拓也の回想 その5 ~おかゆと毛布~
俺を含む、全ての男達を怯えた目でしか見ることができなくなってしまった如月と皐月。
無理もない、自分たちが隠れている天井裏のすぐ真下で、いとこである弥生が、男達によって酷い目に遭わされていたのだから。
もし見つかったら、自分たちも同じ目に遭ってしまうという恐怖。
また、酷い目に遭っていた弥生に対して何もできなかったという自責の念。
そもそも、男とのそのような行為に対して、憧れすら抱いていたかもしれない彼女たちにとってそれらは悪夢でしかなく、心に大きな傷を負ってしまった。
時が経てば、あるいはその傷は癒えていくかもしれない。
しかし、今この時を、護衛として側に居てくれる狩人衆達と間近に過ごせないのは、それだけで問題ではあった。
ここで立ち止まっているわけにはいかない。
まず、老夫婦の捜索だが、これは狩人衆が手分けして村の集落一軒ずつを回ってくれた。
ただ、それもかなり困難だったという。
山賊たちは、このあたり一帯の集落に対しても、略奪を行っていたのだ。
収穫が終わったばかりの米も、荷車で持ち運べるだけ奪われてしまっていた。
年頃の若い娘の中には、乱暴された者もいるという。
抵抗しようとして、ケガをした者もいた。
あの旅籠が全焼させられたのは、「見せしめ」だった。
刃向かったなら、皆殺しにした上で焼き討ちしてやる……そんな脅しのために燃やされてしまったのだ。
なので、村人たちには狩人衆も山賊団の仲間ではないか、と警戒されてしまったのだ。
幸いにも、経営者である老夫婦は、同じく年配の夫婦の家で見つかった。
かくまわれた、というよりは、ケガをしていたので、単に寝かされていただけだった。
盗賊団からすれば、この二人は「どうでもいい」存在だったようで、見つかりはしたが、とくに興味も示さぬまま立ち去ったという。
弥生とこの夫婦は、泣きながら、お互いに生きていることで励まし合った。
何の罪もない旅籠や民家を襲撃し、若い娘に乱暴をはたらき、老夫婦に対して暴力をふるい、あげくに火を放つという、極悪非道な山賊たち。
悪名高き山賊団『山黒爺』の中でも特に凶悪な、シナド率いる一派の仕業だった。
すでに、村の若者の中でも特に足の速い男が、襲撃されたことを伝えに、松丸城の城下町まで報告のために向かっているという。
しかし、それでは時間がかかりすぎる。
とりあえず、少し狭いがその年配の夫婦が住む民家に娘三人も残ってもらい、周囲を狩人衆に護衛してもらって、俺はラプターで先に城下町へと時空間移動した。
一旦現代を経由しないと場所移動もできない。
時代を一往復すると、ラプターの再使用には三時間の待機時間を必要とする。しかしどのみち、被害状況報告や救助要請など、煩雑な手続きをしないといけないのでそのぐらいの時間はかかってしまう。
普通はそれでも役人が即時に動いてくれるものではないのだが、そこは東元安親殿というコネを使って、役人を十人ほど派遣してもらえることになった。
ここまででちょうど三時間ほど費やしたが、この時点でも、まだ昼には少し時間があった。
そこでもう一度ラプターを使用。
現代を経由するついでに、包帯や痛み止めなどが入った救急箱と、すぐに食べられるレトルトのおかゆなどの食料、それに毛布も三枚持って行くことにした。
山賊の再襲来を懸念していたが、俺が山賊に役人と間違われていたこと、狩人衆が来ていたこと、そしておそらく山賊たちの首領である「シナド」がケガをしていたことも幸いしたのだろう、その後特に村の様子に変わりはなかった……というか、普通に酷い状態のままだった。
俺が戻ると、狩人衆たちは安堵した様子だった。
今後どうすればいいのか、判断に迷っていたのだという。
あの怯えきった様子の姉妹を連れて、奥宇奈谷へ二、三日かけて戻るのは、不可能だ。
山賊たちの急襲の恐れも否定できない。
かといって、この村に長くとどまるのも、村人たちに迷惑がかかる。
いや、この村の護衛を兼ねるなら、むしろ喜ばれるかもしれないが、すれもずっと、というわけにはいかない。
しかし如月達はどうすればいいものか……。
そんなことを、クロウを中心として話し合っていたらしい。
また、睦月のことを探しに行けていないのも、かなり心配なのだという。
とりあえず、俺はケガをしている老夫婦に対して応急処置を施した。
打撲や擦り傷はあるが、手足が動かない、ということはなく、骨折の心配はないようだった。
痛み止めを飲ませ、レトルトのおかゆを食べてもらう。
如月と皐月にも、同じものを食べてもらった。
あんなショックな出来事があった直後なのだ、食べ物はなかなか喉を通らないだろう……そう思っておかゆにしたのだが、これは正解だったようだ。
朝から何も食べていなかった彼女だったが、なんとかこのおかゆは口にすることができ、一緒に現代から持ってきた毛布を敷き布団にして、姉妹で一緒に横になり、少し眠った。
心に傷、という意味では、弥生も如月たち以上だと思っていたが、彼女の場合、自分で言うように男に対して「耐性」が付いていたようで、以外とあっさりしていた。
それでも毛布を貸してあげると、やはりそれを敷き布団にして眠ってしまった。
ケガをしていた旅籠の経営者夫婦も、痛み止めが効いてきたのか、最後の一枚の毛布に横になり、すぐに寝てしまった。
この時代に毛布を持ち込むと、寝心地が良いからなのか、みんなすぐに寝てしまった――いや、そうではなく、全員極限まで気を張っていて、疲労困憊していたんだな、と思い直した。
そして昨夜の事件がいかに大変だったのか、あらためて実感したのだった。





