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身売りっ娘 俺がまとめて面倒見ますっ!  作者: エール
第18章 幻の桃源郷

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拓也の回想 その4 ~天井裏~

 弥生は、俺たちを案内してくれた。

 そこは、小さな神社だった。

 一応、拝殿は存在しているが、小屋と言ってもいいぐらいの大きさしかない。


 弥生がそこの扉を開けるが、誰もいない。

 神棚が祭られている手前のスペースは、一畳分ぐらいの空間があるだけだ。

 その神棚も壊され、崩れていた。


 俺たちが不審に思っていると、弥生は


「……二人とも、もう安心よ……前田拓也さんと、奥宇奈谷から狩人衆が五人も来てくれたから」


 と、声をかけた。

 すると、上方から、むせび泣くような声が二つ、聞こえてきた。


「……そうか、天井裏に隠れていたのか……二人とも、無事なのか?」


 俺はそう声を上げてしまった。


「……はい……今から降りていきます……」


 泣いているのでよく分からなかったが、多分如月の声だった。

 そして弥生には、なぜかもう一度外に出るように言われた。


 拝殿の裏側に回ると、そこは御神木から伸びる太い枝が、拝殿の屋根のすぐ脇まで伸びていた。

 二人は、ここをたどって、うまく天井裏に入り込んだようだった。


 事実、出てくるときはその逆の要領で、まず如月が、次に皐月が器用に枝を伝って降りてきた。

 浴衣は枝や幹にこすれて汚れ、破れていたが、大きな怪我はないようだった。


「……二人とも、木登りが上手なんだな」


 ショックを受けている二人の心をなだめようと、少しでも場の雰囲気が和むように冗談めかして言ったのだが、落ち込んだ表情の如月は真に受けて、


「はい、奥宇奈谷では男も女も、木登りが得意です。子供の頃、そのぐらいしか遊びがなかったですから……でも、それがこんな形で役に立つとは思いませんでした」


 と真面目に答えられた。


「……そうね……この建物、小さいけど高さはあるから、肩車しても天井には届かない。神棚はそんなに丈夫じゃないし……あの男達、まさか二人が木登りして、枝を伝ってこの建物の天井裏に隠れている、なんて思わなかったみたいなんです」


「そうか……弥生の機転、だったんだな……」


 俺がそう褒めると、如月、皐月の姉妹は、いとこである弥生に抱きついて、さらに泣き始めた。


「ごめんね、弥生姉さん……私、なにも出来なかった……ただ震えているだけだった……」


「私も……弥生姉さんがあんな目に遭っているのに、耳を塞いでじっとしてるしかできなかった……本当にごめんなさい……」


 如月も皐月も、嗚咽をこらえるように、必死に謝っていた。


「……いいの。二人が無事だったなら、私は平気。ああいうの、慣れているから。これでわかったでしょう、私の仕事がどういうものなのか」


 その弥生の言葉に、俺はぞっとした。


「……まさか、弥生、ここで……」


 俺と同じことを考えたのか、狩人衆の一人がそう口に出してしまった。

 すると彼女は悲しそうな表情をして、


「そう……二人が天井裏に隠れたのを見届けた後、私はお爺さんとお婆さんのことが気になって、戻ろうとした……ところが、この祠から何歩も離れないうちに、盗賊に捕まって、それでこの中に連れ込まれて……まあ、私はこの手の輩は下手に抵抗しない方がいいって知ってたから、言われるがままに、好きにさせた。すぐ上に隠れていた二人には、ちょっと刺激が強すぎたかもしれないけど……でも、約束通り、体を張ってでも守ったからね」


 弥生が、気丈にも笑顔を浮かべながらそう口にした。

 それを聞いた姉妹は、再び大泣きしながら弥生に抱きつき、「ありがとう」とか、「ごめんなさい」とか、いろんな言葉を投げかけていた。


 如月と皐月の居場所も、盗賊に問い詰められても最後まで「知らない」で押し通したという。

 そしてそのとき、天井裏でその様子の一部始終を聞いていた姉妹は、どんな心境だっただろうか……。


「……それで、睦月兄さんは……」


 皐月が、泣きながら顔を上げて周囲を見渡す。

 しかし、どこにも睦月の姿はない。


「……たった一人で盗賊を追いかけていったから、そのままずっと遠くまで追っていったのだったらいいんだけど……もし、待ち伏せされたり、下手に帰ってきて盗賊団と出くわしたのだったら、逃げていて欲しい……」


 弥生が祈るように呟いた。


「……心配するな、ハグレ、つまり睦月は強い。俺たちの中でも抜きん出て強いんだ……たとえ盗賊十人に囲まれたとしても、あいつならなんとか切り抜ける」


 狩人衆の中でも一際体の大きな、クロウという名の男がそう言って娘たちを慰める。

 どうやら、彼は弥生も含めて、娘達と親しいようだ。


「……だといいけど……盗賊の頭も来ていたようなので……」


「頭、だと? どんな奴だ?」


「まだ若くて、体も大きくて、頬に傷があって……仲間からは『若』とか、シ……なんとか、って言われていたけれど……」


「……まさか、シナドかっ!」


 狩人衆の間に緊張が走る。


「……そう、そんなふうな呼ばれ方だった」


 弥生の答えを聞いて、狩人衆は一様に苦虫をかみつぶしたような表情だった。


「シナド……そいつは一体、なんなんだ?」


 俺はクロウに確認した。


「……シナドは、『山黒爺』の分派の一つを束ねている、山賊団一の猛者だ。初代の頭の息子でもある。いくつも逸話があって、山賊団が別れるときのいざこざで、元仲間を何人も殺したっていう話だ。恐ろしく強いという噂だが……そいつは最初っからいたのか?」


 クロウが弥生にそう聞いた。


「いいえ……大分時が経ってからだった……。私のことも、『おまえらが手をつけた娘など興味はない』って相手にされなかったし、『残りの二人はどこだ』って聞いてたから、たぶん、如月と皐月のこと、探してたと思うけど……その人も、ちょっと腕にケガしてて、本気で探す様子でもなかったみたい」


「……シナドが、ケガ? ……そんなことが……いや、ひょっとしてハグレとやり合ったか。あいつならシナドと勝負できるかもしれない。けど、だとしたら、帰ってきていないハグレは……」


 ……場が、重苦しい雰囲気に包まれた。


「……いや、あいつはああ見えて賢い男だ。自分が勝てないと思ったら、逃げることぐらいはする。もちろん、逃げては駄目な状況だったら死に物狂いで戦うだろうが、シナドがいた時点で、罠だと気づいたはずだ……」


「……でも、その首領っていうのがケガをしたのだったら、戦ったってことでしょう?」


「ああ、そうだ。それで手傷を負わせたから、その場を逃れたのかもしれないだろう……そのうちひょっこり帰ってくるかもしれない。それよりも、今は旅籠の老夫婦の方が気になる。如月、皐月、とりあえず俺たちと……」


 クロウがそう言って手を差し伸べた時だった。


「ひっ……」


 二人は、怯えたように後ずさった。

 そして、ガタガタと震えていた。


「……怖い……みんな、怖い……」


 二人の目は、全ての狩人衆を怯えた目で見ていた。


 いや、彼らだけでなく、俺のことさえも――。

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「身売りっ娘」書影
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