもしれないけど……この時代に存在しないはずの、後の時代に生まれた俺が、この時代の人を殺めることがあってはならない。それが自分に課した、もっとも重要な決まり事なんだ」


 この自らの制約に関しては、どんなことがあっても守るつもりだった。


「……俺にはよく分からないが、まあ、仙界にもそういう決まりがあるってことだな。あんたがそう決めているなら、それで構わない。俺たちに手を貸してくれれば、それでいい。どのみち、俺たちだけでも奴らを潰すつもりだったしな……」


 睦月も理解を示してくれた。


「……だが、確かに拓也殿の言うとおり、奴らとまともにやり合うには、人数が足りねえな。奥宇奈谷からの増援が必要だ。狩人衆の残りと、奥宇奈谷に前から残っていた腕の立つ若い衆。あいつらだって、山黒爺との因縁は知っているはずだしな」


 クロウが割り込んできた。


「因縁?」


「ああ。山黒爺は何度か、奥宇奈谷に軍門に降るように脅迫してきていたのさ。奥宇奈谷刀が目当てだったのだろうが……もちろん、そんなもの突っぱねたがな。何度か小競り合いもあったが、あんな奴らに俺たちが負けるわけがねえ。全部追い払ってやったんだ。だから奴らも知っているだろうよ、奥宇奈谷の武人の強さを」


 クロウはそう言って胸を張る。


「……そうはいっても、それは俺たちが奥宇奈谷に引きこもっていたときの話だ。守りに関しては、地の利を生かして鉄壁だったからな。こっちから攻めるとなると、立場は逆になる。まあ、ろくに鍛えもしていないあんな奴らなどにやられはしないと思うが……増援を頼んだとしても、数では不利だ。拓也殿、あんたの仙界の技に期待している」


「……わかった。戦おう……そして『山黒爺』を潰そう!」


 高ぶった気持ちを抑えきれない俺は、そう宣言した。

 そしてこれが、「奥宇奈谷大戦」の、事実上の開戦宣言だった。

 

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